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新しい足音

 数日後。


 吉原の町は全焼し、妓楼の建物は跡形もなく燃え尽きた。負傷者は出たものの幸い死者はいなかったようで、この期に及んで逃げ出した者も少数しかいなかったという。

 けれど遺体が見つからず行方不明者扱いの者は数十名いるので、逃げたしたのかも死んだのかさえも分かってはいない。


 しかし全焼したにもかかわらず、確認できる全ての人間が生き残れたのは奇跡にも等しい。


 また暫くはお寺や神社でお世話になる遊男や、この際にと彼らを身請けするという女性達も現れててんてこ舞いだった。

 火事の時にいた客の女性達も無事だったようで、翌日に寺を訪れてくれた冬様には心配をかけたとひたすら謝った。

 生きてくれているならそれだけで良いの、と熱烈な抱擁をいただいたが、そのあと直ぐに寺へと見舞いに来てくれた松代様に引きはがされた。

 元気そうで何よりである。


 おやじ様はかねてより吉原の在り方について考えていたようで、全焼したのも何かの吉兆だろうと、なんと役人を妓楼の楼主達で丸め込み、身売りではない、飲み食いや普通の商売をするだけの町にしてしまおうと計画し始めた。


 花宵の花田様と意気揚々と腕を組んで自分の妓楼の場所の土を掘り返しに行った時は冷や汗ものだったが、その場所から金色の小判が出てきたのには流石タヌキおやじと褒めるしかなかった。


 どこの妓楼の楼主もそうだったようで、資金には十分な額があるぞと高笑いをしていた。

 渋る楼主がいたら惜しむことなく金を渡し、これでいいだろうと文句は受け付けなかった。

 大した金の亡者共である。


 そして見事その許可を勝ち取ると、大工や何やらと雇い、約一か月で吉原の町は身売りの町ではない、全く違う町に生まれ変わった。


 働き手がほぼ男に限定されている点については以前と変わりないけれど、現代で言えば、一般人でもかなり入りやすいホストクラブのようになっている。

 着物を売っている人や、団子を売る人、髪飾りを売る人、飯屋の従業員たちがイケメンなだけの、ごく普通の店通り。


 また同時に風俗業は廃止となり、今後そのような商売を旧吉原町ですることは禁止された。


 遊男達の中にはそのまま残る者もいれば、家族の元へ帰るという人もいる。

 天月妓楼にも何人かいたが、それも少数でほとんどはおやじ様が新しく始めた稼業の下に付いて働いていた。

 反物屋、米屋、酒屋、と三つの店を大人数で切り盛りしている。


 どれも需要のあるものなので、そうそう潰れることはないだろうと、本人も腐るほど金はあると豪語していたので、そこら辺の心配もない。



  小さい禿や、梅木達新造だった皆も、行く当てはないからとおやじ様の元へとどまっている。

 私もそれは最善だと思うので、無理にここから出そうとは思わない。助け合える仲間がいる場所が一番だ。



 そして、かくいう私は……。


「もう行っちまうのか」

「はい。お世話になりました」

「もう一杯飲んでけよ」

「そんなに飲んだらお腹がタプタプになります」


 私は私で、人生の第一歩を踏みだそうとしていた。

隅でいいです。構わないでくださいよ。

書籍、最終・第四巻の発売情報を活動報告にて

お知らせします。

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