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目覚めるとそこは異国の地――じゃなくて3Lの世界でした。

初めての3Lの大地!めくるめく冒険の世界!何て心おど――らないのは僕のせいじゃないと思うんだ。うん。


僕はクラクラする頭に手を添えてとりあえず周囲を見渡してみた。

どうやら僕がいるのは円形の広場みたいなところで、中央にはコレでもか!って程大きな銀色のオブジェが建っている。


何を模したものかは分からないけど白銀色の立派なオブジェだ。表面にはびっしりと細かなレリーフが彫ってあって全身で『お金かかってます!』と主張しているみたいだ。現実世界で建てるならさぞかしお金がかかるだろうなぁ……。

中でも目を引くのは地面から3mくらいの高さに彫られた鳥の意匠だ。


ホント嫌ってくらい目立ってるんだこれが。とくにクチバシ部分がね。

なぜって?そんなの決まってるじゃないか。


「どういうことなの……」

僕はクチバシに引っ掛けられたドス黒い看板に書かれた『プレイヤー緊急避難所』という文字を読んで思わずボヤいた。

しかもよく見ると『緊急避難所』と書かれた左脇に小さな文字で注記されている。


曰く『※ログインされたばかりのプレイヤーは必ずお立ち寄りください』

さらに曰く『※寄らねば死にます』


僕は3度看板を読み返して内容に間違いがないことを確かめると目を閉じて大きく息を吐いた。


「怖すぎるよッ!」

何だよ怖いよ3L!どういう事なんだよッ!死ぬってなんだよッッ!!

あの従兄弟の誘いに乗った時点で危険なのは諦めてたけど初っ端から死亡宣告なんて酷すぎるよッ!


折角ログインしたのに初めて見るのが警告ってどういう神経してんだよッ!

迎えてくれよッ!せめて『おいでやす3L』とかも看板に書いとけってんだよッッ!!


いつだってそうだ。厄介事の発端は全てあの従兄弟なんだ……。

なんたって古い記憶では僕の小学校入学まで遡れるからね。


忘れもしないよ……。

入学したばかりの僕をキラキラした笑顔で校舎3階のベランダまで引き摺ってった後、ヤツはとても楽しそうに何て言ったと思う?


『こっから飛んで、一番遠くまで飛べたヤツが勝ちな!』


一瞬意味がわからなかったよ。

『お兄ちゃん何を言ってるんだろう』と考えて――んで次の瞬間悟ったよ。


あ、この人ここから飛び降りるつもりなんだって。

あまつさえどっちがより遠くまで飛べるか飛距離を競う気なんだって。


それまでも『元気な人だな』とは思ってたし、細々と様々な被害も受けてたけどまさかここまでブッ飛んだ人だとは思ってなかったんだ。

従兄弟が手にしっかりと握った2本の大人用の傘をどう使うつもりだったかなんて聞く間でもないことだよね。


で、普通の1年生ならここで恐怖に負けてワンワン泣いちゃうんだろうけど

そんなことしようものなら笑顔の従兄弟から突き落とされるのは目に見えてる。


ヤツの従兄弟を6年も経験してれば誰だって分かるよ。

ヤツはやる。笑顔で僕を突き落とす。そして僕の後に続くようにハイテンションに飛び降りるって。


だから当時小学1年生だった僕は必死に考えた。

どうすれば生き残れるのか。どうすればこの場から逃げ出して助けを呼びに走れるのか。

こみ上げる恐怖に蓋をして、幼い頭でそりゃもう必死に考えたよ。


考えて。考えて。考えて。

考え抜いた答えを従兄弟に告げたんだ。


『どのくらい飛んだか分かるように、地面に印つける道具用意しようよ。

そしたら明日、他の皆にどこまで飛んだかちゃんと説明できるよ』


かくして二つ返事で了承した従兄弟から『先生からチョークを借りてくる』という大役を仰せつかった僕は顔中ベチャベチャにしながら職員室に飛び込んで職員室の中心でヘルプミーと叫んだんだ。生きてるって素晴らしい。


この後、流石に色んな大人たちから怒られまくって自分がいかにとんでもないことを企画してたか思い知った従兄弟が泣きながら謝りに来るんだけど、まぁそれは関係ない話か。

さらにその後、『お詫び』と称してそれまで以上に僕を構い倒すんだけど、それはもっと関係ない――いやコッチは思いっきり関係あるね。だってその結果今僕はここにいるんだからさ……。


我ながらヒドイ話もあったものだよ……。

しみじみと過去を振り返ってると不意に寒気がした。


ゾクリとした不快な感覚に急かされるように周囲を見渡す。

――と。


「りょ……」

き、聞きたくないッ!!今一番聞きたくない人間の声が聞こえた気がするッ……!

が、もちろんそれは気がするだけじゃなくて、まごうことなき現実だった。


「りょうたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

突如として大音量で響く僕の名前。そして響く靴音。

声の聞こえてくる方向――右斜め前へ恐る恐る視線を向けると、すんごい形相でこちらへダッシュしてくる従兄弟の姿があった。




あ、これアカンやつや。

とりあえず僕は考える事を放棄して来るべき衝撃に備えた。

改めてよろしくお願いしますorz

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