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始まりは 5年目 2

 夕食の少し後。十義ィ兄さまがいつものようにおやじさまに断り、私の与えられている部屋まで来ている。

 私の差し出した座布団に座り、金平糖をカリカリ食べて茶を啜る兄ィさまに私は言いたい。



 兄ィさま。来てくれるのはとても嬉しいんですが、そんなにしょっちゅう来て大丈夫なのですか。

 確か昨日の夜も来ていましたよね。



 と。

 何だか蘭菊がいなくなってからやけに此処へ来るようになったのだが、きっと私が『さっ寂しいです』とか漏らしたから、心配して来てくれているのだと思う。

 くそぅ、なんて良い男なんだ。

 …いや、私はそんな事を言いたいのではない。真に言いたいのは、


 十義兄ィさま、そろそろ良い(ひと)見つけても良いのではないですか?


 だ。

 だって自由恋愛解禁してるんだよ!!

 青い春見つけに行こうぜ!!(37だけど)


 と声に出して言ってみたいが、女を惑わす手練手管をとっくの昔に修得しこの世界で戦って来た色男に、10歳になったばかりの小娘がそんな事を言えるだろうか。


 はい、勇気はありません。

 だから隣で茶を啜る兄さまに今視線で訴えている途中だ。


 はぁぁ~念力!!あぃやぁ~ぁ~


「そういやな、野菊」

「!、はい!」


 ふいに私の方へと顔を向けて話し出した兄ィさま。

 お!?通じたのか?通じたのか?

 私スゲー!!

 お、おやじさまに芸が増えました!って明日どや顔で報告しなきゃ!!


「天月によ、女子(おなご)の手伝いが新しく入ったんだけどよ」

「おっぅ!そうなんですか!?」


 聞き出したいのはそんな事では無かったのだが、それはじゃあ一旦横に置いといて……女子(おなご)!!本当に女子!?私が求めてやまない女子が天月にやって来ただと!?

 お、おやじさま、取り敢えず私を早く天月へ早く帰してください。


「野菊、お前拾われただろ?その女子もおやじさまが拾ったらしいんだが、もう12歳でデカくてな。野菊みたいに禿から育てて遊ん…いや、育てるのは無理だしな。第一女だしよ」


 もしもし、私は女です。


「だから裏方の仕事でもさせて、衣食住与えてやったらしいぜ。お前が天月にいても心配するような事は何もなかったし、上手く皆がやっていたから女がまた一人いても大丈夫だろうってなったんだと」

「そ、そうなんですか」


 いや、寧ろ5歳児がいて何かあったほうがおかしいよ。おやじさま、基準が間違っています!!


「と…おやじさまは思ってるらしいが、本当に何も無かったって事は無いと思うがな、俺は」


 私の瞳をじっと見て意味深な事を話す兄さま。

 あれ、何か今の格好良かった。格好良かったよ!


「兄ィさま達全員、知っているんですよね?裏方って言っても会いますもんね?」

「あぁ、野菊がいたからか、あんまり反対の声は無かった。だがあくまでも裏。だからあまり遊男達の前には出ねぇ。主に洗濯とか言ってたな、布団とか1日で洗う量半端ねぇから」


 なるほど。

 総合すると、私のおかげと言う事ですねつまりは。ふふ。


 しかしおやじさま。最初に会った時の『秩序が乱れるからぁ!!』って言う発言と危機感、どこに行ったんだろう。なんかおやじさまが年々色々甘くなってきた気がする。歳かな。

 しかもそれに伴うようにして最近では吉原の規制も緩くなってきたみたいで。年に二回の遊男達の休みの日は、外に出て良いことになっており、もちろん見張り役はいるが以前よりは自由になった。

 そして昼、客が誰もいない時間は吉原の町へ出て吉原内の甘味処や装飾屋、書物が並ぶ店など、見て回っても良いことになっている。自分の妓楼から出る時は、その妓楼の花手形を携帯し、戻って来た際に『自分は此処の遊男だー』と言う事を見世の番頭に証明して帰れるのだ。

 ちなみに吉原の外に出られる所は大門の1ヶ所だけ。そこは女は行き来出来るが、男はまず簡単に出ることは出来ないようになっているようだ。入るのには別に問題は無いのだが、出る際には身分を証明出来る物を持っていないと帰らせて貰えず『何処かの遊男ではないか?』と疑われ、少なくとも証明できるまで2日は帰して貰えない。

 そして吉原の周りには壁があり、所々に屈強な見張り人もいる為脱走も出来ない。


 十義兄ィさまのように遊男も引退して、おやじさまの所で違う仕事をしているとかなら身分を証明する物もそれ用にちゃんとあるので大丈夫なのだが……。


 だから十義兄ィさま。青い春、見つけに行こうよ。


「なるほど…そうなんですか」

「あぁ。まぁ…良かったな女の仲間が出来てよ。会えんのはまだ2年先だが、楽しみだな」

「はい!」

「おお、可愛い顔で笑うもんだな野菊はよ~、ほれ」

「うきょっ」


 頬っぺたを両手でグリグリされる。痛ーいよ。


「どっどふはほはんでふへゃ(どんな子なんですか)」

「そーだなぁ…子猫って感じだな」

「ほ!ほぬほしゃんへふは!!(おぉ!子猫ちゃんですか!!)」


 子猫ちゃん、カムヒーア!!


 あ、そう言えば女…と言う事は生理の対処法を知っているのか!!そーかそーか、そーだよ。まず天月に帰ったらそれを聞いてみよう。確かこの時代は生理って言わないんだっけ…じゃあ『初めまして!あの、尻から出た血どうしてます?』…いや、うん、ちょっと。


 だが問題はそれ以前に血まみれにならなきゃ良いってことかな。後2年、どうにかして女性ホルモン?を抑えなければ…。


 き、筋肉ムキムキになってみようかなー。男になるんだし?それに秋水には前『女じゃないだろ』と言われた事があるから、多分素質はあるんだよきっと。男になる。



 …あれ、ちょっと話は変わるけど一つ気になる事が。

 未だグリグリしている手を押さえつけ、聞いてみる事にしてみる。


「その子、お風呂とかどうしてるんですか?」

「あー、なんか大門の外のすぐ近くにある湯屋(銭湯)で入ってるらしいぞ」


 ええ!!そんな所あるの!?

 知らないよ私!!


「今更ですけど、私もそこ行けないんでしょうか」

「無理だな」

「あ、そうですか」

「ほぃ、」

「うにゅっ」


痛ーい。

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