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こっくりさん、来ない

作者: 壱岐津 礼

       A子の証言


 紙に鳥居描いてな、「はい」と「いいえ」と「男」と「女」、数字は九まで、ひらがなで「あ」から「ん」まで文字書いて、鳥居の上に十円玉置いて、指を乗せたら後は呼ぶだけや。

 自分は、やりとなんて全然なかった。あの子らが「やろう」「やろう」言うて、はしゃいで。あほや思たわ。だって、な、悪い噂なんか、前からようけありましたやん。帰れへんようなった、とか、気ぃ変なる、とか、な?

 いやいや、あんなもん信じてません。気のせいやって。勝手に思い込んで、おかしいなるんやって。せやかて、思い込んで、おかしなって、騒いどる子が実際、おったわけやん。他のクラスでも、そういう騒ぎあったんです。巻き込まれとぅないでしょ?いややなぁ、思いましたわ。え?なんで「いやや」言わへんかった、て?

 言えへんかってんやもん。

 周りみんな「やろう」言うてて、自分だけ「いやや」とか、な?「あほくさい」とか、な?言えんでしょ、ふつう。

 いやいや、別に友だちとか、そういうんとは全然ちごたんです。先生はそのつもりやった思いますけど。自分、おおぜいでわちゃわちゃすんの、好きやなかったんやけど、「友だち作れ」言うて、先生があの子ら引き合わせはって。ほんま、余計なお世話。迷惑でした。あの子らにしても、こっちのこと好きやなかった思います。あぁ、でも、なんか、仲良う見せんのにかこつけて、何かと、いろてくるようなとこあったさかい、ちょっとは面白がってたんかもしれへん。嫌な子らでしたわ。

 せやさかい、余計、嫌な気ぃしたんです。だってね、どうせね、呼び出してろくな質問せぇへんに決まっとるでしょ?からこうて、いらうつもりでおったんちゃいます?今でもそう思いますわ。

 そんでも、断れへん雰囲気やったし、断ったら後で何言われるかわからへんかったし、しょうことなしに指乗せたんです。十円玉に、ね。で、あれ、「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」やったっけ?言いよんの、「いややなぁ」思いながら見とったんです。何遍も何遍もしつこぅ言いよんの。ほんま、しつこかったんです。ほんま「いややなぁ」思て。もう、「絶対、来んな」思てね。いや、こっくりさんなんかおらへん。おらへんに決まってますけど、気分の問題ですやん。「絶対、来んな、来んな、来んな。絶対、動くな」って、もう、指乗せてた間ずぅっと、念じとったんです。

 そら、もちろん、おらんもんが来るわけあらへん。来ませんでしたわ。十円玉、ぴくっとも動きよらへんかった。あの子らみんな、つまらなそうな顔しとって、ざまぁみろ思いました。



       B子の証言


 こっくりさん?ああ、あんなん遊びやん。本気にしてたわけやあらへん。するわけないやん。

 あんなぁ、占ってほしい言う子がおるやろ?で、だいたい、何言うて欲しがってるかとか分かるやん。同じ学校(かよ)とって、話もするし、噂とかも、まあ、色々、聞こえてくるもんやし。せやから、あれな、十円玉な、うちらが動かしとったん。こう訊かれたらこう答えたろ、て、最初から話合わして。相手に知られんようにな。分からんようにやっとったんや。向こう、びっくりしよんの、見とって面白うて。何遍もやったったわ。

 なんで?なんも悪いことなんかあらへんやんか。言うて欲しがっとること言うたったんや。どう答えたからって、何がどうなるわけでもないやん。相手かて、そんな、全部信じてるわけでもないし。遊びやん。遊び。別に悪いことしたとか思てへん。

 いや、……せやな……、一度だけ、気色悪いことは、あったけど……。

 あの子や。先生が「友だち、なったりなさい」言うて押しつけてきた子で、いっつもむすっとして、陰気くさぁて、話も合わへんし、いろてもなんか、もう、全然、調子合わしてきよらへん。何か、反応ずれとんねん。おもろないやっちゃっな、思たわ。ほんま、いややったんやけど、他の子もいやがっとったんやけど、先生が「仲良うせい」言うから仲間に入れたっとったんや。先生が言うんやもん、しょうないやんか。

 で、あの子、おどかしたら、ちょっとはおもろいんちゃうか、ゆう話になって、やったろ、いう話になって、やることになったわけやん。いつもみたいに、他のみんなでこんな風に動かしたろ、ゆうて相談して、な。声かけたら、嫌そうな顔しとったけど、うちらの方が数多いし、押し切っ立ったわ。

 それで、こう、放課後に、あの子の机に紙置いて、「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」ゆうたんやけど……、それが―――、なんか……、あの時だけ動かへんかった……。十円玉、机に貼り付いたみたいに、押しても引っ張っても全然動かへん。そら、こっそりやってんやもん、気ぃつかれたらあかんさかい、力いっぱいとはいけへんけど、相手、一人やん。こっち三人はおってんえ?一ミリも動けへんとか、おかしいやん。どっち向きにも動けへんとか、おかしいやん。ちょっとはずれそうなもんやんか。それがほんま、ぴったりくっついてもうてるみたいになってて、みんななぁ、何も言わへんかったけど「おかしい」いう顔しとったわ。顔、赤なったり蒼なったりしとったわ。

 そんで、あの子の方見たら、なんか嬉しそう、ゆうか、得意そう、ゆうか、はっきりせぇへんやけど、なんや、なんかふつうやない、なんともいえん目ぇしとって、ちょっと……、この子は、いろたらあぶないかも、いう気ぃがしたんや。

 うん、あれからはなんか、こっくりさん自体、気味悪ぅなって、やらへんよう、なってん。

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