異世界
ナゼナニログアウトー。
皆さん。こんにちはー。
今日は皆でログアウトの方法をお勉強しようね。
ログアウトするにはまずはメニューを開いてみましょう。
【メニュー】と声に出して唱えると、アラ不思議。手のひらに半透明のデッカいスマフォみたいなボードが出現しました。これがメニューらしいです。
無事にメニューは開けましたか?そしたら次は"ログアウト"と書かれたタブを探してタップしてみましょう。
キチンとタップできたらメニューに30秒のカウントダウンが表示されますので、それが"0"になった瞬間ログアウトが完了します。
さてここでトラブル発生です。困りました。そんな時はどうするんだったかなー?
そうですね。困った事があったらセンセーに質問しなくちゃいけないですね。それじゃ大きな声で呼んでみましょう。センセー。
Q."ログアウト"タブが見当たらないんですがどうすればいいですかー?
A.よく探しましたか?見落としてるかもしれませんからもう一度よく探してみましょう
ハイ。センセー。
ヨーシ。僕頑張るぞー。
見落としてるかもしれないって言ってたから今度はもっとシッカリ探さないとね。
うーん……。でも……。あれー……。やっぱりどこにもないみたいだけどなぁ……。
念の為に別のタブ――"ギフト一覧"とか"受注一覧"とか"コミュニティ"とかも探してみたんだけど……。
ふぇぇぇぇぇ……どこにも見当たらないよぉぉぉぉ。
さぁまたもやトラブル発生です。またまた困りました。こんな時はどうするんだったかなー?
そうだね。またまたセンセーの出番だね。それじゃ大きな声でもう1回呼んでみましょうか。センセー。
Q.やっぱり"ログアウト"タブが見当たらないんですがどうすればいいですかー?
A.うーん……。それはおかしいですね。ホントによく探しましたか?
ちゃんと探した……よね?
うん。ちゃんとくまなく探したよ僕。だけどなかったんだ。
間違いないよっ!自信を持ってセンセーにお返事しできるよ僕っ!
Q.ちゃんと探したけどやっぱり"ログアウト"タブはありませんでしたー
A.あ、じゃあログアウトできないですね
…………。
ふざけるなッ!!
なんでバーチャル空間でそんな辛い現実ぶつけられなきゃいけないってんだよッ!!
そもそもバーチャルなのに現実ってどんな二律背反だよッ!!こんなの絶対おかしいよッ!!
チキショウめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
右手のひらに乗っかってる半透明のボードを見つめたまま僕は心の中で絶叫した。
心つんざく言い方をするなら、それが夢も希望も打ち砕かれた瞬間だった。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
何だ。3Lでは僕を驚かせ続けないといけないって掟でもあるの?
センセー今なら怒らないから正直に言ってごらん?
「それにここ多分ゲームの中ですらないぞ」
再びおかしな事を言い始めた従兄弟に底知れない不安を感じつつ僕は溜め息を吐いた。
ゲームじゃなきゃなんだってんだよ。アァン?
「多分だけど、ここ異世界とかそういうとこだぞ絶対」
止めろッ!それ以上口を開くのを直ちに止めろッ!殴り飛ばすぞッッ!!
「ちょっと待ってよ!イキナリ何言い出すの!?」
これ以上従兄弟がおかしな事を言い出す前に慌てて止めに入る。
確かコイツ今年で18歳なんだ。つまり18にもなって本気でこんなことを言ってるんだ。
ロマンティックが止まらないのもいい加減にして欲しい。いくらなんでも異世界って、そんな馬鹿な。
「ん?お前はおかしいって思わないか?」
「えっと……何がだろ?」
「だからこれがゲームだとしたら、現実の俺3日も飲まず食わずなんだぞ?」
言われてみれば……少々おかしいような?食事だけならまだしも、水も飲まずに3日も過ごせるもんなのかな。
いや、でも、だからって異世界とか発想がブッ飛び過ぎだと思うけど。
「な?おかしいだろ!」
何故か目をキラキラさせて従兄弟から同意を求められた。
信じられないかもしれないけど、どうやらコイツはこの意味不明な現状を楽しんでるみたいだ。ふざけんな。
ワクワクが抑えきれねぇぜ!とその目が物語っている。ホントふざけんな。
「それに現実でヘッドギアつけたまんまだとしたら、3日も経つ前にお袋あたりに起こされるだろ?
ログインしたまま3日も経過してるって時点で相当異常だと思わないか?」
だから何故そんなにも嬉しそうなのか。しかもグウの音も出ない程の正論。
いつもはツッコミ所しかないくせに、こんな時に正論吐くなんて卑怯だぞッ!
「それに――
「ちょ、ちょっと待って!ちょっと今いっぱいいっぱいだから、ちょっとだけ待っててッ!」
なおも物騒な事を言い出しそうな従兄弟の言葉を遮ろうとしたけどダメだった。
「却下。涼太はつまらないことでスグ悩むからな。待ってたら日が暮れる!」
もう1回言う。遮ろうとしたけどダメだった。つまりはそういう事だ。
従兄弟は勢いよく右手を振り上げると、超勢いよく振り下ろした。
「ぶべらッ!」
何故ブッたし!?
「痛いだろ?」
そりゃ痛いよ!?
「そう、痛いんだよ」
何が言いたいの!?っていうかその前に謝ってよ!?
恨みがましい目で見つめる僕に対し、申し訳なさなんて1ミリもない態度で従兄弟は堂々と言った。
「ここがゲームだとしたら痛いのはおかしいだろ?」
言 葉 で 伝 え ら れ た よ ね ?
割と重要な話のはずなのに、ショッキング過ぎる伝達方法のせいでサッパリ頭に入ってこない。
どうせ『実際に感じてみないと実感できない』みたいな理屈で攻撃してきたんだろうけど、余計なお世話だよ。
既にさっきのショルダータックルで痛みは経験済みだったからねッ!思わず『グピッ』って声出るくらい痛かったんだからなッ!
「聞いてるか?今重要な話してるぞ?」
「聞いてるよ……。ゲームだと痛みは感じないって話でしょ?」
ジンジン痛む頬を手で押さえながら返事をすると、従兄弟が満足気に頷いた。当然謝罪はない。
突然の暴力に怒り出さない僕は我ながら偉いと思う。決してヘタレだから怒れないわけではない。ヘタレではないのだ。
「まぁ、ゲームの中で感じないのは痛みだけじゃないけどな。
αテストの時は腹が減ったりもしなかったし、眠くなったりもしなかったぞ」
なるほど。だとするとゲームでは"感覚"全般が制限されたような環境だったのか。
そして――
「でも"ここ"では全部"感じる"って言いたいんだよね?」
「おう。だから"ここ"は――ゲームの中じゃないんだよ!」
改めてそう念を押すと、従兄弟はニヤリと笑った。
「少しは納得したか?」
うーん……。でも今の話ってαテストの時と比べての話だよね?
「"感じる"って要素がβテストから追加されたって可能性もあるんじゃないの?」
ふと疑問に思って尋ねてみたもののバッサリと断言されてしまった。解せぬ。
「それはないだろ」
「理由を聞いていい?」
「そりゃそんな要素追加したらゲームになんないだろ?」
「ゲームにならない……?」
オウム返しに聞き返すと、従兄弟は意外そうな表情で言った。
「だってお前、痛みなんて感じれるようにしたらモンスターから攻撃された時どうなると思ってんだよ。
場合によっちゃ全身焦げたり、片腕もげたり、頭潰れたりすんだぞ?」
「……へ?」
「だからー。剣と魔法のRPGで痛みなんて感じるようになったらモンスターと戦うのも一苦労だろうが!」
た、確かに。言われて見ればそうだよね。モンスターと戦うゲームだって事を失念してた。
「つーわけで、少なくとも痛みを感じるようなシステムの導入は常識的に考えてありえないだろ?」
じゃあ多少なら痛みを感じる仕様だとしたら?思わず口に出そうになった言葉をギリギリで飲み込む。
あ、危なかった……。そんな事言おうものなら今度は血が出るような攻撃を受けるハメになってたよ絶対。ヤツはヤルタイプの人間だ。
「ここまで説明してんのにまだ信じないのか?」
呆れた口調でからかうようにそんな事を言われる。
「そういう訳じゃないけどさ……」
小声でそれだけ返答すると、心底愉快そうな従兄弟の笑い声が聞こえた。
「ハハハ!涼太は意外と頑固だからな!」
「違うよ、兄ちゃんが柔軟すぎるだけだよ……」
柔軟っていうよりブッ飛んでるだけって気はするけどね。
それにこんな異常な状況を受け入れられないからって頑固呼ばわりされるのも心外だ。
大体どこに『ここは異世界です』って言われて『そうですか異世界ですか!』って信じるバカがいるっていうんだよ。但し目の前の人物は除く。
「こんな非常識な場所なんだ、常識で物事考えててもしょうがねぇぞ?」
不覚にも従兄弟のこの言葉はその通りだと思ってしまった。
異世界だと言われても信じられないけど、ここが"異常"だというのは流石に分かるよ。
それもちょっとやそっとじゃ収まらない"超異常"な状況なんだよね?
そう――
少なくとも『ログアウトできるようになるまでジッと待つ』なんて"常識"は通用しないくらいには"異常"なんだと思うんだ。
そして、しばらくログアウトが望めないってことは、しばらくここで暮らさなきゃいけないってことだ。
痛みを感じる身体で、剣と魔法の冒険か……。確実に胃が痛くなるなコレ……。
僕はこれから始まるであろうスパイシーな生活を想像してそっと溜め息を吐いた。
なんだか大変な事になっちゃったな……。
これからどうなるんだろ……。
なんだ今回の話……。
時々テンションがおかしくなります。病気ではないと思うのですがorz