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始まりは 2年の月日 7

「お前まだ一緒に入るのか?」

「なんで?」


 現在脱衣場。

 長着を脱いでいると、後から来た蘭菊にそう聞かれた。ので聞き返してみたら蘭菊は黙ったままでいる。

 しかし、そんな今更な質問してくれるな。

 大体蘭菊はそんな事気にするような奴だっけ?


「蘭菊は気にしすぎだよ」

「そうだぞ。野菊は女じゃないだろ」


 おい失礼だよ!!

 とは思うものの。


 …でも最近思考が男と女の間を行き来しているような気がするのは確かで。

 自分の事は女だと分かってはいるし、私は乙女よ!とか女なのに…とか思う事はある。

 だけど一方で『どーしたら私はイケメンになれるんだろう』とか『あぁ女の人が恋しいよ。触りたーい』とか、若干男寄りな考えをすることが多々ある。

 なのでぶっちゃけ女じゃない、とか云われて一応女の部分は反応するが、そこまでショックではないのは確か。


 うん。順調に遊男として、芸者としての意識が出来てきたって事かな。





「今日は僕の膝に来ておきなね」

「ふへぇ~い」


 体を洗い終わり浴槽へ入ろうとする私に声が掛かった。


 私はそこまで小さいのか?と此処二年膝に乗せ続けられていて思う。流石にもう私も体が七歳だ。浴槽の下に足はちゃんと着くし、溺れやしない。


 ただ此処に来て最初が悪かったのだ。

 浴槽に向かい歩いていたら、丁度浴槽の手前の床の(ぬめ)りに足をとられてしまい、


『ぶぉほっ!!ぷっ、はぷっ』

『野菊!!』


 浴槽へドボン。

 後ろにいた蘭菊が救い上げてくれたのだが、軽く溺れた私を見て、それ以来天月にいた時と変わらず乗せられるようになってしまった。


 もう7歳なのに。

 しかも三歳しか変わらない奴に抱っこされているこの屈辱感。やるせない。

 もう慣れたから良いものの、私の中の何かが麻痺して来たのは気のせいだろうか。自分でも何が麻痺して来たのかは具体的に分からないのだが、恐ろしい。


「あったかいねぇ」

「そうだねぇ」

「ろてんぶろとかだったら最高だね」

「じゃあ天井剥ぎ取ろうか」


 それはおやじさまに怒られるよ。と二人で笑いながら天井を見る。

 悪魔な時もある凪風だが、基本優しく、何だかんだ付き合ってくれたりするので良き友人…いや、年齢考えるとお兄ちゃん?だ。

 と言うか私以外、此処にいる皆は私にとってお兄ちゃんだろう。


「何、露天風呂?」

「俺も入りて~」


 一緒の浴槽で私達の会話を聞いていた秋水と蘭菊が反応した。

 あ、蘭菊が髪の毛の水搾ってる。

 こら、浴槽の外でやれ外で。


「俺五右衛門風呂だな」

「僕は木桶風呂も良いなぁ」

「だったら、蒸し風呂も良くねぇ?」


 何故か秋水の五右衛門風呂発言を羽切に、風呂談義が始まった。

 何か色々『蒸した風呂ってのは…』『釜なのに火傷しない…』『ヒノキの香りがさ…』と話している。

 良いなぁ、皆入ったことがあるって事かな。


「みんなそれ、入ったことあるの?」

「「「ない」」」

「でさー…」

「おぉ」


 知識内での話でした。


―ちなみに秋水の言っていた五右衛門風呂は、由来が結構残酷なもの。


 石川五右衛門は盗賊で最後は死刑になったのだが、その死刑の方法が、水を張った大きな釜にに五右衛門とその五右衛門の幼い子供を入れ、火をたいて次第に水を沸騰させるというものだったそうで。

 五右衛門は、初めは、子供を上に掲げて熱くないようにしていたのだが、最後には風呂の釜のあまりの熱さに、子供を下に敷いたという。

 こんな感じで、五右衛門の死刑に使用されたので五右衛門風呂と呼ばれるようになったと言うのだが、実に後味の悪い話である。

 そして実際水ではなく、油を使ったと言われているらしい。

 まぁ、油の方が熱くなるしね。


 遊男には色々な知識が必要なので、たまにこんな役に立つんだか立たないんだかの話を聞かされる事が多々ある。

 客を相手に退屈させない一つの手なんだとか言っていたけど、こんな胸糞悪い話誰が聞きたいんだよおやじさま。


 あぁ、なんかこの話思い出したらお風呂から出たくなっちゃった。

 うぅ、五右衛門め!!

 子どもを下敷きにするんじゃないよ!!


「凪風、わたし先にでるね。だからおろ」

「そう?じゃあ僕も出るかな」

「い、いいよ。まだゆっくり話してなよ」


 前から思っていたが人の意見に便乗すること多いな凪風。あと委ねてくる事も。

 

 委ねられる度、私は気が気で無いのだ。

 『え、何を選んで言ったら凪風にとっても良いの?悪いの?え、どうすれば。うーんんん』まるで何か相手の顔色を伺うゲームの選択肢を迫られているような………?


 あれ?

 選択肢…ゲーム…?


 …それは―――どういうゲームだったっけ?

 そんなゲームあったっけ?

 あれ?


「………」

「どうしたんだ?野菊」

「っ、ううん。あ、いや何かのぼせちゃったのかもしれない」


 ボーッと思考を巡らせていた私に秋水が心配したのか声をかけられてしまった。

 いけない、いけない。


 うん、きっとのぼせたから思考が変になってるのかもしれない。

 それに、こんな事別に思い出さなきゃいけないってワケでも無いんだから、深く考えなくても良いのかもしれない。


「俺等も出るか」

「結構浸かったなー」


 とか思っていたら皆がいつの間にか風呂から出ている。

 なんだなんだ、言い出しっぺは私なんだぞ!先に出るんじゃないよ。

その後、脱衣場にて。


『ちなみに野菊は露天風呂以外では何がいいの?』

『うーん』

『やっぱ五右衛門だろ』

『いや、蒸し風呂だぜ』

『うーん……あ!』


『こんよく風呂が良い!』

『『『は?』』』


(だって女の人がいるんだもーん)




五右衛門風呂については色々な説があるので、これもその内の一つと考えてください。

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