奈落の底
ここは、暴力団“漆黒誠”(しっこくせぇ)のビルの地下室。
水のしたたる音が響く、冷たいコンクリートの壁に囲まれた部屋。
窓は無い。明かりは天井から下がる裸電球一つ。机と椅子。
ユオが椅子に縛り付けられている。
ドアが開いて、男が2人入って来る。
その音で目を覚ますユオ。
「お目覚めッスか?刑事さん♪」
「う~ん。ここはどこだ?」
周りを見渡すユオ。
「刑事さんにとっては地獄ッスね♪」
ユオは、両手をポケットに突っこんでる男を睨みつけて聞いた。
「なんで僕が刑事って分かった?」
隣で大男が、ポケットからロウソクとライターを出した。
「この前、そごう川口店で切り裂き魔捕まえたでしょ。あの場所にいたんスよ、僕♪」
大男はロウソクに火をつけて、ロウを机に垂らし、そこにロウソクを立てた。
「そんであのクラブBBにお兄さんが来た時、どっかで見た顔だな~って思ったんスよ♪」
大男がユオの所に来て、腕の肘辺りにゴムバンドを縛った。
「髪が金髪だったから思い出すのに1時間かかったッスよ♪」
大男が、粉の入った袋を出してスプーンで少しすくって、スプーンをロウソクの炎で温めた。すると粉が液体になった。
もう1人の男が注射器を出して、スプーンの液体を吸い込ませた。
「これからいい物あげるッスよ♪」
注射器の針を弾きながらニヤリとした。
「やめろ―!」
男はユオの腕を押さえつけ、血管に注射して液体を注入した。
「いやだ――!!」
男はユオの腕に巻いたゴムバンドを外した。
「いやだー!いや‥だ~‥」
ユオの目にうつっている注射器を持った男の顔が歪んでいく。
部屋が歪んでいく。
見る物すべてが歪んでいく‥
「また3時間後に来るッスよ♪」
2人は、明かりを消して部屋を出ていった‥
ドアの開く音。
男が入って来て明かりをつける。
「は~い、お注射の時間ですよ~♪」
男はロウソクに火をつけて
ユオの腕をゴムバンドで縛り
スプーンで粉を溶かし
注射器で吸い込ませ
ユオの腕に注射する
腕のゴムバンドを外す
ユオは男に言った。
「こんな事して!どうするつもりだ‥」
男は笑いながら言った。
「シャブ中にしてあげるッスよ♪ハハハハ‥」
また世界が歪んでいく‥
闇になる
翌日
3時間毎に注射を打たれ続けている。
空腹感は無くなっていた。
けだるい‥
何も考えられない‥
闇の世界‥
注射を打たれ続けて2日目
明かりがつく。
もう動く気力が無い‥
「もう縛らなくてもいいッスね♪」
ユオのロープを解く。
椅子に座ったまま天井を向いている。
目がうつろで視点が定まらない。
男は、ユオの目の前にゴムバンドをぶら下げた。
ユオはゴムバンドに気がつくと、ひったくって取り、自分の腕に巻いた。
ユオの様子を見て男は言った。
「お注射はお預けッスよ♪」
男は出ていった。
また闇になる‥
何か聞こえてくる‥
バケモノの叫び声のような‥
言い知れない恐怖がユオを襲う‥
震えが止まらなくなる‥
バケモノが襲って来る‥
「わ――――!!!」
明かりがつく。
ユオは部屋の隅でうずくまっていた。
ユオは男に気がつくと、這いつくばって寄っていく。
男の足にしがみついて
「注射‥注射‥してくれ‥」
「じゃあ、最後にしてあげるッス♪」
am9:00
川口警察署捜査1課
ユオが拉致されてから3日、懸命な捜索が行われてきた。
しかし、手掛かりになる物すら見つかっていなかった。
ソファーで横になるボッサンに、ラッキーデカ長が声を掛けた。
「ボッサン、3日間ろくに寝てないんだろ?一回家帰ってねろ~?」
ゆっくりソファーから起き上がるボッサン。
「大丈夫っすよ」
立ち上がって窓際に行き、窓を開けるボッサン。
何気なく下を見ると、1台の車が入って来た。
正面玄関まで来てUターンした。その時、後ろのドアが開いて人が落ちた!
ゴロゴロと転がってそのまま動かない!
「おい!車から人が落ちたぞ!」
ボッサンは急いで外に出た。
駆け寄ってみると、上半身はだかの金髪男が倒れていた。
「まさか!」
ボッサンは男を抱き起こす。
「ユオ?ユオか?しっかりしろ!」
ユオの頬はこけて、かなり衰弱していた。
うつろな目でボッサンを見た。
「‥ボッサン‥」
「誰がユオをこんな姿にしやがったんだ!」
ユオを抱きかかえながら、怒りがこみ上げて来るボッサンであった‥