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始まりは 2

 拾ってくれたおじさんが連れて来てくれたのは、私が背にしていた妓楼屋だった。


 なんでも、私がいた場所はおじさんの部屋がある丁度壁一枚の裏所だったそうで。普段は音もしないのに、珍しく人が留まっている音がしたので覗いてみたら私がいたらしい。



 妓楼屋の裏口から中に入って、奥の部屋まで手を引かれながら連れてかれる。

 途中『新入りですか?』『おー、また器量の良い奴を』、と妓楼の綺麗格好いい男の人達におじさんが話掛けられるも、当の本人はガン無視でズンズンと廊下を歩いて行く。


 着いたのはこぢんまりとした10畳位の和室。しかし普段からここで過ごしているのか、部屋の中心にあるちゃぶ台には飲み掛けのお茶や、吹かしたばかりだったのか先から煙が出ている煙管が陶器の上に置いたままだった。


 座布団を出されて、座るように促される。


 おじさんは私と反対側の席へ座ると、吹かしたばかりの煙管を手に取り、私のほうへと視線を向けた。


「お前、歳は?」


 歳は、と聞かれても…。自分が小さな子供だと言うことは分かるが年齢は分からない。しかも自分の姿を見たのは、 姿を確認しようと川の水面に写ったあの時の一瞬だけだったから、あやふやだ。


「あー、言葉は分かるよな?」

「…は、い」

「なら上等だ。」


 何か私の人生に過酷な背景でも想像したらしく、苦い顔をしながら、質問に答えなかった事をスルーしてくれた。


「見たところ大体5歳位ってところか…それに女児か」


 推定年齢5歳だそうです。

 以外に小さかったんだな私。というか口が上手く廻らなくて上手に喋れない。5歳ってこんなに呂律が廻らないもんだっけ?


「理解してもしなくても今は構わない。取り合えずは、お前をこの天月妓楼で最初はまぁ、禿の位置で働かせる。嫌だろうが、今日から男として生活してもらうからな」

「かむろ?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「上の兄ィさん達の小性みたいなもんだ。遊男見習いとも言うがな。お前はまだ小さい、他人から見ても男も女かも直ぐにはわからんだろう。実際此処で働いてる奴らも女か男か分からん奴がウジャウジャいるぞ」

「はぁ、」

「お前は器量も良い。」


 そう言って頭をガシガシと撫でられる。

 見た目に反してこのおじさんは結構良い人だったらしい。


 しかし、おじさんが結構良い人と分かったところで、一体此処がどういう所なのかがまだ良く分かっていない。根本が謎だ。

 兄ィさん達って、あの格子の中にいた人達の事だろうか?


 子どもなりに姿勢をピシッと伸ばして聞いてみる。


「あの、」

「ん?」

「ここは、どーゆうところなんだすかっ?」


 あ、噛んだ。


 私の質問に、『あぁ、そこからか…』と煙管を吹かせながらチラリと上を仰ぐ。

 カンカン、と陶器皿の上に灰を落とすとゆっくり説明をし始めた。


「ここはな…」




 それからの説明を受けて分かったのは、この吉原モドキの世界は男が遊女ならぬ遊男、をしているということ。それがこの世界では当たり前だそう。

 男が女を買う場所は無いのか?と聞いたらあるにはあるが1つしか無いそうで、メジャーでは無いらしい。


 本当に可笑しな世界だ。


 男妓楼の世界で女が働く事はまずない。禁止されている訳では無いが、秩序が乱れに乱れるからだと真剣な面持ちでおじさんに説明された。


 じゃあ何で私を働かせようとしたのだろう?


 そんな不思議な顔をしていた私を見て、


「おなごを男に化けさせるのも一興だろう?」


 と意地の悪い笑いかたをして、ニッと妓楼の裏で会った時のような笑顔を見せた。


「それに、色は売らせないから安心しな。色を売らなくとも良い稼ぎが出来るよう、立派な芸者に育ててやるさ」



こうして私は、男妓楼の世界へと足を踏み入れたのだった。

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