ギフト選択(2)
目の前に現れた半透明のキャラ作成用ボードはスマートフォン感覚で操作出来た。
というわけで僕は今、ギフト一覧を一心不乱にスライド中だったりする。
「どんだけあるんだろう……」
スライドしてもスライドしても一向に終わりの見えないギフト一覧にうんざりしながら僕はそんな事をボヤいていた。
『とりあえず一通り全部のギフトに目を通してから決めよう』なんて考えはどうやら甘かったらしい。
僕はスライドさせる手を止めハァと溜め息を吐いた。
そして最後に聞いた女性アナウンスの内容を思い出す。
たしか『やりたい事』じゃなくて『出来る事』『得意な事』からギフトを選ぶといいんだったっけ?
考えてみると非常に含蓄のある言葉だよね。
マウスとキーボードで操作する従来のゲームだったら
クリックするだけで剣を振ったり、魔法を放ったりできるけど、VRゲームではそうはいかない。
剣を振るには実際に腕を動かさないといけないし
魔法を放つには呪文みたいなのを唱える必要があるんじゃないかな。
つまり異様に滑舌が悪い人なんかは呪文を正しく唱えられないんじゃないかと思うんだ。
この仮定が正しければ、魔法使いに適正があるのは『魔法を使いたい』と思ってる人じゃなくて、『舌が滑らかな人』ってことになる。
まさに女性アナウンスの言っていた通りの事だ。
んで、僕が得意な事ってなんだろうな……?
腕を組み考えてみる。
そうだなぁ……とりあえず滑舌はいいよね。
どんなに言葉数の多い歌でも苦労した記憶はないし。
もっと細かくツッコンでいうと歌うまいらしいんだよね僕。
勉強も運動もお察しくださいな成績だけど、歌だけはプロ顔負けだと絶賛されるくらいにうまいらしいんだ。
だけど自分の歌唱力なんてよく分かんないし、つい最近まで実感なかったんだけどね。
自覚したのは、歌声を録音してCDにしてくれるカラオケボックスに行ったのがキッカケだったなぁ……。
たしか高校1年2学期の終業式の日だったと思うんだけど、友達5人で行ったカラオケボックスがたまたまそのサービスをやってたんだよね。
で、折角だから記念に録音しようぜ!って話になって、生まれて始めて自分の歌をCDに録音してみたんだ。
でもさこういうのってその場のノリで作る記念品みたいなもんだから、わざわざ後で聞くような事普通はしないじゃない?
そんなわけで僕も放置してすっかり忘れてたんだけど
3ヶ月くらい前かな。部屋の片付けしてたら『黒歴史』なんてラベルの貼られたCDがラックから出て来たんだよ。
気になるよね?だって『黒歴史』だよ?何が入ってんだって思わない人はいないと思うんだ。
で、自分の歌を録音したCDに『黒歴史』なんてラベルを貼った事なんてすっかり忘れちゃってた僕は
そのCDを聞いたよ。だって気になるもん『黒歴史』。誰だって聞くはずだよ。
――で20回くらいリピート再生しちゃったね。
だって歌うますぎ。
音程はズレないし、低音は迫力あるし、高音はスカッと伸びるし、抑揚も申し分無し。
最初の3回くらいは自分の歌声だって気づかなかったからねホント。
他に何も誇れるモノのない僕の唯一の長所だと言っても過言じゃないよ。
……アレなんか悲しくなってきた。
でも歌なんて3Lで何の役にも立たなさそうだし、そもそもギフトに存在してるのかな?
……ダメだ。涙が溢れちゃう。
込み上げてくる熱いモノを堪えて、僕は目の前のボードに視線を戻した。
気を紛らわせるように再びギフト一覧をスライドさせているとあるギフトが目に留まる。
【歌う】
あった。存在自体が危ぶまれた【歌う】ギフトがいきなり見つかってしまった。
僕はズズッと鼻をすすると、ヘラッと情けなく笑った。
3Lは武器と魔法でモンスターを狩る超肉食系バトルゲームだ。
そんな殺伐としたゲームでは、歌なんて何の意味もないかもしれない。
さらにギフトの選択はとても重要な事だ。
従兄弟から、女性アナウンスから散々言われてきた事だ。それは分かってる。
……。
でも、まぁ1個くらい遊び心を発揮させてもいよねー。
それに女性アナウンスの人も『得意な事』から1個くらい取るといいって言ってたし。
案外簡単に決断して僕は【歌う】ギフトを取得すべく、力強く画面へタッチした。
ピロッと軽快な音が鳴り【歌う】ギフトの詳細が画面に表示される。
――――――――――――――――――――――――――――――
【歌う】
幸せ系ギフト
[詳細]
気ままに歌を口ずさんでみよう。
上手に歌えたらみんな嬉しくなっちゃうかもね。
歌う時は恥ずかしがらずに大きな声で元気よく!
[HowTo]
いつでもどこでもご自由にどうぞ。
だけどモンスターのいるところだけはNGな!
見つかって食われちゃっても責任持てねぇんだぜ!
――――――――――――――――――――――――――――――
……。
何だかよくわからないけど、非常にざっくりした説明文だなぁ……。
まず幸せ系っていうのがよくわからない。
まぁ、ハッピーなのはいい事なんだし、いいって事にしておこう。
さ、次だ次。
次からは役に立ちそうなギフトを選んでいかなくちゃね。
詳細画面の右上にある[x]ボタンをタッチすると音もなく【歌う】ギフトの詳細画面が消える。
僕はギフト一覧をスライドさせながら、今後について思考した。
どうせだから魔法も使えた方が楽しそうだよね。
うん。剣を振り回して戦うのは身体能力的に難しそうだから、後方支援みたいな感じのキャラクターの方が相性良さそうだ。
それにログイン後100%絡んで来るだろう従兄弟は、性格的に考えて
間違いなく近接ガチンコ戦闘職を選択するはずだから、バランス的な意味でも僕が後衛を努めるのは理にかなってるよね。
あ、あと絶対無茶するだろうから回復系のギフトとかも必要だろうなぁ……。
パーティープレイ中だろうが何だろうが、ヤツは間違いなく無茶するタイプの人間だからなぁ……。
きっと『嫌だ!』と拒否しても、ガハハと笑いながら危険な場所に連行されるんだろうな僕……。
ううぅ、嫌だぁぁぁ……。
例えゲームの中だろうが、僕は死にたくはないんだぁぁ……。
そんな陰鬱とした事を考えてると1つのギフトが目に留まった。
【手当て】
何ともタイムリーなギフトだ。【手当て】か。名称からして回復するためのギフトなんだろうな。
今後の安全の為にもここは是非とも取得しておくべきだよね?
名称からして自分にも他人にも使えそうなギフトみたいだし
ヤツが怪我した時も僕が怪我した時も役立ちそうだ。
おし、2個目はこの【手当て】を取ろう。
ギフト一覧の【手当て】をタッチすると、先ほどと同じようにピロッと音が鳴り【手当て】ギフトの詳細が表示された。
――――――――――――――――――――――――――――――
【手当て】
幸せ系ギフト
[詳細]
痛いところに手を当てよう。
『痛いの痛いの飛んでいけ~』と唱えると、心がほっこり温まるね。
なお、HPが回復したりはしない模様。
[HowTo]
いつでもどこでも好きに使っちゃってOK。
転んで膝を擦りむいちゃった子供とかに効くかもしれないね。
――――――――――――――――――――――――――――――
なん……だと……。
えっ……書いて字のごとく手を当てるだけのギフトなの??
しかもHP回復なしって、じゃあこのギフトって一体なんのために存在してるの?
ひょっとして本気で『心をほっこり温めるため』だけのギフトってこと?
しかもしかもまたしても幸せ系ギフトだし。
幸せなのはいい事なんだけど、どう考えてもこのギフトで幸せになれるビジョンが思い浮かばないんですが……。
こ、これはいけない。
回復系のギフトと思ったら、心をほっこり温めるギフト取っちゃいましたなんて洒落にならないよ……。
僕は気を引き締めるように頭を左右に振った。
ギフト一覧をスライドさせる指にも思わず力が篭る。
次こそ回復ギフトを……!
その一念で一覧を確認していると1つのギフトが目に入る。
【祈る】
パッと見そさそうなギフトだと思う。
僧侶とか神官とか、HPを回復する系の職業を思わせる素敵なギフト名だと思う。
これなら大丈夫だよね……?
誰に尋ねるでもなく、心の中で自問しながら
僕は恐る恐る【祈る】ギフトをタッチした。
再びピロっと音が鳴る。
そして――再び絶望に襲われた。
――――――――――――――――――――――――――――――
【祈る】
幸せ系ギフト
[詳細]
両手を組んで目を閉じて祈ればいいじゃない。
祈る対象はどんな神様でもOK!一生懸命祈りを捧げてあげれば神様だっていい気分。フーッ!
なお、奇跡などは起こらない模様。
[HowTo]
いつでもどこでもご自由に。
なお神殿っぽい場所で祈るとさらに効果的な模様。
――――――――――――――――――――――――――――――
し、幸せ系ギフト3連チャン……。
なになに何なの。僕って『幸せ系ギフトを必ず取得しちゃう呪い』でもかかってるっていうの?
幸せなのか呪いなのか、ああもうややこしい!
大事な大事なギフト枠だっていうのに
なにやらよくわからないギフトを3個も取っちゃったんですけど……。
一体全体、何がまずかったんだろう?
どうしてこんなことになっちゃってるんだ?
確かに【歌う】ギフトを取るときに『1個くらいいいか』って甘い気持ちがあったことは認めるよ。
だけど、それ以降は『回復系のギフトを取得しよう』と真面目に選んだにも関わらず幸せ系3連チャンだよ?
ってことは、回復系のギフトを取ろうと思った事が間違いだったって事なの?
何の根拠もない仮説なんだけど、いったんそんな考えが浮かんでしまうと次も回復系のギフトを選択するのが怖くなってくる。
と、とりあえず回復系は後回しにして先に攻撃系のギフトを選ぼう……。
べ、別にビビってるわけじゃないんだからね?
ビビってる訳じゃなくて、コレはそう。発想の転換ってヤツだからね。
若干呼気を荒げつつギフト一覧をスライドする僕の目に
新たなギフトが目に入る。
【お呪い】
おのろい……?
聞きなれない言葉だ。3L独自の言葉ってヤツかな?
よくわからなけどギフト名からは、何やら邪悪で強力そうな気配をビシバシと感じる。
だって『おのろい』だよ?
普通は『呪い』でしょ?それにご丁寧にも『お』をつけて『お呪い』って表記するくらいだからきっと『呪い』よりもワンランク上のギフトなんじゃないかな?
所謂上位ギフトみたいな感じ?
禍々しい雰囲気なのが気になるけど、既に贅沢言ってられるような状況でもないし強力なギフトなら喜んで取得するべきだ。
よし【お呪い】
次のギフトは君に決めたっ。
祈るような気持ちで一覧の【お呪い】をタッチする。
タッチの瞬間。思わず目を閉じてしまった僕の耳に
例のピロッと軽快な音が聞こえたのでゆっくりと目を開く。
画面に表示されている【お呪い】の詳細を見て、先ほど開いた僕の目は――
クワッと最大限まで見開いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
【お呪い】
幸せ系ギフト
[詳細]
『おまじない』って読むんだよ?
恋のおまじないや、願いが叶うおまじないなんかをやってみよう。
気休めだっていいじゃない。君のおまじないで誰かが喜んでくれるんだったら。
[HowTo]
いつでもどこでもお好きな時に。
願掛けみたいなもんだからー。ジンクスみたいなもんだからー。
――――――――――――――――――――――――――――――
ノォォォォォ!ルビふっとけよコンチクショー!!
なにが「おのろい」だよ、「おまじない」じゃないかぁぁぁコンチクショォォォォォ!!
しかもギフト名だけ『お呪い』って漢字表記で
他は全部「おまじない」って平仮名表記で統一しているところに作為的な悪意を感じる!!
しかもよく見たらコイツも幸せ系ギフトじゃないか!
幸せ系ギフトを4連チャンで選んじゃうなんて、それどんな不幸だよ!!
ああもう、相変わらずややこしい!幸せなのか不幸なのかややこしい!!……ってか確実に不幸だろこの状況!?
思わず目の前の半透明ボードを平手でバンバン叩いてしまった。
何かここまでケチョンケチョンにヒドイギフト選択しまくると、凹むよりも怒りが沸いてくるや……。
でも、ダメだ。こんな時だから冷静にならなくちゃ……。
いい加減手も痛くなってきたことだし、僕はボードへの平手打ちを止めると思案した。
まずここまでの敗因を考えよう。
【手当て】【祈る】を連チャンで取得してしまったときは
回復系狙いがダメだったのかもしれないと、根拠のない弱気に陥ってしまった。
で、その結果が【お呪い】ギフトの取得につながるわけなんだけど、まぁ今は置いとこう。
【手当て】【祈る】【お呪い】この3つのギフトの共通点。
それは『なんとなーく良さそう』というニュアンスで決定していたところだと今ならばハッキリと思える。
回復系が欲しいからと選んだ【手当て】【祈る】
だけど、よく見るとどちらのギフト名も直接『HPを回復させる』といった意味合いは混じっていないよね?
次に攻撃系が欲しいからと選んだ【お呪い】
これもよく見るとギフト名に『攻撃手段』といった意味合いは混じっていない。
……まぁ、お呪いの場合それ以前の問題だったわけだけどね。
つまりこれからギフトを選択する際は
もっと分かりやすいギフトから選択していくべきだと思うんだ。
そう例えば【攻撃魔法】とか【HP回復魔法】とか
そういった曖昧さの欠片もないギフトから取得していけば
少なくとも今まで味わった悲劇は回避することができるはずだ。
うん。もう僕はギフト名に惑わされたりしないぞ。
そう決意を固め、ギフト一覧をスライドさせる。
【戦闘技術】
うん。よくわからない。
【魔法論理】
これもよくわからない。
【料理】
ん?
今しがた目に入ったギフトを二度見する。
【料理】
キタコレ?
ぉぉ、キタよ。シンプルイズベストだよ。
これはアレだよね?ご飯を作るアノ【料理】って事だよね?
ぉぉー。キタコレだよ!
ようやく分かりやすいギフト名を発見できた喜びからか
僕は難しいことは何も考えず、まるで当たり前のように【料理】をタッチした。
――――――――――――――――――――――――――――――
【料理】
幸せ系ギフト
[詳細]
おいしいご飯が作れるようになるよ。
美味しいご飯を振る舞ってあげれば、みんなニコニコ笑顔間違いなし!
モリモリ作って、モリモリ食べよう。
[HowTo]
いつでもどこでもいくらでも。
食材さえあればキラッと料理がつくれるから、色々試してみてね。
――――――――――――――――――――――――――――――
ヤッター!狙い通りご飯を作るアノ【料理】ギフトだったぁぁぁぁ!
ぁぁぁぁぁ…………ぁぁぁぁぁああああああ。……ぁあ?
……アレ?これで良かったんだっけ?
確かにスゴク分かりやすいギフトだったけど、僕ってご飯作るギフトが欲しかったんだっけ?
……。
ダメじゃないか!ご飯作ってどうするんだよ僕!!
ご飯作るんじゃなくて戦わないといけないのに。
それにまさかの幸せ系ギフトだし!?
5連チャンで幸せ系ギフトなんて不幸以外の何物でもないよ!!
ああもう、幸せなのか不幸なのか分かりにく…ってこのくだりは4連チャン目にやったばっかりだよ!!
「あぁぁぁ……」
思わず頭を抱えてうつ伏せてしまった僕の耳に
聞き慣れた。そうとても聞き慣れたピロッという音が聞こえた。
まるで条件反射のように目の前のボードを確認してしまう。
そこには今しがた僕が取得『させられてしまった』ギフトの詳細が表示されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
【愛】
幸せ系ギフト
<強制取得>
取得条件:幸せ系ギフトを5つ取得していること
[詳細]
よくもまぁ、これだけノンキなギフトばっかり取ってくれちゃったよね~。
『君に待ち構えるのは剣と魔法のファンタジーってわかってる?』なんて野暮なことはもう言わないよ!
きっと君の周りは笑顔がいっぱい。幸せいっぱい。愛もいっぱいだろうからこのギフトを贈るよ!
[HowTo]
愛にHowToなんて存在しないのさ。
愛。それはどこにでもあって、どこにもないもの。
愛。それはいつまでも変わらず、絶え間なく変化するもの。
――――――――――――――――――――――――――――――
愛。ああ、そうですか。愛。
画面を見たまま固まってしまう。強制取得ってなんだろうか?
正直贈られても困るんだけどな……。こんな重そうなギフト。
って、アレ?ということは強制的に6個目のギフトを取得しちゃったってことなのかな?
元々あんまり優秀じゃない僕の脳では処理が間に合わず現状の理解が遅れてしまう。
言い方を変えると軽い現実逃避。さらに言い方を変えると『どうしてこうなった』
ダメだダメだダメだ……。
既に6個も取得しておいてこんなこというもんじゃないんだけど
このままではダメだ。こんなギフトじゃ戦えない。一番いいギフトを頼む。
とはいえ残りのギフト枠はたったの4個しかないのも事実なんだよね……。
もう何というか……正攻法ではどうあがいても絶望しか見えないんだ。
だって普通のプレイヤーは10個の枠を使ってギフトの構成を考えるんだよ?
それが僕の場合は実質4個だけ。半分以下の容量しかない今、正攻法なんて綺麗事は言ってられないよね。
目標を1つに定めよう。脇目もふらず、ただ1点のみを求めよう。
武器も魔法もなんて贅沢を言ってられる状況じゃない。定めた1点に向かって残り4つのギフトを選択しよう。
「えっと、僕の3Lにおける目標はなんだろう……?」
思わず声に出して思案する。
しかし答えは考える間でもなくあっさりと見つかった。
死にたくない。
そう、例えゲームだとしても僕は死にたくなんてない。僕は怖いのは大嫌いなんだ。
だとしたらどういうギフトがいいんだろう?
モンスターを倒すためのギフトじゃなくて、モンスターから倒されないためのギフトだよね。
つまりは、しぶとそうなギフト?
って、しぶとそうなギフトってどんなのだよ……。
セルフツッコミを入れたところで1つのギフトが目に留まる。
幸か不幸かこの時の僕の目にはそのギフトがとても輝いてみえてしまった。
【サバイバル】
なんて、しぶとそうなギフトだろうか……。
【サバイバル】というギフト名を見た瞬間
『ファイトー!いっぱーつ!』でお馴染みの栄養ドリンクのCMが僕の脳内にフラッシュバックした。
逞しくそしてしぶとい男の生き様。
よく考えると僕みたいな草食系男子とは似ても似つかない世界なんだけど
気がついた時にはすでに【サバイバル】ギフトをタッチしてしまっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
【サバイバル】
自然系ギフト
[詳細]
ヒャッハー!街の外で生活だァァ!
柔らかいベッドがなくても、暖かい食事がなくても、逞しく生き抜ける根性を君に!
精神論も時には大事なことなんだ。
[HowTo]
街の外。
――――――――――――――――――――――――――――――
ヒャッハー!?まさかの精神論だァァ!!
詳細画面を見た瞬間、現実に引き戻された。
な、な、何なんだこのギフトは。
ファイト一発みたいな「どこでも生きていける野生の知恵をあなたに!」みたいなギフトじゃないんだ!?
ふぇぇぇ……思ってたのと違う。思ってたのと違うよぉぉぉ。
さすがに涙目になりながら画面に視線を戻す。
と
【サバイバル】の詳細画面の画面外に表示されたままになっている
ギフト一覧にスゴク気になるギフトがあった。
【サヴァイヴァル】
なにこれ。
何で急にネイティブな発音になっちゃってるの?
え?つまりは【サバイバル】とは別に【サヴァイヴァル】ってギフトが用意されてるってこと?
どういうことなんだろう?
精神論を語るというある意味【手当て】よりも劣悪な【サバイバル】によく似た名称のギフト。
【サバイバル】がダメだったんだから、常識で考えれば【サヴァイヴァル】も取得するべきじゃないんだけど
――僕の中の悪魔が『いや、むしろ逆じゃないか?』と囁きかけてくるんだ。
むしろ【サヴァイヴァル】という超優良なギフトのブラフとして
箸にも棒にもかからないような地雷ギフトの【サバイバル】が用意されていたとしたら……?
もしそうなら【サバイバル】だけ取得して【サヴァイヴァル】をスルーするなんてギフト枠を1個無駄に消費してしまうことになってしまう。
1個どころか7個全部無駄に消費しちゃってる気もするけど、そんな昔の事は忘れました。思い出したくもないよ。涙がでちゃうから……。
つまり【サバイバル】の取得を無駄に終わらせない為にも
ここは一つ腹をくくって【サヴァイヴァル】もとってみるべきではないだろうか?
毒を食らわば皿までって言うしね。
ええい、ままよっ!
【サバイバル】の詳細画面を閉じると、その勢いのまま一覧にある【サヴァイヴァル】をタッチする。
――――――――――――――――――――――――――――――
【サヴァイヴァル】
自然系ギフト
[詳細]
さらに野性的に生きるための知識だよ。
食べれる草の種類とか、危険な動物の種類とかが分かるよ。
野生を生き抜くための知識を君に贈ろう!精神論だけでどうにかなるほど自然は甘くはないぞ!甘えるな!
[HowTo]
だから街の外。
――――――――――――――――――――――――――――――
ぉぉ?ぉぉおおおー……。
なんかこれは当たりギフトじゃないのかな?
少なくともこのギフトがあれば毒キノコを間違って食べる危険性はないってことだよね?
少なくとも【サバイバル】よりは100倍使えるギフトだよね?
っていうか詳細の後半部分で【サバイバル】を全否定してるよ……。
『精神論だけでどうにかなるほど自然は甘くない』って確かにそうだけどさ。
【サバイバル】なんてギフトを取得しちゃった僕としては心中複雑だ。
詳細で【サバイバル】を否定していることから考えると
やっぱり【サバイバル】は【サヴァイヴァル】のブラフだったのかなぁ?
そんな益体もないことを考えていると
目の前の半透明のボードからピロッと軽快な音が聞こえてくる。
あ、この絶望感知ってる。
【愛】を知ってしまったときに感じたあの絶望感だ。
「いや、ホント勝手にギフト押し付けるとか
勘弁して欲しいんですけど……」
不満を口にしながら画面を見ると
そこにはまたしても取得『させられてしまった』ギフトの詳細が表示されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
【大自然マスタリー】
自然系ギフト
<強制取得>
取得条件:サバイバル・サヴァイヴァルの両方を取得していること
[詳細]
大自然の恵みを感じることが出来る素晴らしいギフトだよ。
サバイバルとサヴァイヴァルの両方を取得しちゃうような狂人にピッタリだね!
自然界に存在するものは全て君のものだ!もう、街なんて必要ないねッ!むしろ入ってくんな!!
[HowTo]
だーかーらー街の外ッ!
――――――――――――――――――――――――――――――
まさかの2度目の強制取得に対して
僕は漠然と『いつにも増して詳細に書かれてる事がヒドイなぁ』なんて相変わらずノンキな事を考えていた。
でもそんな思考も突然ボードから鳴り響くブザー音に邪魔されて一瞬で霧散する。
「アレ……?」
急速に薄れいく意識の中で何とか目の前の異音を放つボードに視線をやると
そこにはこんな画面が表示されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
Empty
<取得不可>
条件:武器・魔法ギフトを1個も取得せずにギフトを9個埋める
[詳細]
武器ギフトも魔法ギフトなしにどうやって暮らしていくの?
あんまり舐めてもらっても困るわけよ。こっちは真剣にお願いしてんだからさぁ。
つーわけで、ふざけたギフト振りした罰として10個目のギフトは選ばせてあげません。ザマーミロ。
何が取得できるかは神のみぞ知る。いつ取得できるかも神のみぞ知る。
お得意の『祈り』ギフトで神様に必死に祈ってなよ。
ひょっとしたら良ギフトが取得できるかもしれないよ?
[HowTo]
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そしてブザー音に負けないくらいの音量で鳴り響くアナウンス。
"キャラクター作成お疲れ様。
それじゃ皆。僕の創った世界を楽しんでよ"
始めて聞くとても愉快そうなその声を聞き終わった瞬間。
僕は意識を失ったんだ。