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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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1. 目が覚めたら、そこは異世界でした。

 ――目が覚めたら、そこは洞窟だった。




 っていやいや待て待て、そこは見知らぬ天井だろ……じゃなくて、なんだここ、どうしてこんなところにいるんだ。


 如何にも洞窟の小部屋ですって感じの場所で、壁には火が灯った燭台、均された地面には半径一メートルくらいの魔法陣。この時点でおかしい、なんだよ魔法陣て。


 半ば思考が停止し立ち上がるのも忘れたまま後ろを見れば、人が余裕で通れそうな大きさの穴――おそらくここの出入口があり、そして魔法陣から少し出たくらいでうつぶせに倒れている人物。ローブで体型が見えないがその上で白い髪が長く伸びているし女性だろう。


 この人も十分怪しい。

 まずおそらく腰であろう位置まで真っ直ぐ伸びている真っ白な髪。まあ白い髪はネットの記事――アルビノっていうんだっけ――とかで見かけることがないこともないので目をつむろう。

 しかし格好がアウトだ。黒、というか黒に近い濃い紫のローブ。その下の服はわからないが、右手の近くには先端に赤くて綺麗な丸い石が付いた杖、頭の近くにはローブと同じ色のとんがり帽子。

 魔女のコスプレと言われた方が納得できるが、白い髪の魔女とかそんなキャラいたっけ。

 ていうかなんでそんなのがここに倒れてるんだ。


 怪しい魔女、怪しい魔法陣、その上の俺。なんだこの構図。

 どうしてこうなったと今更ながら記憶を辿る。授業が終わり友人からの誘いがあったわけでもないため帰宅部として高校から自宅まで真っ直ぐ帰った。何の問題もない。

 親も丁度いなかったのでそのまま自室のベッドに寝転がって、スマホを弄っていたら眠くなったので昼寝、目が覚めたらここにいた。うん、さっぱりわけわからん。何かのドッキリで両親がどこかで見てる的な?


 ……いや、もしかして異世界召喚か? と昼寝の前に読んでいたウェブ小説を思い出しながら考える。

 チートを持った主人公として楽しい冒険ができるのであればいいのだが、チートなんてないサブキャラとして召喚されてたり、主人公でもチートがなかったり奴隷として召喚されたりというものもある。それにどうであろうと帰れる可能性はかなり低いし、そもそも現実味がない。

 いくらその手の小説が好きだろうと自分に置き換えれるほど現実との区別がついてないわけではない。夢という可能性に現実逃避をしたくなるが、明晰夢なんて見たことないのでそれはそれで信じられない。


 そういえばスマホはどうしただろうかと思ったら地面に落ちていた。

 幸い外傷のなさそうなスマホのボタンを押しスリープからロック画面へ。

 最後に見た時間から一時間経っていた。圏外だったが、まあこんな場所じゃ仕方あるまい。

 召喚されてその時手にしていたスマホが一緒に、というのがあり得そうだがやはり信じられないな。

 ……でも、心の底に期待している自分がいるのが分かる。ワクワクが止まりません。




「んん……」


 あれこれ考えては不安を募らせていると、魔女が目を覚ましたようだ。

 先に逃げとけばよかっただろうかなどと考えてももう遅い。


「まさかあんなに魔力を持ってかれるなんて……何か間違えたかしら……」


 今なんと? 魔力? そもそも日本語だと?


 少し高めの声で当たり前のようにファンタジーな単語を発したことと、白い髪のため外人のイメージだったのに日本語を話したことに驚いていると、体を起こしながら呟いていた魔女と目が合う。

 可愛い系のその顔は、外人というよりは日本人と言われた方が納得できる。眉や睫毛まで白くて目は真っ赤だけど。

 そんな見慣れない容貌のせいでわかりづらいが少し年上……大学生くらいだろうか。


「……え?」


 当の魔女は手をついて立ち上がろうとする態勢で固まり目を見開いていた。知らない男の姿に驚いているのだろうか、それとも顔に変なものでも付いているのだろうか。

 念の為にスマホの内カメラを起動して確認するが、短くはない黒髪に茶色い目、そして可もなく不可もない顔は、日常生活において鏡でよく見る自分自身のもので間違いない。


 このままでは気不味いのでこちらから声をかけることにしよう。日本語が通じるっぽいから困ることはないはずだ。


「あの、すいません。なんというか、気が付いたらここにいたのですが何か知りませんか?」


 魔女が黙ったまま悲しそうな顔になる。俺何かしたっけ、こっちが泣きたくなってきそう。

 しばらくするとその表情に少しだけ納得の色が浮かび頷く。いや勝手に自己完結しないで教えてほしいんだけど。


 どうしたものかと悩んでいると、向こうから話を切り出してきた。


「ごめんね。突然のことで混乱してるでしょ? 説明するからついてきなさい」


 言いながら立ち上がる。他に出来ることもないので俺もおとなしく立つ。

 魔女はローブの下も同じ色の服・スカートだったんだが好きなんだろうか。




 通路に出て、ふと後ろを振り返ると、


「え!?」


 自分が通ったはずの穴がなくなっていた。思わずあげた声に反応し魔女が振り返る。


「あー……えーと、ここは秘密の場所みたいなものだから、外からはわからないようにしてあるのよ」


 俺にもわかるよう言葉を選んでくれたっぽいのはありがたいが、それでも無理があると思う。

 洞窟の通路の壁には出入口を埋めたような跡はもちろん小さい穴すらないのだ。俺の理解を超えている。

 だから聞き返してしまうのも無理はないだろう。


「……それは、つまり?」

「んー、……まあ後で説明するし一緒か。これは魔法を使って見えないようにしてあるの」

「……魔法?」

「そ、魔法」


 と言いながら右手を前に伸ばすと、上に向けた掌から火の球が浮かび上がる。


「!?」


 なんということだろうか。魔女は本物の魔女だったのである。

 普段なら何かタネがあると疑っただろうが、今はそんな気も起きない。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はルナ、あなたは?」


 言葉を失っていると、名前を聞かれた。半分反射的に答える。


朝倉陽太(あさくらようた)です」

「陽太ね、わかったわ」


 と言って前に向き直る。もう遅いが名前は逆にした方がよかっただろうか。

 それよりも気になっていることがあるので聞こうとするが、


「あの、ルナさ――」

「『さん』はいらないわ、あとタメ口で良いわよ」


 超スピードで反応された。少し怖かったのでおとなしく従うことにしよう。


「ルナ、あの魔法陣は一体……」

「察してるかもしれないけれど、あれは私が書いた違う世界が対象の召喚魔法陣よ。つまり、私が陽太をこの世界に召喚したことになるわね」


 異世界召喚。

 受け入れがたいことではあるのだが、ここで否定しても他の答えが出るわけでもないのでひとまずは信じることにし、浮かび上がった新たな疑問をぶつける。


「なんで召喚を?」

「詳しい話はちゃんとするから、とりあえず行きましょ」


 と言うなり早い歩調で歩き出した。歩きながらじゃダメなのだろうか。なんか誤魔化された気がするな。帰れるのかどうかとかも聞きたかったんだが。




 洞窟を歩いていると、分かれ道だと思ったらさっきの小部屋みたいに出たところが壁になりただの一本道に見える場所や、逆にルナが壁に手をかざしたと思ったら壁が消えて道ができる場所もあった。

 普通の分かれ道や小部屋もあったので聞いてみると、大して重要ではない場所らしく、カモフラージュも兼ねているのだとか。

 なぜそんなことをするのかと聞けば、この洞窟を研究所として使っているらしい。それ以上は後で説明すると言われてしまった。


 しかし、結構広い洞窟だな。一人だったら確実に迷っていただろう。ルナが目を覚ます前に逃げ出さなかったのは正解だった。




 しばらく歩いていると階段が見えた。出口に着いたらしい。

 階段を上がって外に出ると、そこは森だった。そして案の定出入口は壁と化していた。

 夕暮れ時なのか空はオレンジ、この世界にも太陽があるらしい。少しだが雲もある。


 森の中を二人で進むが、どこまで歩くんだろうか。そろそろ疲れてきた。

 ロクな道のない森の中で休まるかはわからないが休憩を提案してみようか。


 不意にルナがこちらに振り向く。なんだろう、休憩させてくれるのだろうか。


「どうした?」

「何か来るわね」


 ルナがこちらに歩いてきたと思ったら少し通り過ぎたところで止まる。

 その動きを目で追っていた俺は当然後ろを振り向くことになる。




 そして、見た。


「な……!?」


 既に木々の隙間からでもわかるほど十分な大きさを見せているソレは、それでも足りないとばかりに大きく、否、接近してくる。

 やがて木々を押し倒してこちらと相対するように着地し、その周囲で風が吹き荒れる。




 ドラゴン。


 ファンタジーを代表する生物が現れたわけだが、その出会いにワクワクすることはなかった。

 心は恐怖に支配され完全にパニック状態、力が抜けてその場に座り込んでしまう。

 映画以上の迫力での登場は生命の危機を感じるには十分すぎるほどだった。


 しかしルナは一切怯えた様子などなく、大声を出した。


「メトーニの誇り高きドラゴンよ! 我が名はルナ! 汝、その名を名乗れ!」


 すぐ近くから発せられた大音声に俺は少しだけ我を取り戻す。

 この世界のドラゴンは人語を解するのか? 戻ってきた思考力で考える。


 ドラゴンは応える様子がなく、息を吸い始める。ゲームなどでその姿を見たことがあれば容易に想像がつく予備動作。

 ブレスが来る。そんなものが来れば俺の命は簡単に吹き消されてしまうだろう。

 恐怖が増殖し逃げ出したくなるが、足には力が入らないまま。


 ついにドラゴンが息を吸い終わり一瞬動きを止める。

 恐怖に耐えられなくなり目をつむり体を縮こまらせる。


 轟音が鳴り響く。




「……あれ?」


 轟音がするのに何も来ないのが不思議で目を開ける。


「!?」


 ドラゴンは確かにブレスを吐いていた。しかしそれがこちらに届いていない。

 俺の目にはルナが左手を前に出しているだけにしか見えない。それだけなのに、その前に見えない盾があるかのようにブレスが左右に逸れている。


「言葉を無視して攻撃してきたのはそっちだし、こっちも遠慮はしないわよ」


 そう言ってルナが右手を上に伸ばすと、ドラゴンの上に黒い雲ができ始め、あっという間に大きくなる。ブレスを吐き続けているからかドラゴンは気付いてないようだ。

 そして右手を振り下ろすと、ドラゴンの巨体を光の柱が飲み込む。その眩しさに思わず目を閉じてしまい、先程以上の轟音に耳を塞ぐ。


 落ち着いたところで目を開けると、ドラゴンは真っ黒焦げになって地に伏していた。

 あんなでかいドラゴンを倒した……?


 呆気にとられていると、雨が降ってくる。先程の雲がより大きくなって降らしているらしく、ブレスによって燃えていた森がその勢いを鎮めていく。

 なのに俺とルナの周囲のみ雨が降らず濡れることもなかった。

 さらに火が消えたところから木が生え森が元の姿を戻していく。ドラゴンの着地時に倒れた木もいつの間にかない。


 驚きはまだ終わらない。ルナはドラゴンの元まで駆け寄り、その体に触れると、ドラゴンが消えた。

 恐怖で思考力が低下していたこともあり、完全に思考が追い付かなくなっている。

 さっきは恐怖で思考停止していたのが、今は驚きの連続で思考停止している。


「おーい。……仕方ない、運ぶか。というか最初からこうしてればよかったわね……」


 何か言っている気もするが頭がそれを受け入れず、やがて完全に思考を放棄した。




「おーい、陽太ー? よーたー?」

「……」

「陽太ァ!」

「だっ!!」


 頭突きされた。痛い。だがおかげで目が覚めた。

 そして気付く。お姫様抱っこをされていたことに。


「なっ!?」

「あっ!? ちょっと、暴れないで、あぁっ!」

「だっ!!」


 尻もちをついた。痛い。だが興奮は冷めない、ドキドキしっぱなしである。


「えーと、なんでこんなことになってるんだ? ドラゴンが現れて、ブレス吐かれて、でも無事で、光の柱――というか黒い雲出てたし雷?が落ちて、ドラゴン黒焦げで、雨が降ったけど濡れてなくて、森ができて、ドラゴンが消えて、気が付いたらお姫様抱っこ? どういうこと? ていうかここどこ?」


 いつの間にか森を出ていて目の前には一軒の家があった。


「ブツブツ言ってないで落ち着きなさい? もう一回頭突くわよ?」

「はい、ごめんなさい!」


 笑顔が怖かったので思わず土下座で謝る。しかし落ち着けるわけはなく思ったままに一番の疑問をぶつける。


「えーと、ルナさん? あなたは一体……?」


 思わず『さん』を付けてしまったが見逃していただきたい。

 その思いが通じたかどうかはわからないが突っ込まれなかった。


「そうね……通称じゃわからないでしょうし……ああ、勇者にはよく『チート魔女』って呼ばれるわね」


 勇者? 新たな疑問はともかく――




 ――俺はこの異世界に、チート魔女によって召喚されてしまったらしい。

次回予告


陽太「夕食おいしい、もぐもぐ」

ルナ「残念、説明回よ。しかも長くなりすぎたから前後編に分かれたわ」

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