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折れない!

作者: 柚木青葉

なんと作中には一度も名前が出てきませんが、目線は奈井江千里という少女です。

柚木の感情もかなり投影していますし、楽器購入の件はノンフィクションで すが、私はこんなに強くありません(笑)

勝ち気な千里の内面を描けたか、夢にまつわる葛藤を短編にしっかりと収められたか、不安でたまりません。

そこで読者様、どうか評価を下さい。切にお願いします。

私には夢がある。

ずっとずっと願い続けてきて、きっとこれからも見据え続ける、夢。

それは、音楽で身を立てること。

音楽にはお金がかかる。でも、うちにはそんな余裕はない。じゃあどうする、決まっている。

自分で貯めるしかないだろう。

小学生のお小遣いなんてたかが知れている。ましてや母子家庭の切羽詰まった経済事情で。

毎月、学年×100円のお小遣いを、ほとんど余すことなく貯金に当てた。

予定より少し早く貯まったお金で、自分の楽器を買った。

中古楽器店で見つけた相棒だ。

新古品のそいつは前の持ち主のクセもついておらず、私とは相性がとても良かったのだ。

貯金のしすぎで買い物の仕方がよくわからなくなるという弊害はあったものの、自分の楽器を買ったその日は、まだまだこれからの人生の中で、1、2を争うほど幸せだった。

遠くて手が届かないとすら思い始めた夢の、スタートラインに立てた気がした。

私の前を歩く同年代はたくさんいる。

それでもいい。抜いてやる。


生意気な程に、決意に満ちていたのに。


今、私は何をしているんだろう。

中学生になり、何か進歩したか。

部活をやり、練習量も増えたはずなのに、水中を歩いてでもいるように遅々として夢に近づいている実感が湧かない。それに部活というのもレベルは高くない。

もがいても、もがいても進まない焦燥に駆られ、それでも音楽が好きだから練習しているだけだ。

このままで、夢は掴めるのか。

胸に問えば、否。

じゃあどうすればいいのと悩むばかり。

小さな頃に見ていた夢に続く道が、昔のように輝いて見えない。

夢は今も眩い光を放ち続けているのに、それに続くこの道は、今見えるこの道は、今にも落ちそうなぼろぼろの吊り橋だ。

怯んだ。

挫けそうだった。

もう立つこともできない気がした。

私は膝を抱えてうずくまった。

「折れない。」

何も考えていないのに、言葉が口をついて出た。

「…折れない。」

響きが気に入って繰り返した。心に頑強な支柱が建った。

大丈夫、まだ前を向ける。

折れちゃダメだ。

眼前の道がぼろぼろに見えるのは、現実が見えてきたからだ。でも渡れる。正体が見えているなら、渡ってみせる。

頼りない吊り橋の先を、まっすぐに見据えてやる。

見据えて、いつか意気揚々と渡ってみせる。

顔を上げ、いつの間にかこぼれていた涙を拭った。鼻がツンとする。涙で揺らいでいた視界も晴れた。

気持ちの面は、ちっとも楽になっていない。ずっしりと重いままだ。でも重くてもいいと思えるなら、立って歩くことができる。

ゆっくりと床を踏みしめるように、時間をかけて立ち上がった。

私はもう、ぽっきりと折れてしまうことはないだろう。

悩んで悩んで自然に出てきた言葉が「折れない」なのだから。

私は、折れない。


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