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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第6章 いよいよ勇者と共に出発の時です。
100/165

100. ケルベロスもどきと闘いましょう。

 その咆哮は木々や地面だけでなく、俺たちの体も震わせる。

 ビリビリという感覚は体を痺れさせるどころか、むしろ興奮させていた。

 体が、細胞が、本能が、叫んでいる。


 あれと、闘いたい……!


 ……いやダメだ! 何を考えてるんだ俺は!


「ご、ご主人……」


 剣を持っていない左手で笑みが浮かんでしまう顔に当てて闘争本能を抑えようとしていると、カルーカが昂った声で話しかけてきた。


「ぼく、もう我慢できない……!」

「待て! 行くな!!」


 主である俺の指示を無視してカルーカがケルベロスの方へ走る。

 このままでは返り討ちになりそうなので、俺も暴走しないよう気を付けつつユニークスキルで強制的にこっちに戻す。


「あうっ!」


 転移したことでバランスを崩してうつ伏せに転んだカルーカを上から押さえつける。

 その際にダメ元で頭を撫でてみたのだが、意外と効果抜群だった。


「もう大丈夫、です……すみません、でした」

「いやいいさ。俺も今割と必死だし」

「よ、陽太さん……」


 今度は小夜か。

 カルーカを解放すると、小夜は正面から俺に抱き付いてきた。


「……へ?」


 そして頭を俺の胸に当てて思いっ切り息を吸うと……


「陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん陽太さん――」


 え、何これ呪い?

 息継ぎもなしにひたすら連呼されたのは果たして十秒か、一分か、はたまた一時間か。

 満足したのか、小夜は連呼を止めて一度深呼吸すると俺から離れた。


「……落ち着きました、ありがとう、ございます」

「いや怖いわ!」


 夢に出てきそうなんだけど!


「今夜、陽太さんの夢に、お邪魔しますね?」

「だから怖いって!」


 どこぞの都市伝説か!

 ……だが、俺も落ち着くことができた。恐怖心によるところなのが納得いかないけど。


「そうだ、皆は!?」


 周りを見渡そうとした俺の視界には、膝を着いて自分の体を抱いているヴラーデが入った。


「ヴラーデ、大丈夫か!」

「あつい……あつい……」

「おい、しっかりしろ!」


 目の焦点も合わずに何かを呟くヴラーデの肩を叩く。


「っ!? 熱っ!!」


 肩に触れた手に痛みが走り、数瞬経ってそれが熱によるものだと気付いた。

 魔法を無意識にでも使ってるのか? 魔力は感じれないが……


「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、火傷とかはしてない」

「あつい……もやす……ぜんぶもやす……」


 物騒なことを呟き始めたヴラーデだが、発せられる熱のせいで触れない。ここは物理的に頭を冷やしてもらおう。


「おい、ロティア!」

「何? 私だってきつ――」

「ヴラーデを冷やしてくれ!」

「はあ? ……あっ!」


 一度は不機嫌そうに俺を睨んだが、ヴラーデに目を向けた途端に慌て始めた。

 隣にいたヨルトスも今気付いたのか珍しく驚きの表情を見せていた。


「しまった、私としたことが……」


 そのまま簡単な【水魔法】を唱えてヴラーデに水をかけるが、その水はあっという間に蒸発してしまった。

 しかし効果はあったようで、水蒸気の中でヴラーデは目をパチクリさせて周りを見渡している。


「あれ? 私何して……っていうか何この煙、というか湯気?」


 記憶は抜けているようだが正気に戻ってくれたようなので良しとしよう。

 今の現象について詳しく聞きたいところだがそんな場合ではない。


「ヴラーデ、ロティアたちを見ててくれ!」

「え? ……ちょっ、ロティア大丈夫!?」

「あまり大丈夫じゃないから、気休めだけど【回復魔法】をかけてもらえる?」

「分かったわ!」


 次は……


「おいネージェ! もう目ぇ覚めた! 覚めたから! 叩くのやめて!?」

「ダメ。このまま普段の女好きも叩き潰す」

「今そんな場合じゃないだろ!? お前が暴走してねえか!?」

「いっそずっとこのまま……」

「聞いてねえ!!」


 何やってるんだあそこは。

 【糸魔法】で手首と足首をまとめて縛られて宙ぶらりんなフェツニさんの頭を、ネージェさんがひたすら杖で殴っている。

 ……見なかったことにしよう。


「さて、あとは……」


 ニルルさんは何故か気を失っているハルカを荷台に乗せているところで、人為(ひとなり)さんとサリーさんがケルベロスと戦闘中だ。

 あまり攻撃はしかけず、回避に専念しているように見える。二人共暴走はしていないようだ。

 俺たちが回復するまで気を引いててくれたのだろう。


「じゃあ俺たちも加勢を――」

「お待ちください」

「ニルルさん?」

「ヨータ様は、こちらで奴隷たちを守りつつ後方支援をお願いします」


 ああ、【空間魔法】ね。俺も前に出たいが見捨てるわけにもいかないし仕方ないか。

 他のメンツもほぼ魔法メインだし、追加で前に出るのはカルーカだけになった。


「あの、ネージェ様。フェツニ様を下ろしてあげてください」

「……チッ」

「へぶっ!」


 ……まああの体勢で落とされたら着地できないよな。

 というわけで前衛もう一人追加、ニルルさんが【聖魔法】による補助魔法をかけてくれた。

 地味に初めての体験なのだが、魔力が活性化したというか体の巡りが良くなったというか、自然と魔力がいつもより上手く扱えそうな気がする。不思議な気分だ。

 というか今更だけど後衛多すぎだろこのパーティ。正確にはどちらもできるのが多いのは分かってるんだが。




 前衛が増えたことで本格的に攻撃も始めているが、武器も魔法もケルベロスの巨体のせいで傷は浅く上手くダメージを与えることができない。

 ネージェさんの【糸魔法】でもあの巨体は縛れないそうで、俺の【空間魔法】でも重量に伴うパワーには勝てなかった。

 しかも再生能力まで持ってるらしく、傷が少しずつ治っていってる。

 向こうの攻撃は主に手足での打撃、たまに炎のブレスのみ。四人共上手く避けているし、炎のブレスがこちらに来ても十分【空間魔法】で防げる程度の威力だ。


「う~ん、ジリ貧。体力を考えるとこっちが不利か」


 強い魔法を使ってもいいんだが、それでもダメだった場合に魔力が少なくなった俺たちじゃ現状維持が厳しくなってしまう。


「ユニークスキルは使わないの?」


 炎を飛ばしながらヴラーデがニルルさんに問う。


「打撃と見せかけて掴まれたりすることもありますからね。例えばそのまま遠くに投げられた場合に対応ができません」


 なるほど。地面に落ちたりとかのダメージは返せるかもしれないが、ここまで戻ってくるのは大変だろう。


「ブレスは論外です。服が燃えてしまいますから」


 ……確かに裸にされる勇者とか見たくないな。

 何でも返せるのにどこででも使っていいわけではない、というのは面倒そうだ。


「でも、そうするとどうすれば……」


 戦闘を見守りながら考えていると、その向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

 ……忘れてた。この先で合流予定だったんだが色々あったからな。


「ケルベロス? ……真ん中の頭が変だけど」

「うわぁ、大きいですねぇ」


 善一(よしかず)は緊迫しているが、ルオさんはお気楽そうだ。

 リオーゼさんが何故か契約者と一緒に転移できないため――ルオさんは自律していて持ち物と判断されないからだと推測していた――俺たちを追うことになっていた。

 遅いような気もするが、残党狩りでもしていたのだろうか。


「そちらのお三方! 王都まで戻って増援をお願いしていただけないでしょうか!」


 そういえば、そもそも全員がここに留まっている理由は、次の町まではまだ遠く、王都に戻るにはケルベロスが邪魔だからだ。

 そこに王都側からあの三人が現れたのなら確かに王都に向かってもらうべきだ。


「なるほど、あちらだとどちらにも動きづらいですね。分かりました! 行ってきますね!」


 ルオさん、そこは大声で返事してほしくなかったよ。

 ケルベロスがルオさんたちに気付いてしまい、前足を振り上げる。


「……あら、やっちゃいましたね」


 そんな状況でもルオさんに焦りはない。

 前衛四人は間の悪いことに助けに入れない位置にいる。


「でも、リオーゼに手は出させませんよ!」


 もうダメかと思われたが、振り下ろされた足は途中で止まった。

 ルオさんがいつの間にか持ってるもので受け止めているが、あれは……ハンマー? 

 足を受け止めているのとは逆側がジェットエンジンのようになっている。


「むむ、なかなか重量がありますね……なら、バースト!」

「ガァッ!?」


 ハンマーのジェットが強くなり、足を押し返すどころか……


「嘘だろ……」


 ケルベロスの体ごと宙に浮かせた。

 【空間魔法】による壁でも歯が立たなかった巨体を簡単に浮かせた光景に一瞬呆然としてしまったが、すぐに気付いた。


「あれ、まさかこっち来てる……?」


 位置的にはルオさん、ケルベロス、俺たち。ケルベロスは真上ではなく斜めに飛んだ。巨体に比べると遅く見えるがなかなかのスピード。

 そしてルオさんのドジっ娘体質、この嫌な予感。導き出される答えは一つである。


「全力で走れええぇぇぇっ!!」


 転移を使うと契約者でない奴隷たちを見捨てることになるので、全員で前に荷台を押しながら全力疾走。

 ケルベロスが落ちると同時、すぐ後ろから大量の土埃が押し寄せてくる。

 気付いたのが早くて良かった。一瞬遅かったら見捨てることになってたとこだった。


「げほっげほっ」

「目が……」

「ぜぇー、はぁー……もう、無理……足が……」


 怪我こそないが、土埃のせいで目や肺にダメージを受けたり全力疾走のせいで息切れを起こしてたりしている。

 ルオさんに悪気がないのは分かっていても今のは恨まずにいられない。


「え~と……ご、ごめんなさい」

「それにしても……あれを吹き飛ばすとは流石だな、ルオ殿」

「いえ、この魔導具のおかげですよ」


 前衛だったため巻き込まれなかったサリーさんが感心の言葉を送る。


「失敗作なんですけどね。【火魔法】の[爆発(エクスプロージョン)]を利用しているのですが、パワーが強すぎて私たちみたいなドワーフでもないと腕が持ってかれてしまうので」


 何それ怖っ。


「しかし毎度のことだが勿体無いな。魔導具使いとしても十分活躍できると思うのだが」

「いえ、私は魔法に憧れてるだけですから。自衛はしても自分から積極的に戦おうなんて思いませんよ」

「自衛ができるだけでも凄いことなのだがな……普通は護衛を雇うものだぞ?」

「お喋りはそこまでにしましょう。まだ終わっていませんよ?」


 人為さんが二人の会話を止めて示した先では、大量だった土埃が晴れて無傷のケルベロスが姿を現すところだった。

次回予告


陽太 「再生能力が厄介だし、これは長期戦になりそうだな」

ハルカ「次回でこの章ラストだって」

陽太 「……どうせならちょうど百話の今回をラストにしとけよ」

ハルカ「あたしに言わないでよ」

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