ラッパー&ハッカー
昨日、そごう川口店で逮捕した切り裂き魔は麻薬中毒者だった。
被害者
重体 2名
重傷 2名
軽傷 5名
今月で、麻薬中毒者の犯罪は4件目。
川口警察署捜査1課
ラッキーデカ長はみんなの前で言った。
「昨日逮捕した切り裂き魔は、新宿のクラブ“BB”にいた売人から覚せい剤を買ってる」
ボッサンは腕を組んで呟いた。
「潜入捜査しかないな」
隣でホヘトが聞いた。
「誰がやる?」
ラッキーデカ長はみんなを見渡した。
「ここはやっぱり‥」
ボッサンはユオを見た。
「若手の‥」
モリモリは自分を指さした。
「おれスか?」
ボッサンが突っ込んだ。
「違う!」
ユオが言った。
「僕か~?」
翌日
川口警察署捜査1課
「ちぃ~ッス!」
サングラスに金髪、背中に錦鯉が入った黒のスウェットパーカーに、ボロボロのジーンズを腰パンで履いて、
指輪、ネックレス、チェーンをジャラジャラ付けたラッパー男が入って来た。
ボッサンは部屋に入ってきたラッパー男を睨んで言った。
「ん?誰だ?おめえ」
ラッパー男はサングラスを外して言った。
「僕で~っす」
ボッサンは言った。
「え?ユオか!」
ホヘトも言った。
「お?ユオだ!」
モリモリは悩んだ。
「ん?誰?」
ラッキーデカ長はモリモリに言った。
「おい!ユオだよ」
肩で風をきってウロウロしながらユオは言った。
「どお?覚せい剤買いそうに見える?」
ボッサンはユオの背中を見ながら言った。
「背中の錦鯉って、どうなんだ?」
ホヘトは笑いながら言った。
「ガンダムよりはいいんじゃないすか?」
ラッキーデカ長はユオに言った。
「したっけ、新宿のクラブ“BB”に行ってこい」
ユオはラッパー男になりきって言った。
「うるせ~な!いきゃ~いいんだろ!いきゃ~!」
ボッサンは冷ややかな目で言った。
「向こう行ってからやれ!」
ラッキーデカ長はユオの肩を叩いた。
「無理すんなよ」
ボッサンは言った。
「俺が遠くから見張ってるから、ヤバいと思ったら逃げてこい」
背筋を伸ばして敬礼しながらユオは言った。
「了解!」
新宿
クラブ“BB”
ユオが店に入る。しばらくしてボッサンも入る。
薄暗い店内はR&Bが鳴り響き、重低音の振動が体に伝わってくる。
フロアは、色とりどりの光が交差して、きらびやかに浮かび上がっていて、
その中で男と女がリズムに身をゆだねている。
客席は、抱き合うカップル、密談中の2人、ガラの悪そうなグループ、
点々と席を埋めている。
ユオは、周りを威嚇するようにジロジロ見ながら歩いていく。
空いてる席にドカッと座る。
タバコを出して、ジッポーで火をつける。
ゲホゲホむせるユオ。
「あいつタバコ吸えないだろ」
離れた席でタバコを吸いながら見守るボッサン。
「しばらく様子を見るか」
川口警察署鑑識課
バンが1人、部屋で報告書を書いている。
ラッキーデカ長が入って来て、缶コーヒーを差し出す。
「バン、おつかれ」
「おぅ、サンキュ。一息入れるか~」
バンは、缶コーヒーを開ける。
ラッキーデカ長はタバコに火をつけながら言った。
「忙しいとこ悪いんだが、ちょっと手を貸してほしいんさ」
「ここは禁煙だぞ」
と言って灰皿を出すバン。そして思い出した様に言った。
「あ~、前言ってたやつか。よっしゃ、で?どこに乗り込む?」
机の下から金属バットを出して、腕まくりをするバン。
「おいおい!物騒だな。どこにも乗り込まないよ」
「なんだよ。乗り込まないんか。せっかくホームセンターで買って来たのに」
金属バットをしまうバン。
ラッキーデカ長は周りを見て小声で言った。
「実はさ、警視庁のコンピューターに侵入してほしいんさ」
「ハッキング?そんな事?お安いご用さ」
「そうなのか?」
「あぁ、ペンタゴンだってハッキング出来るぞ」
「ペンタゴンって、アメリカの国防総省のか!」
バンは、隣の机にあるパソコンをカチャカチャやり始めた。
このバンという男、捜査1課にいる頃、犯罪者の勤める企業のコンピューターに侵入して、
見つけた証拠で起訴しようとしたら違法捜査で逆に訴えられた。
それで鑑識課に飛ばされたのだった。
バンは振り返って言った。
「入ったよ」
「え?もお?」
「え~と、愛國者、愛國者っと。あった」
“愛國者”のサイトがあった。しかし、ロックが掛かってる。パスワードを入力しないと開かない。
ロックの解除に取りかかるバン。
真剣な眼差しでモニターを凝視しながら、手は物凄いスピードでキーを叩く!
ラッキーデカ長は、バンの顔を覗き込んで言った。
「そんな真剣な顔、初めて見た」
「うるさい。だまってろ!」
「へいへい」
「よし!開いた!」
まず名簿がある。名簿を開く。
「大体、警視庁の人間だな。上は井室管理官、下は、お前だな。一番上の“X”ってやつが親玉か?」
「そいつは誰だか分からんな」
そして、裏帳簿もあった。しかし、名前が削除されている。ラッキーデカ長が持っている裏帳簿と同じやつだ。
裏帳簿に名前が載っていなければ、犯罪と“愛國者”を結びつける事は出来ない。
ラッキーデカ長はバンに聞いた。
「個人情報は見れるか?」
「ちょっと待って~」
「井室管理官のパソコンは見れるか?」
「これだ」
中を調べる。
「ん?これが怪しいな~。」
クリック!
「ビンゴ~!」
名前が削除される前の裏帳簿だ!これを見れば、誰が何をやっていくら入ったかが一目瞭然だ!
ファイルをUBSメモリーにコピーする。
「これさえあれば、“愛國者”をぶっ潰せるぞ!」
ラッキーデカ長は、UBSメモリーを強く握りしめた!