ソリッド•モリモリ
ボッサンは双眼鏡を覗きながら言った。
「モリモリ、聞こえるか~。聞こえたらシェーしてみろ。
よし、聞こえるな」
{ボッサン、マイク付けてるんだから、声で確認出来るッスよ}
ボッサンは今、警視庁から500m離れた向かいのビルの屋上から、双眼鏡で見ている。
ここから、警視総監室が丸見えだ。もちろん防弾ガラスだろう。
モリモリは警視総監室の隣の通路の窓際にいて、こっちを見て手を振っている。
「モリモリ~、手を振るな~」
園田総監が部屋を出たら、モリモリが部屋に侵入して盗聴器を仕掛ける作戦だ。
「お、立ち上がったぞ!」
園田総監は、立ち上がると部屋から出て行った。
「モリモリ~、総監が部屋を出たぞ」
園田総監が通路の奥に歩いて行くのが見える。
モリモリが園田総監の部屋に侵入する。
「モリモリ、急げ!」
ボッサンは双眼鏡で、モリモリの様子を見守る。
モリモリは盗聴器を持って、ウロウロして、
{ここどうスか?}
「ゴミ箱の中じゃ捨てられちまうぞ!」
またウロウロして、
{じゃあここは?}
「椅子のクッションの下じゃ、座ったら聞こえね~だろ?」
「それじゃあ‥」
モリモリが隣の部屋に行こうとするので、
「机の裏だ、裏!」
{なるほど!}
モリモリが机の裏に盗聴器を貼り付ける。
「早く部屋を出ろ!」
すると、通路の奥から園田総監が帰って来た!
今、部屋を出ると鉢合わせする!
「帰って来た!部屋を出るな!隠れろ!」
モリモリがウロウロしてるうちにドアが開いた!
とっさにドアの後ろに隠れる。
園田総監は、書類を見ながら後ろ手でドアを閉める。
モリモリが丸見え!
モリモリはしゃがむ。
園田総監は、書類を見ながらゆっくり歩く。
モリモリはしゃがんだまま、園田総監の後ろについていく。
「早く隠れろ~!」
園田総監は、机の前で止まる。そして書類から顔を上げて振り返る。
ボッサンは思わず叫んだ!
「あ~!」
モリモリは横にうつ伏せになる!
「気のせいか」
また書類を見ながら、反対側の椅子の方に歩いて行く。
モリモリは伏せたまま横にゴロゴロ転がって、机の影に隠れる。
園田総監は椅子に座る。
モリモリは、正座して小さくなって息を潜める。
ボッサンからは、園田総監の後ろ姿しか見えない。
園田総監は、書類を見ながらタバコをくわえ、机の上のライターを手探りで探す。
指でライターを弾いて、机の向こう側に落とす。
モリモリの目の前にライターが落ちて来た!
思わず声を出しそうになり、口を両手で押さえるモリモリ!
「チッ」
園田総監は立ち上がって、ライターを拾いにいく。
「やばい~!」
モリモリは足音とは反対側に、這いつくばって逃げる!
園田総監はライターを拾う。
モリモリは椅子の後ろに隠れる。
ボッサンはその光景を見ながら祈った!
「見つからないでくれ!」
園田総監が椅子に戻ろうとすると、
ドアをノックして、誰かが入って来た。
「何だ?」
園田総監は、ライターとくわえたタバコを机に置いて、ドアの方に歩いて行く。
そして、その男と話しながら部屋を出て行った。
モリモリは顔を上げて、誰も居ないと分かると、
{助かった~!}
「今のうちだ!早く部屋を出ろ!」
モリモリは急いでドアまで行って、そ~っとドアを開けて部屋を出た。
「モリモリ、よくやった!こっちに戻って来い」
モリモリが戻って来て、ボッサンの隣に伏せる。
「よく見つからなかったな」
「スネークになったつもりで逃げ回りましたよ~」
そこへホヘトが戻って来た。
「寒いでしょ~。暖かいお茶と肉まん買って来ましたよ~」
「ホヘトさん、ご苦労様ッス。」
「コーヒーは?あと、あんまんがいいんだけど。」
「まったく!人の好意を無にする人だな。」
「普通、何がいいか聞いてから買いに行くだろうが!」
「まあまあ、今日のところは、僕の顔に免じて我慢して下さいよ。」
「モリモリの顔じゃあ免じられないな。」
ホヘトも、モリモリの横に伏せる。
「お!電話がかかって来た!」
園田総監が電話を取る。
「もしもし。‥私だ。‥ユミちゃんか。だめだよ~、ここに電話して来ちゃ。‥うん‥うん‥悪かったよ‥今度“乃愛”にも顔出すからさ~。
‥わかった、今度銀座で幹部会があるから、その帰りに行くよ。そこから歩いて5分位だから。
‥ついでじゃないって‥じゃあ、会議だからまたね。‥うん‥わかったよ。‥じゃあね」
ガチャツ
「ふぅ~」
ホヘトは手帳にメモをとった。
「銀座のキャバクラ“乃愛”のユミちゃんね。」
ボッサンは言った。
「幹部会って“愛國者”のかな?」
それから半日粘った。
分かった事は、“愛國者”の幹部会が、銀座の料亭であるという事が分かった‥




