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繰り返すトキの中で


 自分が生涯を終える時、必ず思い出す。

 今が何回目かは分からないが、自分が同じ世界で同じ時を繰り返していると。


 そしてその時空(とき)の中で、遊男の皆が1人の少女に心惹かれていくと言う事も、そしてまた違うもう1人の少女が迎える悲惨な結末も全部。


 走馬灯を見ていて思うのは、ある1人の少女の事だった。


 全く…何故あんな馬鹿な事をしたのか。

 今回の人生でのあの子は、途中までは真っ当な子だったのに、また過ちを犯していた。

 どうしてだろうか。

 次は幸せに生きてはくれないだろうか。


 そう思いながら今俺は目を閉じて生を終える。



◇◆◇


 自分が生涯を終える時、必ず思い出す。

 今が何回目かは分からないが、自分が同じ世界で同じ時を繰り返しているという事を。



 今回もあの子はやってしまった。

 でも、今冷静に思えば自分達があの子にしてしまった事も酷いもんだったと他人事の様に思う。


 妹のように可愛がっていたあの子との約束を忘れて、自分が惹かれている桃色髪の少女と同じ時に約束をしてしまい、あの子を放りっぱなしにした事。

 桃の節句では、少女には綺麗な着物を着せたのに、あの子にはいつも通りの黒の作務衣を着せていた事。


 あれだけあの子を可愛がっていたのに、皆それを忘れたように少女にのめり込んでいた。


 少女…彼女が階段から落ちた時には『誰かに押された気がして…。黒い髪が見えたんですけど、もしかしたら…あの子…』と言う彼女の言葉だけで、裏で洗濯をしていたあの子を疑い、謝らせた。本人は否定をしていたというのに。

 それに、あの子と一緒に洗濯をしていた少年も『ずっと洗っていた。あり得ない』と証言もしていたのに。

 信じきれずに。


 あの子が他の花魁から貰い大事にしていた簪が壊れた時だってそうだ。

 まだ二人の仲がそれほど拗れていない時、彼女が少し我が儘を言って、あの子の大事にしている簪を借りたという時。


 …早い話、借りて直ぐに壊した。彼女が。


 経緯は分からないが、嘆く持ち主に最終的に『わざとでは無い』と言う彼女に謝罪は無く。そんな彼女に文句は言わず、あの子が黙って裏手で泣いていたのを俺は知っている。

 なのにも関わらず、彼女が大切にしていた櫛をあの子が…経緯はこちらも不明だが壊してしまった時『櫛を貸したらあの子に壊された』と泣きながら言う彼女の言葉を信じて、あの子を怒鳴りつけた。…いや、怒鳴りつけたのは違う奴だが。


『でも、私貸してなんて言ってない。なんか渡されて…櫛には最初からヒビが入って、』

『いいから謝れ!!』

『私っ』

『言い訳すんな!』


 彼女があの子の物を壊した時には皆何も言わなかったのに、あの子が彼女の物を壊したという時には容赦が無かった。

 たかが櫛なのに。

 大人げない。



 それに彼女に来てほしいと言われ、向かった部屋。


 着いて直ぐに部屋の中から少し声がしたので、なんだ?と気になり戸に耳をあてて声をきいてみると、


『私のここに、こうやって手をあててみて?』

『な…なんで』

『いいから、やってみてよ』

『……』


 彼女とあの子の声がした。

 何をしているのかは分からないが、取り合えず彼女が部屋の中にいるのは確か。

 呼ばれたのだから、自分が中に入っても何ら問題は無いはず。


 そう思い部屋の戸を開けた途端、


『嫌ぁ!苦しい!!』

『…え!?』

『っおい、何してんだ!離せ!!』


 彼女の首に手を掛けたあの子が、彼女の首を絞めていた。

 彼女があの子の手を掴んで離そうとするが、びくともしないのか硬直状態であった。


 対するあの子は動揺していた。

 首絞めている本人が動揺している姿は、不思議なものである。

 すると次には、俺が視界に入って我に返ったのか、自分の首を振りだした。


『わっ私、首絞めて無い!手を離してよっ、嫌!なんでこんな事するの!?』

『あ、苦しっ…い!』

『お前は何言ってんだ!早く手を離せっつってんだよ!!』



 後にこの出来事はおやじ様に報告をした。

 今までの彼女への仕打ちもあり、あの子は遊男からの仕置きを受けることになった。


 だが、あの子は終始言い続けていた。


『私、彼女に部屋に呼ばれてそこに行ってみたら『首に手をあててみて?』って急に言われたから手をあててたんですっ、なんでか分かんなかったけど、不思議に思って手をあてた瞬間に渚左さんが入ってきて、そしたら彼女が悲鳴をあげたんですっ』

『お前さん、作り話はもうやめねぇか』

『違うんですっ、彼女が』

『可哀想だが…しょうがない。仕置き始めろ』

『嫌!おやじ様ぁーー』


 今思うに、あの子の言っていた事は本当の事だったのかもしれない。

 俺が聞いた、部屋に入る前の中での会話。確かに『手をあててみて?』と彼女の声であの子に言っていた。

 それに開ける前に言い合いをしていた様子は無かったし、辻褄は合う。



 その後から、あの子は取り憑かれたように彼女を襲うようになった。

 刃物で刺そうともし、『こんな人、死ねばいい!!』と狂ったように叫ぶ。


『嘘つき女っ、』




 今なら思う。

 確かめて、あの子の話を聞いてあげれば良かったと。

 本当は…真実は違ったのかもしれない。

 だが彼女に惚れていたあの頃の自分では、正当な判断が出来なかった。

 惚れた欲目で、彼女の言う事こそが真実だと。それが正しいと。


 彼女と自分が結ばれた人生は、たぶん覚えている分だと12回か13回くらい。

 数えきれない程人生を繰り返しているから定かでは無い。


 彼女と生涯を共にする上で、あの子の行動や彼女の行動を疑問に思った事は無いが、もう死ぬと言う直前で毎回繰り返されていた人生を思い出す。そして人生を何度も重ねるにつれ、何かがおかしい事に気づく。





 考えてみれば、必ずあの子に不利が働くような動きを彼女はする。まるであの子が非道に行くように仕向けるかのように。

 何度廻ってもその繰り返しだ。


 でも何のために?

 あの子は妓楼の皆に愛されていた。少なくとも彼女がやって来るまでは。

 彼女が来てから何時もおかしくなるのだ。これが正しい道、とでも言うように。



 何故なんだろう。

 きっと彼女がいなければ、あの子は普通に生きられたのではないだろうか。

 女の遊郭に売られる事もなく、仕置きを受ける事も無い。

 彼女に惹かれていた自分が何を言っているんだとは思うが…。


 心根は優しい子だ。




 どうか神がいるなら、お願いだ。次に俺がまた生まれ変わる時、記憶をそのまま残してあの子の元へおいてほしい。その代償に人間でなくても構わない。今度は絶対に真実を見極めたいんだ。声が届かなくてもいい。


 傍にいたい、形を変えてでも。

 あの子が道を間違えないように。彼女があの子を変えてしまわないように。







 でも死の瞬間、何故いつもあの子を俺は一番に思い出すのだろう。



 俺は、本当は――――…




あとがき。


『あれ、チャッピー何処行った?』

『あいつなら凪風んとこじゃね?』

『ニャーン(いや、腹の下)』

『ゲーコ(相変わらず温かいぜ)』


『心配したなぁ、もう~。ちっちゃいんだから』

『ゲコ(すまん)』

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