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ハーレム禁止の最強剣士!  作者: 青葉台旭
アハトグレイヴ編
52/57

少女、怪物の依頼に戸惑い、スュン、少女の正体を知る。

1、夜の博物館(一年前の出来事)


 少女は御影石の台座に寄りかかり、床(ゆか)の上に座ってスカート越しに自分の膝を抱えた。

 顔を上げ、グリフォン像の顎(あご)を見つめる。

(どうしよう……〈使い手〉を探してくれ、なんて……)

 グリフォンに魔法をかけてもらい、透明だった自分の存在に色(・)彩(・)が戻った。

 怪物が言うには、声を出して人に話しかけることも出来るらしい。

 八年間、自分は誰の目にも映らない存在だった。

 八年間、自分の声は誰にも届かなかった。

 この見上げるほど大きく美しい怪物像の魔法で、少女は自分の姿を取り戻し、声を取り戻した。

 ……しかし……

(魔法を掛けてもらったお(・)返(・)し(・)に、人を探せ、なんて言われても)

 探すのは男? それとも女? ……分からない。

 子供? それとも大人? ……分からない。

 職業は? 住んでいる町は? 顔や姿の特徴は?

 すべて、何も、分からない。

 グリフォンは、ただ(会えば分かる)とだけ言った。

「自分で探すことは出来ないの?」少女は、怪物の両翼を見上げながら尋(たず)ねた。「その大きな羽(はね)で空を飛んで」

 グリフォンは(無理だ)と答えた。今の自分は殆(ほとん)ど動くことが出来ない、と。

 ……〈使い手〉からの起動信号が無ければ、私は空を飛ぶことはおろか、脚一本動かす事も出来ない。周囲を走査(スキャン)する能力もごく狭い範囲に限定されている……〈使い手〉が覚醒していれば、そして、強力な通信機能を有した〈武器〉を手に入れていれば、世界の果てからでも起動信号を送って来るはず……しかし、それが望めない現状……私が自分の能力を完全に取り戻すためには、〈使い手〉の方から走査(スキャン)範囲の内側まで近づいてもらい、直接『起動命令』を発してもらわなければいけない……

 グリフォンが魔法の言葉を使って少女に言った。

 少女は、グリフォンの言った意味の半分も理解できなかった。

「ええと、良く分からないけど、とにかく、その〈使い手〉とかいう人に会って、話がしたい訳ね?」

 都市国家サミア公立博物館グリフォン像展示場の、満月の光に照らされ青白く光るホール内を見回す。

 一時間に一度の見回り以外、真夜中の展示場を訪れる者は居ない。

 しかし、ここはサミアで一番大きな公立施設だ。昼間は大勢の市民が来館する。職員も居る。

「博物館で働く人とかグリフォン像(あなた)を見に来たお客さんとかに話しかけてみたら? なにか手がかりが見つかるかも……」

 少女の言葉に、怪物は僅(わず)かに首を振ったように見えた。 

 ……駄目だ……私には、人間の音声言語を発する能力が無い……人間の声を聞き、解読することは出来るのだが……自分から発信する能力は持っていない。

「じゃあ、何で、こうして私と話が出来るの?」

 ……これは音声言語ではない。声ではない声、『魔法言語』だ。人間には理解出来ない。聞くことさえ出来ない言葉だ。そして……

 グリフォン像は、金属の目玉を動かして少女の瞳を見た。

 ……少女よ……お前は人(・)間(・)で(・)は(・)な(・)い(・)……だから私の言葉を理解できるのだ。その体は私の発する魔法と親和性が高い。ゆえに、少々の魔力でお前を『可視化』することが出来た……


2、馬車の中(現在)


「博物館に居た少女……『グリフォン像が動いた』と言っていた少女は人(・)間(・)で(・)は(・)な(・)い(・)わ(・)」

 博物館からエルフ公使館へ帰る馬車の後部座席で、オリーヴィアは隣に座るダーク・エルフの少女に言った。

「人間ではない? それはどういう意味ですか? では彼女は一体(いったい)?」

「幽(・)霊(・)よ(・)」

「ゆ、幽霊?」

「クラスィーヴァヤの森、あの大陥没での出来事を思い出しなさい。あなたは、あの大陥没の底で何を見た?」

「大陥没の底で、ですか? ええと、エリクの『残留魔力』に……まさか……」

 ダーク・エルフの少女……スュンの瞳が大きく見開かれた。

「その『まさか』よ」

 オリーヴィアが頷(うなづ)く。

「さっき偶然にも、私はグリフォン像の下で『透視魔法』を使っていた。それで『少女の正体』に気づく事が出来た……あれは死の瞬間に放出された魔力が疑似物体化した物よ。元の宿主の外見と精神を模倣する『魔力の凝固体』……人間が言うところの『幽霊』ね」

「あの少女が、エルフが死ぬときに放出される魔力の凝固体? ……という事は『生前の』彼女はエルフだったという事ですか? 見た目は人間の少女そっくりでしたが……では、あれは『擬態魔法』ですか?」

「さあ? それはどうかしら。人間社会で暮らすエルフの数はそれほど多くないし、少なくともクラスィーヴァヤの森出身のエルフに関しては、全員、公使館で動きを把握しているはずよ。まあ、どこか遠くの森出身のエルフがこの街(サミア)に紛れ込んでいる可能性が無い訳ではないけれど……どうかしら」

「で、では一体(いったい)」

「人間の中にも少数ながら魔法を使える者たちが居るでしょう?」

「魔法使い、という事ですか?」

「たぶんね。ただ『生前の』少女が魔法を使えたかどうかは分からない」

「魔法使いなのに、魔法が使えない?」

「コスタゴン閣下の言葉を思い出しなさい……閣下は、こう言われたわ。『潜在的に、全ての人間は魔力を有しているという説がある……しかし殆(ほとんど)の人間は、自分の中の魔力に気づかないまま一生を終える』と」

「つまり……」

「事故か、事件か……何らかの理由で七、八歳くらいで死んでしまった少女がいた、と、仮定する……死ぬ瞬間、少女の体内に宿っていた魔力……少女本人も気づいていなかった魔力が、死(・)の(・)衝(・)撃(・)で(・)発(・)動(・)し(・)た(・)……しかしこの時すでに制御すべき本体、つまり少女自身は死んでしまっている」

「そして、エリクの時と同じように、元の宿主の精神と姿形(すがたかたち)を模倣し、博物館周辺を彷徨(さまよ)い続けている、という事ですか?」

 スュンの言葉に上司が頷(うなづ)いた。

「まあ、あくまで仮説だけど、ね。充分に有りうる話(ストーリー)でしょう? とにかく、あ(・)れ(・)が『幽霊』つまり死の瞬間放出された魔力の凝固体であるというのは事実。それは私自身が魔法強化された目で確かめている。……問題は……」

「あの『少女の幽霊』と、例のグリフォン像との間にどんな関係があるのか、ですね?」

「そういう事。こりゃ、なかなか面白い展開になってきたわ。スュンもそう思うでしょう?」

「お、面白い、ですか……わ、私は、むしろ面倒(めんどう)くさ……あ、いや、何でもありません……が、がんばります」

 スュンは力なく答え、「はぁ」という溜(た)め息が出そうになるのを危うく堪(こら)えた。

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