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始まりは 7年目の物語 8


 桜の木に蕾がチラホラとついてきている。

 梅の花はつい昨日散ったばかり。

 朝は相変わらず寒いけれど、昼になれば結構暖かくて。


 冬眠している動物達は、あと少しで目を覚ます。


 様々な変化がみられるそんな頃。



 ムズムズ…


「むにゃむにゃ……うぅーん…ん?」


 朝方。なんだか良く分からないが、違和感がして目がパチリと覚めた。

 起きて上体を起こせば私は押入れ前の畳の上。布団から結構離れている。…相変わらずだなオイ。


 しかし違和感の正体は、畳の感触だったのか。…でも畳の上で朝を迎えるのは日常茶飯事とも言えるので、違和感を感じるか?と言われたら、それほどでも無い。


「んー…寝よう」


 まだ時間は早い。

 と布団に戻ろうと下を向いた時、自分の単衣の下が広がっているのが見えた。いつもなら特に気にも止めないが、白の単衣に無い色素を見つけてしまう。これは…


「…………あ、ああ!」


 私の体にも変化が訪れたようです。

 



●●●●●●●●●●●●●●


「んー…」


 どうもどうも。

 生理が来ちゃいました野菊です。


「さてと…」


 えーと、えーと何処かなー。

 愛理ちゃんから貰ったもっこ(ふんどし)は。

 確か箪笥の一番下から2番目の引き出しに入れておいたような…。


 チラリ。


「スー…スー…」


 横目で斜め後ろにいる気持ち良さげな顔で寝ている蘭菊を見る。

 よーし、目覚めるなよー。良い子だから寝んねしてるのよー。


 なんとか奴に気づかれ無いよう慎重に行動しなくては。こんな醜態、晒すわけにはいくまいて!!ガッテム。ガッテム。



 ちなみに愛理ちゃんには、本当につい最近生理にと処理用の下着を頂いた。


『愛理ちゃん!たのもー!!』

『ノギちゃん朝から元気ね』


 十義兄ィさまづてで『愛理がな、用事があるから明日野菊に朝一で部屋に来てほしいんだと』と食堂で聞かされた私は、次の日には早速可愛こちゃんの部屋へと飛んで行ったのである。


 生理について聞きに行った時の一件以来、愛理ちゃんは「女同士」親しみを込めて私を『ノギちゃん』と呼んでくれている。嬉しいよ、嬉しいんだけれども。あくまで理由が「女同士なんだから」と言う愛理ちゃん。私は生理は仕方ないとして、自分は『男』になるのだとピンクの仔猫ちゃんに散々言っているのだが、全く伝わらないのか『え、女の子でしょう?』と至極真っ当に何度も言われる。いや、まぁそうなんだけどさ。ごもっともなんですが。

 だが『ちゃん』はちょっと……。と思った時、あ、蘭菊の事『蘭ちゃん』って呼んでんじゃん自分。と思い出すと、…何か急にどーでも良くなった。そこまで騒ぐ程の物でも無かったなと少し恥じる程度に。


『十義兄ィさまが言ってたのって?』

『あ、これよこれ』


 歳は私のほうが二つ下なので、愛理ちゃんはお姉さんみたいな感じである。

 精神年齢はきっと私のほうが上な筈なのに…。私って一体何。


『これ履いて、真ん中に布を詰めてみて』

『これは…』


 笑顔で私に差し出されたのは…これ紐パン?


『これね、もっこ褌って言うのよ』


 褌?いやいや、どう見ても紐パンだよ紐パン。両サイドを紐で縛るあの紐パンが、今私の手に乗せられている。


『ノギちゃんから相談されたあとね、私は自分で制御出来るし…それについてはあんまり分からないから、いつも行ってる銭湯で会う女の人達に聞いてみたんだけど。女用にこう言うのがあるんですって。布切れで簡単に作れるから今度教えてあげる。…どうしたの?』

『う、ううん。ありがとう!頑張って履いてみるよ紐パン!』

『紐ぱん?』

『い、いや、もっこ褌!!』



 そうして手にいれた大事なモコちゃん(もっこ褌の事です)を、箪笥の引き出しから出す為に、股に力を入れて引き締めながらゆっくりと歩きだ…


モソモソ…バッ

「?なんだ、野菊起きんの早ー…」


 バチリ。


 と血走った私の目と寝起きの蘭菊の目が合う。


 3秒停止。


 5秒停止。


 8秒停止。


 12秒経過。



「な、……それどうしたんだ!?」


 見るなぁああ!!

 ちょっや、ややややべぇ、単衣の血の部分見られちまったよ!!

 やいやいやい、見るんじゃねぇ小童!今すぐ目を反らし、そのまま回れ右をして押し入れの中に入りなさい。…しょうがないけど今なら見逃してやる。こっ金平糖、金平糖あげるから!!


 そんな感じで若干ビビっている私は、押し入れの戸に背中を張り付けながらプルプルと震える。


「野菊…お前」


 しかし希望に反して近づいて来る蘭菊は、壊れ物を扱うような手つきで私の肩にそっと触れてきた。その動作に、どうしたのかと彼の顔を見れば、眉間にシワを寄せているのに眉尻は下がっていて、なんとも心配そうな悲しそうな怒りも入ったような表情をしているのが覗ける。

 何、何があった少年よ。



「お前…お前誰にヤられたんだ!」

「は?」

「もしかして妓楼内の奴か?」

「な、何が」

「どんな奴だった?覚えてるか!?」

「どんな奴…?」

「いや、思い出させちゃ辛いよな…」

「?」

「待ってろ!!まずは宇治野兄ィさんに秘密裏に話してくるからな!おやじ様にはその直ぐ後に話すから!」

「ちょ、」


「大丈夫だ。直ぐに戻って来るから安心しろ」


 駆けて行く蘭菊の姿を茫然と見送る。やけにその後ろ姿が格好いい彼だが、一体蘭菊の頭の中で私はどういう事になっているのだろうか。

 誰にやられた?と言っていたし……私が誰かに斬りつけられたのかと勘違いしているのだろうか。


 本当にそうだったら大変だけれど、これは…

 違う、違うぞ蘭ちゃん!!早まるな!

 私のこれは生理。生理なんだよ。女の生理現象なんだよ!斬られちゃいないのよおおお!!


「ニャーム」

「ゲーコ」


 とか私と人間では無いチャッピーと護しかいない部屋で叫んでも、2匹が同情心で鳴き応えてくれるだけである。

 今直ぐにでも蘭菊を止めに行きたいが、状態が状態なのであまり歩けない。

 愛理ちゃんみたくお腹の中を引き締めてみようとするが、あまり感覚が分からない為早々に諦める。確かな対処法は、一先ず早くモコちゃんを着用する事なので急いで箪笥の引き出しから引っ張り出す。


「…と、よし!」


 モコちゃんを履いたら血濡れの単衣は早々に脱いで、紺の長着に着替える。何度もこうなった時のシミュレーションをしていたから結構スムーズにいく。やっぱり備えって大事だよね。


 蘭ちゃん、お願いだから大袈裟な騒ぎにしないでいてく「野菊!」

「は、早っ!」


 早ぇえ!!

 そりゃ直ぐに戻るって言ってたけど早くね?多分まだ3分も経ってない!


「宇治野兄ィさん連れてきたからな、安心しろ。…宇治野兄ィさん早く!」

「だから蘭菊、野菊のそれは多分―」


 蘭菊が引き連れて来たのは、今日も麗しく、寝起きで若干気だるげな美人さん…と言ったら男である兄ィさまに失礼なのだろうけど、その言葉がピッタリ当てはまる宇治野兄ィさま。

 そんな兄ィさまの腕を、半ば無理矢理引っ張って部屋に入ってくる蘭菊のその姿は、『お母さん!早く!○○のオモチャ売り切れちゃうよ~!…早く早く!!』と言う光景が浮かびそうな姿だった。

 まぁ現実の問題とは相当かけ離れているけど。


「全く蘭菊は…。野菊大丈夫でした?女の人は大変ですからね」

「え、兄ィさま」

「はい、どうしました?」


 自然な流れで話されたけど、コレ宇治野兄ィさま私が何でどうしてしまったのか分かっている感じ?

 悟ってる感じ?

 理解している感じ?

 じゃあ、それならばならばナラバ……な、ならば私も自然に答えてみよう。


「はい、備えておいたので大丈夫でした。単衣は汚れちゃったんですけど…」

「それなら後で洗濯に回しましょう。でも、もし人に洗われるのが嫌でしたら、愛理にやり方を教わって自分で洗っても良いですからね」

「はい!」


 やはり分かっていたようだ。何か…流石宇治野兄ィさま!と言う感じである。と言うか、もう兄ィさまじゃなくて姉ェさまですよ。今度呼んでみようかな『宇治野姉ェさま』って。


「…は?宇治野兄ィさん、」

「だから、野菊は暴漢に遭ったワケでは無いとさっきから言っているでしょう?女性には誰にでも起こりうる現象です。お馬ですよ、蘭菊」


 ぼっ暴漢!?

 蘭菊は私が暴漢に遭ったと思っていたの!?…つまりあの血は私が男の人に…その……………いあぁあああ!!そんな不名誉なことあってたまるか!!


「お馬…、……あ」

「女性が赤子を授かれる身体になったと言う合図ですよ」


 丁寧に蘭菊に赦している兄ィさまは、さながら母。そして意味を理解した蘭菊は顔が林檎のように真っ赤になっている。自分の間違いが相当恥ずかしかったのだろう。何せ私がそう言う目にあっていたと勘違いしていたんだからね。


「兄ィさまは何故分かったのですか?」

「時にはそう言う状態のお客をとりますからね。でも満足させてあげないといけませんから、…昔は色々四苦八苦したものです」

「は、はぁ」


 溜め息をつきながらそう話す兄ィさまは、次に私の頭を撫で始める。


「お腹痛くは無いですか?」

「うーん…少し痛いです」

「ではこうしてあげましょうね」


 私を後ろに向けると、後方から兄ィさまの手が伸びてきて、お腹の下辺りに手を当てられる。

 おお、温かくてちょっと気持ち良いぞ。


「兄ィさま」

「皆さん、こうすると痛みが和らぐようで…。『この日』の客の時には、いつもこう手をあてているんです。どうでしょう…効いていますか?」

「温かくて気持ち良いです」

「なら良かった」


 慣れていらっしゃるようで、手の置き方がプロってる。

 …いや、そんなのにプロもクソも無いけど。


「蘭菊も、野菊がこう言う日の時はやってあげさない」

「っは!?無理です!!何言ってるんですか!」

「あはは、練習だと思ってやってみれば良いじゃないですか」

「なんでそう楽しそうなんですか…」


 最後は蘭菊が弄られて、この静かな騒ぎは終わったのであった。



『しかし…赤子が産めるんですよね野菊は。子供は何人位欲しいですか?』

『私は男です』

『男の子?女の子?』

『私は男です』

『ああ、男の子ですか』

『いや違いますってば』

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