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27/123

始まりは 5年目 7

 季節は廻り、もうすっかり庭の木の葉は黄色く茶色くなっている。

 木の下には赤やオレンジ色の点々が沢山落ちていて綺麗だ。ずっと見ていたい気分。


 でもそのまま放置するわけにはいかない。

 ので、今年も私の手にはおやじさまから与えられた魔法のホウキが握られている。

 ぷふふ…蹴散らします。


「っしゃぁ!」

「ゲコ」


 あの蛙、チャッピーはまだこの庭にいる。

 結局嫁はあれから見つからなかったらしく、この庭に住み着きだした。なんて図々しい奴。そして悲しい奴。

 繁殖期も過ぎ、つまりお見合いパーチーの時期は過ぎた為(チャッピーは会ってもいないけど)鳴きはしないが、哀愁漂うあの小さい背中には未だ『オレはまだいける。オレはまだいける』と言う声が聞こえてきそうでもない。


「はねだ~」


 ホウキで葉っぱを蹴散らしながら空を何となく見上げれば、鳥の羽根のような雲が浮かんでいる。

 空の雲は一期一会。明日見る雲は今日と同じ姿をとることはない。そう思うと、この一時一時が大事な出会いであると言えるのは笑い事ではなく。

 このチャッピーとの出会いも、私の人生にとって一つの大事な出会いだったのだろうか。何かそう思うと名付けた時より余計に愛着が湧いてくる。冬眠の時期に入ったら寂しくなるなぁ。



「んんー」


 ホウキを下に置いて、グゥーっと手を上にあげて伸びをする。


「高い高ーい」


 今の時季の空気はとても澄んでおり、空が高く高く見えて。自分がちーっぽけな、ちゃっちぃ存在なのだと自然に感じさせられた。


 …あ、赤トンボ。


「ニャー」


 ん、ニャーぁ?猫ちゃんか。

 どこだ?


 此方へ来て5年、当然の様に聞いているようで今まで聞いた事の無かった猫の鳴き声が聞こえた。

 とっても可愛い声だ。


 ガサ、


「ニャア」

「あらま」


 ガサガサ…と草の影から出てきたのは小さな三毛猫。赤ちゃんが少し大きくなったくらいの本当に小さな猫ちゃんだった。


 薄汚れていて、本来なら白い部分のはずの毛並みが灰色と茶色を混ぜたような色をしている。黒と黄土色のマーブル柄は少し控え目で、この猫の性格を表しているよう。

 いや…性格なんてまだ知らないけどね。

でも背中には鳥の翼の様な模様が2つあり、翼を今は仕舞っている様な感じで面白い形をしている。


「おいでー猫ちゃん」

「ニャー」


 長着の裾を抑えながらしゃがんで、招き猫みたいに手招きをする。しかし寄ってくる気配は無い。

 こんな時猫じゃらしとかあったら良かったのになぁ。おやじさま、猫じゃらしが生えると直ぐに引っこ抜いちゃうから。もう。全くダメじゃないか。


 ピョンっ

「ゲコゲコ」

「ニャア」


 しゃがんだままブー垂れていると、いきなりチャッピーが私と仔猫の間に飛んできた。おお、どーしたんだ。何を思って来たんだ君。

 私に背中を向けて猫と対峙しているが、何かしようってのか。『ゲーコゲコ』『ニャーアニャ』と鳴き声合戦が始まっているが、これはもしや話し合いをしているのか?

 交互に鳴いている姿はそうとしかとれない光景で。


 なんだこれ。

 私と蛙と仔猫。

 異色ブレーメン?


「ニャーミー」

「ゲーコ」

「あーあーあー」


 ちょっと混ざってみた。

 …だって蚊帳の外は寂しいんだもん。





 暫くすると話し合いが終わったのか、前の2匹が私の方を向いて来た。

 なにこれ、なんなのこれ。

 もうこれ人の言葉とか喋れるんじゃないの!?


 すると仔猫が前足を踏み出して私の所へ近づいて来た。

 チリンチリン、


「これ?」

「ミー」


 猫ちゃんが前足で触り鳴らしたのは、私の髪下に付いている小さな鈴。

 桃の節句でおやじさまにもらった、赤い紐に小さな鈴が付いた髪結い紐だ。

 ちょっとお気に入りのため、たまに髪にくくりつけているのだが、どうやら猫ちゃんもコレが気に入った様子で、猫じゃらしでじゃれるように鈴にパンチを喰らわしている。

 かぁわいい。


「付けてあげようか」

「ミャァース!」


 チリン。


 おー、凄く気合いの入った返事ですこと。

 またまた可愛らしい。


 そっと首を絞めてしまわないように首に結びつける。

 チリンチリン、と仔猫の首で揺れる2つの小さな鈴。赤色の紐がどことなく上品な色合いを出していた。


 ?ん…この猫の姿…、どこかで見たような…。

 思えばあの翼模様にも既視感がする。

 今じゃない。

 ずっと前に。


 前?前ってこの世界ではないあの世界で?

 

『ほら、おいでー?』


 途端に頭を過ったのは、何かに手を差し出す桜色髪の女の子の後ろ姿。

 知り合い…?

 でも桜色髪の子の知り合いなんか私にはいない。この世界で自分以外の女の子にだって会ってもいないのに。客は別だけどさ。いたとしてもまだ見ぬ愛理ちゃんぐらいだ。

 それに前の世界での記憶では友達の事も親の事も、自分の事も思い出せていないのに。


 うぅ、何か気持ち悪い…。

 あ、いや、猫じゃなくて自分がね。 


「ほーら、抱っこしてあげるよ~」


 取り敢えず気分転換にじゃれてみる。

 やぁ~しゃやしゃ。あぁ~しゃあしゃ。(ムツゴロ○さん的な)

 高い高ー………!


 嘘!えっ、


「オス!?」


 抱っこした瞬間、腹の下のすべてをさらけ出した猫ちゃんを見て思わずビックリしてしまった。


 三毛猫のオス!?

 あの30000匹に一匹しかいないとされている三毛猫のオス!?

 た、たたた大変だ。

 こんな稀少種がなんでここに。


 三毛猫のオスは滅多にいなくて、殆どがメスである。

 その稀少ゆえ、今の江戸時代では相当な高値で売買されているのだ。船乗りにも大変人気で『雄の三毛猫が乗った船は沈まない』とも言われ、拝められているらしい。根拠も無いのに。

 そして招き猫のモデルにもなっており、福の神様扱いである。

 なむまんだ~なむまんだ~。


 …待て待て。

 この猫ちゃんどうしよう。軽ーい気持ちで首輪的な感じで赤い紐付けちゃったけど、仔猫ちゃんにとったら凄く不味いよね。

 外に出たときに目立って、直ぐ人間に気づかれてしまう。そして雄だと分かったら売ろうと躍起になってしまうだろうよ…。

 私でさえ、変な既視感を覚えてしまう不思議な猫ちゃんだから。


 折角付けたけど…外すかなぁ。


「ニャニャニャ!」

「えー」


 手を伸ばし赤い紐を取ろうとしたら、避けられた。

 拒否か。拒否なのか。

 でもね、付けてたら目立っちゃうんだよ。

 売られて売られて流されて置物にされちゃうんだよ。


「ニャーン」

 スリスリ。


 そう目で訴えていたら、避けていた猫ちゃんが此方に近づき、私のくるぶし辺りを頭でスリスリし出した。

 …きゃっキャワうぃー!!

 小っちゃい生き物が私の足にピットりとくっついて!!もう、もう…




「おやじさま!!」

「おー、掃除終わったか?昼飯に」

「この猫ちゃんを飼いませんか!!?」

「は?」


 交渉スタート。

『この子雄ですよ』

『よし!!鮭をやれ!!』


2秒で終了。

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