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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第7章 折角のファンタジーなので性転換もやっておきたいですよね。
102/165

102. ずっといつかやろうと思ってました。

 ……くそ、どうしてこうなった。


『対するは、突如現れた黒仮面ソルル! 優勝候補をバッタバッタと倒し続けている謎の女剣士だ!』


 一時的な偽名を呼ばれ、仮面を着ける。体が重いのはそれなりに膨らんだ胸のせいだけではあるまい。

 どうやらこの姿は俺の予想を遥かに上回る人気を誇るようで、闘技場に入ると男性からの熱烈な応援だけでなく、女性の黄色い声も聞こえてきた。


「ふふふ、その仮面の下を見せればもっと凄いことになっていたと思うと、安心したような残念なような複雑な気持ちだよ」

「……生憎興味がないので」

「そうかい? 私だってもし自分が男であれば、などと何回も思ったくらいなんだけどね」


 やめてくれ。これも所詮は仮初めの姿なだけで心は今でも男のつもりなんだ、そっちは女のままでいてくれ。

 ……まあ、最近は心も揺れ始めていて、そろそろ本気で危ないのだが。


「ふふ、冗談さ。さて、貴女に弟子入りを認めてもらうためにも、全力で行かせてもらうよ」

「……はあ」


 こっちとしては約束した覚えはないし弟子をとるつもりもないのだが、この人は全く話を聞かないからな。


「両者構え! ……始めっ!!」


 はぁ、マジでどうしてこうなった……




 ―――――




 闘技大会に参加するためにスギア王国の王都に着いたのだが、予定より早すぎたためにまだエントリーも始まっておらず、各々自由に過ごしているのだが、今日俺はルオさんの魔導具開発に付き合っていた。

 シークレットなものなので、俺たちが泊まっている王都の教会で開発用として借りたこの部屋にいるのは俺とルオさんとリオーゼさんのみ。興味があるのか何名か一緒に居たがったが全員拒否である。

 というか俺ですらどんなものなのか教えてもらってない。


「では、最後にこれの魔力の付与をお願いします」


 ルオさんの指示通り、渡された手鏡のような魔法道具(マジックアイテム)に僅かに魔力を流して発生した特殊な魔力を【付与】スキルで開発中のものに付与すれば……


「よし、これで一先ず肉体変化の部分が完成です!」

「お疲れ様です、マスター」


 満足そうに喜ぶルオさんにリオーゼさんが飲み物を渡しているが、俺には一つ気になることがあった。


「まだ完成じゃないのか?」

「はい、以前にも言いましたが今回は魔法道具(マジックアイテム)が元なので、今完成した変化の部分の他に、肉体的・精神的苦痛の軽減と解除の部分を作って、あとは実際に『変化の遊戯場』で実験しながら細かい調整ですかね」

「……一つ作るのも大変なんですね」

「今回は工程が多いですからね、普段は苦痛の軽減や解除が最初からありますので。でも、私としてはとっても楽しいので大変ではないですよ?」


 そりゃ魔法・魔導具大好きのルオさんからしたらそうかもだが。


「ヨータさんにはまたしばらくしてから声をかけますね」

「分かった」

「それでは、今日はあり――きゃっ!?」

「へっ?」


 礼をしようとしたのか立ち上がろうとするルオさん。

 しかし、ずっと座って作業していて体が思うように動かなかったのか、その体がよろけて机の方に倒れる。

 その手は完成したばかりの、色をそれっぽく塗ればまさしくSFに出てきそうな光線銃になる魔導具の元へ。

 銃口は、ルオさんの隠れドジっ娘属性を忘れて油断していた俺に向いていた。

 発射された光線は当然そんな俺に当たり……


「んがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ヨータさん!」

「陽太さ――!? 放してっ!!」

「ダメです! 近付いたらもっと危ないです!!」


 いたいイタイ痛いイタイ痛いイタイイタイいたい痛いイタイ痛い痛いいたいいたいイタイいたいいたい痛いイタイ痛い痛い痛いイタイいたいイタイ痛い痛いイタイいたいいたい――




 後で思い返しても一瞬全身に激痛が走ったことしか覚えてないが、叫び声を聞いて真っ先に駆けつけてくれたらしい小夜曰く、すぐに声は出さなくなったが気は失ってなさそうでただつらそうであり、ルオさんに力尽くで止められていなければ飛びかかって抱きついていたそうだ。

 そして俺の体が浮かんだかと思うと目を開けていられないほどの強烈な光を発したが、俺はその時も苦しんでいたそうだ。

 ……見えないし声も出てなかったんだよな? 小夜はどうして分かったんだ?

 それは置いといて、俺の次の記憶はこの光が収まった直後からだった。




 地面に足が着き、ふと我に返る。

 確か……魔導具が完成して、ルオさんが転んだ拍子に間違って俺に発動して……

 体がめっちゃ痛かった気がするが、そのせいか体が鈍く、頭も少しぼーっとする。


「よ、陽太さん……?」


 突然聞こえた声の方を見れば、ルオさんと小夜が目を見開いて俺を凝視している。リオーゼさんもこっちを見ているが相変わらずの無表情だ。


「どうし……ん?」


 ……俺の声ってこんな高かったっけ? ヘリウムで無理矢理高くなった声じゃないな。


「あーあー、あ~?」


 何度発声しても出てくるのは聞き慣れない高い声。

 喉に手を当ててみるが……なんだろう、何か物足りない。しばらく首を触っててようやく気付いた。


「あ~、喉仏がないんだ」


 ついでに首が少し細くなってる気もするな。


「……ん? 喉仏がないって何?」


 これまた気付くのが遅れた、普通喉仏がなくなるわけねえだろ。

 不安になってきて自分の体を確認しようと頭を動かした瞬間、何かに引っ張られるような感覚があった。

 頭に触れば当然そこには髪。嫌な予感がしつつも指を通していくと……


「何これ、超長い」


 心なしか指通りが良くなっている俺の髪は、腕を動かした感じ肘くらいまでだろうか、どうであれ元よりはかなり長くなっている。


「まさか……」


 この時点でようやくその可能性に気付き、焦りが増していく。

 下を見れば膨らんだ胸。服が一緒に押し上げられてるせいで下が見えないが、逆に服がなかったら見えたであろうくらいの大きさだ。

 股間に意識を向ければあるはずのものがないことが感覚で分かってしまい、それに気が付いてしまうと何故今まで気付かなかったのか分からないほどの違和感に襲われる。恐らくは鈍っていた感覚が戻ってきたのだろう。


 ここまでの事実、そして体の感覚から導き出される答えは一つしかないが、一旦保留して一縷の望みに託す。

 何故なら俺は幻覚を見ているかもしれないからだ、あとは客観的な意見に賭けるしかない。


「な、なあ小夜、俺、今、その、もしかして……お、おお、女に、なってる?」

「はいそれはもう物凄い美少女ですホントありがとうございます」


 何故流暢になっているのか、何を感謝されてるのかなんて気にすることもできずに、意識が遠くなった。




「『反転の魔鏡』ねぇ」


 夢だったなんてオチなわけもなく、この手鏡には見知らぬ女性が映っていて、これが俺だと理解させられた瞬間はデストロイドな気分だった。

 更にはスマホに表示されるアイコンまでこの姿――服やポーズは元と一緒――になっていて鏡と比べるまで誰だか分からなかった。

 因みに当然体型も変わっているが、サイズ自動調整のおかげで服は別に苦しくない。


「これを使えば元に戻れる、って簡単な話じゃないんだよな?」

「はい、元々何が反転するかは毎回違いますので。それを――省略――してどうにか性別を指定することに成功したんです」


 もう開発の過程なんて聞く気にもなれない。

 ルオさんは机の上に置いてある眼鏡をかけ、俺に視線を向けて続ける。


「それに……どうやら反転させるのは微量ながら身体に負荷をかけるようです。今は大丈夫みたいですが、反転を重ねるとどんな後遺症があるか分かりません。ですので解除部分が完成するまでお待ちいただけませんか?」

「えっと、それはいつまで……?」

「……申し訳ありませんが、闘技大会には間に合わないです」

「マジでか……」

「大丈夫です! 今の陽太さんすっごく可愛いですから!」


 小夜、どうしてそんなにテンション高いのか知らないけどその慰めは追い打ちだぞ?


「まあ、いつか『変化の遊戯場』に取り入れられるんだ、性転換しちゃったものは仕方なく受け入れるとして……問題は他の奴らの反応なんだよ」

「え? ……あ~、確かに」


 小夜も理解してくれたようだが、優しく受け入れてくれなさそうな奴が数名ほどいる。

 因みに現在スマホの中でキュエレが大爆笑中である。ふざけんなよこいつ。


「流石に隠し通せはしないだろうし話さなきゃいけないんだろうが……あ~やだ、考えるだけで鬱になりそう」

「ご主人!」


 ……最初はカルーカか。


「悲鳴が聞こえた、ですが……ご主人、その姿は?」


 焦った様子から一転、きょとんとして首を傾げて尋ねてくるカルーカ。


「……あれ、俺だって分かるのか?」

「はい」

「流石、獣人、ですね」

「え~と、それもある、ですが、ぼくの場合、影武者対策に変装・変身は見抜く技術を仕込まれてるのと、奴隷は主人が分かるようになってることも、ありますね。百パーセントご主人、です」


 それは凄いが……ところで。


「そういえば、お前『悲鳴が聞こえた』とか言った割に来るの遅いな?」

「っ! ……そ、それは……その……」

「正直に言え」

「おやつの途中だったので……」

「そうか」


 俺がにっこりと微笑むと、目を逸らしていたカルーカが希望を見た表情になる。


「ご主人……許してくれる――」

「明日おやつ禁止な」

「にゃっ!? 待って! ご主人、ご慈悲を!!」

「ダメだ。ほら、さっさと部屋戻れ」

「う~、ご主人のバカ~~!!」


 正直、あいつ隠れて食いそうだな……

 こうしてカルーカを部屋に戻した後、次に教会に帰ってきたのはロティアとヨルトスだった。


「え~と……サヤちゃん、こちらは?」

「陽太さん、です」

「は? ……いやいやサヤちゃん、こんなトップクラスの美少女がヨータなわけないでしょ。確かにヨータの魔力は感じるけど、魔力を複製して同じ服を着せただけって方が信じられるわよ」


 まあ最初はそうなるわな。

 だが、俺には証明方法がある、というわけでロティアの近くに転移。


「えっ!? ……嘘、まさか、ホントに?」

「ああ、色々あって女になっちまった」


 ユニークスキルを使ってみせれば流石に信じないわけにはいかなくなったようだが、それでも二人は珍しく目を見開いている。

 ここで事情を説明すると簡単に納得してくれた。


「なるほど、それなら分かるわ」

「やけにあっさり受け入れるんだな」

「『変化の遊戯場』絡みじゃね。その魔法道具(マジックアイテム)のダンジョンも聞いたことあるし、細かい仕草がちゃんとヨータのものだったし、もう否定する方が難しいわよ」

「仕草って凄いなお前」

「……それにしても」

「うおっ」


 いきなりロティアが顔を近付けてくるもんでびっくりした。


「どうしてこんな美少女になったのかしら。容姿はランダムなの?」

「そ、そこまでは聞いてないな」

「ふ~ん。それよりも……」


 な、なんだ、寒気が……


「元男のくせに私より胸が大きいなんて、度胸があるわね」

「ひぃっ!」


 やめろ、手をワキワキさせるんじゃない! あと心は今でも男だから!


「さ~て、揉み心地チェックしなきゃ、ね?」

「く、来るなぁ!」

「ぎにゃぁっ!!」


 お、思わず強めに殴っちまった。吹き飛んで壁に衝突したロティアが痙攣している。

 女になって弱体化した、みたいな定番の流れはなさそうだな。


 目覚めた時に再暴走しそうなロティアをヨルトスが縛って小夜と一緒に部屋に運んでいった後、次に来たのは善一(よしかず)とサリーさんだった。


「……あなたは?」

「魔力と服装はヨータ殿のものだが、彼は男性のはず……」

「不安が混ざってるけど心の色の基盤も似てるし、ピアスの色も見える……まさか、本人?」


 戸惑いと驚きこそあったもの、事情を説明するとこの二人はちゃんと受け止めてくれた。


「そういえば珍しい組み合わせだな」

「たまたますぐそこで会っただけだよ」

「あ、あとルオさんが帰ったら来るようにって言ってた」

「リオーゼのことかな。ありがとう、行ってくるよ」


 しばらく待っていると、今度はネージェさんがフェツニさんの首根っこを引きずって入ってきた。

 俺を見たネージェさんが首を傾げる。あまり表情は変わってないが他の人と同様に俺であって俺でないものを見て困惑しているのだろう。


「……?」

「これはこれは美しいお嬢さん。今晩お食事でもどうかな」

「ちょっと黙ってて」

「がっ!!」

 

 一瞬で俺に目の前に現れたフェツニさんだが、例によってネージェさんに叩きのめされた。

 正直背筋が震えたぞ一瞬。……でも、ほぼ最初から眼中にない、そんな視線だった気がする。なんというか、女の子がいたから声をかけた的な、誰でも良かった的な? よく分からねえや。


「あなた、何者?」


 おっと、少し考え込んでいたら先に話しかけられてしまった。

 事情を説明すると、フェツニさんは爆笑を始めた。『俺、男に声かけたのか……』的なリアクションはないんかい。欲しいわけでもないけど。


「ドンマイ」

「……どうも」


 ネージェさんの謎の慰めを雑に流すと、二人は部屋に戻っていった。

 続いて帰ってきたのは人為(ひとなり)さんとニルルさん、ハルカの三人組だった。

 人為さんとニルルさんは他の人と同じように最初は困惑しつつも優しく受け止めてくれた。


「TSキター!!」


 ただし、ハルカのテンションは異常に上がった。

 根掘り葉掘り感想を聞いてこようとしたが、人為さんが軽く諫めて連れていき、ニルルさんはルオさんに詳しい話を聞きに行った。


「あとはヴラーデね」

「……ロティア、いつの間に」

「ねえ、ちょっとイジワルしてみない?」


 ……断っても無理矢理させるだろうに。

 と言っても無駄なことは分かっているので、溜め息を吐くことしかできなかった。

次回予告


小夜  「普段の陽太さんもカッコいいけどこっちの陽太さんも最高に可愛い……あっそういえば女性になったということは女性としての生活を教えてあげる必要があるよね、これは今までの男性と女性ではできなかったあんなことやこんなことをする大チャンスなのでは? でも抜け駆けしすぎるのも良くないしヴラーデさんも入れて、最終的には……ふふふ、『小夜、ヴラーデ……俺、なんか変なんだ。今まではこんなことなかったのに、なんだか体が熱い……』『大丈夫ですよ、女性なら普通のことです、私たちがまた優しく教えてあげますね?』なんて言って、皆が寝静まった深夜に三人で……きゃーっ!!」

ロティア「サヤちゃんの症状も進んできたわね……もうそろそろ誰も制御が効かせられなくなるんじゃないかしら……」

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