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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第6章 いよいよ勇者と共に出発の時です。
101/165

101. 決着は時にあっさりとしたものになります。

 こっちが全力で走ったせいで失った体力を回復する間、向こうも自分のダメージを治していたんだろう。

 そうじゃなかったら疲れきった俺たちを攻撃してるだろうし。

 完全復活したケルベロスはこちらを睨んでいた。


「やはりあの自己再生能力が厄介ですね……」


 人為(ひとなり)さんの言う通り、あの再生能力を超える攻撃をしないといけない。


「とは言ってもな……ケルベロスって弱点とかあったっけ?」

「すみません、知らない、です」

「僕も」

「聞いたことがあるような気はするのですが……」


 残念、日本人全滅。


「ふっふっふっ……お困りのようね……」


 聞き覚えしかない声に『そ、その声は!』などという茶番をやる気にもなれず、後ろを振り向くと顔に片手をあてて中二病っぽいポーズをしたハルカがいた。


「お前いつの間に起きてたんだ」

「今さっき」

「あっそ」

「それよりも、ケルベロスの弱点といえば……」

「いえば?」

「……………………」


 ……どうして間を無駄に長くするのか。


「あの、手短にお願いします」

「あ、ごめんなさい」


 相変わらずハルカは人為さんに弱かった。


「ケルベロスの弱点といえば音楽と甘いものよ」

「音楽……って、楽器は?」

「あるぞ」

「あんのかよ」


 フェツニさんが次々と木管楽器や打楽器を取り出す。何でも持ってるなこの人。


「でも俺演奏なんてできねえぞ?」


 強いて言うなら学校で習う最低限の教養しかない。帰宅部なめんなよ。

 他の人にも確認をとったができる人は半分もいなかった。流石に今から各楽器の使い方を覚える暇なんてない。


「陽太さん、スマホには、曲を、入れてないんですか?」

「あっ、忘れてた。ルオさん、音楽の再生機能だけ今すぐ復元は……」

「すみません、今すぐはちょっと……」


 というわけで音楽は却下となった。


「そうすると頼れるのは甘いものですが……」

「あの巨体に見合う量を考えるとね……」


 一応買い置きがポーチに入っているが、それでも足りるかどうか。


「とりあえず一個あげてみない?」

「そうだな」


 ポーチからいつどこで買ったかも覚えてないお菓子を取り出して、ケルベロスめがけて投げる。

 ケルベロスからすればかなり小さいもののはずだが、両端の頭が揃ってお菓子の方を見た。


「お?」


 そして、そのまま食べようとするが……真ん中にあるロッピーニの頭が邪魔でどちらも食べられず、開いていたロッピーニの口にホールインワンした。

 元貴族として舌が肥えてるのかあまり満足してなさそうに喉に通すのを、どこか呆然として眺めるだけの両隣。

 俺たちもどうなるかと緊迫した様子で見守っていると……


「ガァッ!!」

「グアァッ!!」

「グルルルル……」


 三つの頭が喧嘩を始めた。

 言葉は分からないが、両端の頭が怒っているのをロッピーニが鬱陶しそうにしている。


「えーっと……」

「……今のうちに僕は一撃で倒す準備をしますね」


 正直効果抜群なのは予想外だったので、人為さんの声が聞こえるまで思考が停止してしまった。




 人為さんが聖剣を掲げて静止している。

 光を溜めているらしいので、俺はレンズを複数作って太陽光を反対側からも当てる。

 レンズは空間を歪めて作るので魔力消費が多いが、直接空間を繋げるよりはマシだ。

 他の皆は喧嘩を続けているケルベロスを見張ってくれている。


「皆さんありがとうございます。下がっていてください」


 数分後、光を溜め終わったらしい人為さんが言葉を発する。

 聖剣は今や直視できない程明るい光を放ち、長さも十数倍に伸びている。

 それがゆっくり振り下ろされると、未だ喧嘩中でこちらに気付く様子もないケルベロスが光に呑まれた。


「うわぁ……」


 思わずそんな感想が漏れるくらい、光の剣が振り下ろされたところには何も残らなかった。

 ケルベロスの巨体はおろか遠くの木まで消滅しており、直線状なこともあって新たな道を作ってしまったかのようだ。




 その後、一旦王都にケルベロスの報告をして再度出発。

 届けた奴隷たちは教会が預かり、順次信頼できるところに移していくそうだ。


「結局、協力者も、ケルベロスの、正体も、不明ですね」

「そうだな。なんだったんだろうな」


 道すがら小夜が言った通り、分からないことだらけでモヤモヤする終わり方ではある。


「協力するメリットがある人は王都にはいないって話だけど。ケルベロスとかいうのも誰かが秘密裏に飼ってた形跡もないし」

「……どう調査したのかは聞かないでおきますが、その通りです」


 謎の情報網を持つロティアや聖女として情勢を把握しているらしいニルルさんもお手上げ。


「そもそも、仮に襲撃に成功したとしても、逆に勇者を殺したとして自分とロッピーニが追われる身になるのは間違いない」

「つまり、協力者の目的は襲撃にはないということになりますが、その目的が絞り込めなくなってしまうのが現状ですね」

「それに目的によっては敵なのか味方なのかすら分からなくなるんだよね……」


 サリーさん、人為さん、善一(よしかず)も諦めムードだ。


「もう終わったんだからいいじゃないの」

「そうだぞ、あれこれ悩んだってどうにもならねえよ。敵が来たら倒しゃあいいんだよ」


 大してお気楽そうなのがヴラーデとフェツニさんだ。

 確かに今は深く考えようとしても情報が足りず、結局は徐々に話題に出なくなっていった。




 その後はしばらく平和だったと思う。

 ある時は村を魔物の群れから守り通し、ある時は違法行為をしている貴族を捕まえ、ある時は盗賊を一網打尽にするなど、いかにも勇者っぽいことをしているが、どれも大した苦労なく終わっている。

 そしてその全ての場所で最後に人為さんが女性に告白されては巧妙に受け流すまでがテンプレ。

 時々偽の勇者一行なんじゃないかと疑われることもあったが、一応見た目は美少女のハルカが説得するとあっさり受け入れてくれた。チョロすぎだろ。


 宿に関しては、教会があるところではそこに泊めてもらうが、ない場合は当然宿に泊まることになる。

 部屋割だが、聖女の役目ということでまず人為さんとニルルさんが一緒になり、そこにハルカが強引に割り込んだ。

 残りの男性四人で一部屋確定、女性は八人いるので小夜、ヴラーデ、ロティアと『奴隷だから』と俺たちの部屋に入ろうとしていたカルーカで一部屋、残りの四人で一部屋となった。

 当然部屋に余裕がなかったりすれば臨機応変に対応している。


 出発は夏の半ばだったが、秋になる頃にはスギア王国に辿り着いた。

 今まで魔法メインのトーフェ王国にいたせいか、ドワーフや近接戦が得意そうな人の割合が多い光景に少しテンションが上がった。


「それで、今度は何だっけ?」

「はい、ヒトナリ様と他数名の方に王都で行われる闘技大会に参加していただきます」


 スギア王国に入ってからもしばらく経ち、なんとなくニルルさんに次の予定を聞くとそう返ってきた。

 なんでも、教会主催で勇者杯なるものを毎年開催してるらしく、旅立ちの年は勇者が参加するのが恒例行事となっているとか。


「当然ですが、この国の特色に従って近接戦のみとなっております」

「俺は一応出れるな」


 普段はルオさんの魔導剣を使っているが、ルナとの訓練の時には普通の剣を持たされたこともある。全く当たらなかったけど。


「私は、銃なので、無理ですね」

「僕もパス」

「ハルカちゃんとトーフェ組もアウトね。武器だけで闘うのは慣れてないし」

「それと、過去にトラブルがあったため奴隷も出場禁止となっております」


 ニルルさんは聖女という立場上参加不可らしく、ルオさんとリオーゼさんも当然出ない。

 となると……


「うむ、我々四人で力を尽くそうではないか!」


 ホント純粋な前衛少なすぎだろこのパーティ。


「あれ? サリーさんは魔法で槍出してるよな?」

「そうだが、当然普通の槍でも戦闘できるようにはしているぞ?」


 ロティアも言ってたが、トーフェ組は武器だけというのは少し不安がある。

 炎の剣を使うことがあるヴラーデも普通の剣はほとんど持ったことがないらしいし、ロティアとヨルトスも魔法と武器を上手く合わせるタイプだが魔法なしで闘ってるのは見たことないな。

 その辺どうなのかサリーさんに聞いたつもりなのだが余計なお世話だったようだ。


「陽太さん、応援、してますね?」

「そうね、頑張りなさい!」

「ご主人の勇姿、見守って、います!」

「おう、ありがとな」

「いっそ勇者も倒しちゃいなさい、私が許可するわ」

「……何言ってんのお前」


 ロティアにそんな権限ねえだろ。あと実力的にも厳しい。


「人為様、ぶっちぎりの優勝期待してるから!」

「はい、最善を尽くします」

「ニルル、毒の用意はオーケーよね?」

「……(わたくし)をなんだと思ってらっしゃるのですか。聖女として不正行為は一切致しませんし見逃しもしませんよ?」

「ちっ」


 向こうではハルカが悪巧みしていたが、ニルルさんがきっと止めてくれるだろう。


「フェツニ」

「ん、どした?」

「武器、投げる、ダメ、オーケー?」

「わ、分かっとるわ! わざわざジェスチャーとか片言とか使わんでいいから!」

「ならよし、頑張って」

「……任せとけ」


 一方、フェツニさんはネージェさんにからかわれていた。

 あれは言われなかったら投げてたな、絶対。


「では私は新しい魔導具の開発に取りかかりましょう。ヨータさんには必要な時に呼びかけますので」

「了解。今回は何を?」


 この旅の途中、ルオさんは新しく仕事を受ける他、趣味としても魔導具を開発している。

 【付与】のために俺も少し手伝っているが、時々何を作っているのか全く分からない。


「まず、マサシさんに頼まれた『変化の遊戯場』の新しいアトラクション用のものですね」

「……あそこって変化は中だけだったような。開発は外でもできるの?」

「いえ、今回は特例です。あるダンジョンで見つかった魔法道具(マジックアイテム)を元に開発するので、一度作った後に外で使えないようにしないといけないんです」

「なるほど。因みにどんなものを?」

「う~ん……あまり漏らしていい話ではないのでここでは言えないですね」

「あっ、すいません」

「いえいえ」


 ここで無理やりにでもどんなものか聞いておけば良かったのだろうか。

 今回ルオさんが作るというこの魔導具。これのせいで俺がある意味人生最大のピンチを迎えることを、当然この時は知る由もなかった。

次章予告


陽太「え、何、俺どうなるの?」

小夜「大丈夫です、何があっても、私としては、オールオッケー、です」

陽太「その信頼が逆に怖いんだけど!? ホントに大丈夫だよな!?」

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