決意
くっつけると収まりが悪くなったので取り敢えず前半部分だけ投稿します。
後半は一眠りしてスッキリした頭で推敲し次第投稿予定です。
完全に逃げ道を塞がれてしまった。
明日のバトルを回避するために奮闘してたら、何故かバトルに加えて、ご飯で世界を救う事になったでゴザル。
笑えない……。いや、むしろ笑えよ。笑ってくださいよ。
何だよこの現実。辛いよ。辛すぎるよ。一体これからどうなっちゃうっていうのさ。
最悪を回避したくて頑張った結果が、最悪+αとか正気じゃないよ。
間違いなく今僕はドン底にめり込んでると思うんだ。世知辛すぎるにも程があるよ。
ハァ……。
僕は心中で特大の溜め息を吐くと、ゆっくりと瞬きした。そして決意する。
きっとこのまんまじゃダメになる……。
後悔はある。それも特大級の。しかしそんな事に拘ってても埒が開かないのも事実。
ウジウジしてる間にも事態はちゃくちゃくと破滅への道をひた進んでいる。
こうなってしまったからには、もっと実のある事を考えないと。
思えば従兄弟の魔の手から無事逃げられたのなんて、この16年を通じて数回しかない事なのだ。
ヤツがいらん事を考えついて、それを察知した僕がヤツから逃げ出して、当然の如くヤツが僕を捕まえて
――最終的に巻き込まれる。
今回の件も、いつものパターンと言ってしまえばそこまでなんだよね……。
だからこそ『巻き込まれてしまった』後どうするのがベストなのか?僕はそれを嫌と言うほど知っていた。
頑なに嫌だ嫌だと抵抗してみる?
下策だ。ってか自殺行為だ。こんな事してたら、襟首をフン掴まれてモンスターに向かって投げ飛ばされるのがオチだ。僕はまだモンスターにモシャモシャされたくはない。
じゃあ諦めて為すがまま従ってみる?
これも下策だ。ってか自殺行為だ。いいかい?いついかなる状況だろうと決してヤツの『為すがまま』に身を委ねてはならない。
僕には見える。
『じゃあ最初だからまずゴブリンからだな』
『よし調子でてきたからオーガに挑戦すっかッ!』
『よっしゃ!このままドラゴンヤりに行くぞぉぉ!!!!』
と、テンションと同時にムチャブリのレベルを上げる従兄弟の姿がクッキリハッキリと見える。
『為すがまま』を受け入れるって事は、このムチャブリを受け止めるって事だよ?
無理じゃん。そんなの逆立ちしたって無理じゃん。だからタイミングを見計らって『待った!』をかけてあげる必要があるんだ。
最後まで諦めてはいけないんだ。『為すがまま』なんてとんでもない話なんだ。
『テンションの上げっぱなし、ダメ、ゼッタイ!』
これは従兄弟と付き合う上で何よりも重い鉄則なのだから。
僕は大量の食材を前にハシャぐ三人の様子を見つめながら小さな溜め息を吐いた。
じゃあ『こうなってしまった』時、どう対処するのがベストなのか?
最も限りなく正解に近い答えは――
自分の意思でドナドナされることなんだ。
未来を儚んで諦めるんじゃない。弱りきった心のまま為すがままを受け入れるんじゃない。
無理やりにでも前向きに。
決してクサることなく前向きに。
涙がこぼれ落ちそうになっても前向きに。
つまりぶっちゃけて言えば、腹を括って現実と向き合いましょうって事なんだ。
もうここまで来ちゃったら逃げられないでしょ?もうドナドナされる未来しかない訳でしょ?
だったらせめて自らの意思でドナドナされてやろうって事なんだ。
ドン底にいることを理解しないと、這い上がろうって気にもなれないし
『よーし!最低最悪の状況だけど頑張るぞ!』っていう気力も生まれてこない。
不思議なもんで後ろ向きな気持ちのまま事に及ぶとロクな結果にならないんだ。
それに今回の場合いつもより相当ヤバイ状況だからね。
何がヤバイって?そんなの簡単な話だよ。
モンスターとガチバトルした結果が『ロクでもない』って、それってつまり僕が16年大事にしてきた何かが終わるって事でしょ?
ホント冗談じゃない。全くもって冗談じゃ済まされない。
少なくともあと84年は大事にする予定なんだから、こんな所で終わらせる訳にはいかないんだよ。
よし涼太。君なら出来る……。
状況の整理がついたところで、僕はいつものように自分を奮い立たせた。
君なら出来るよ。君ならきっと前向きな気持ちでモンスターとバトれるって!
大丈夫だって。ガラス瓶を投げつけるだけの簡単なお仕事じゃないか!
世界を救うなんて大それた言い方してたけど、あんなの腹ペコ従兄弟の妄言だって。
【料理】ギフトで作ったご飯を振る舞えばいいだけなんだし、楽勝だよ。
君なら出来る!
君なら出来るよ!
ふぉぉぉぉぉぉぉ……大丈夫……。
ふぉぉぉぉぉぉぉ……きっと出来るって……。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
「……あの涼太君、何してるんスかね?」
「お、今回も始まったな」
何かに取り憑かれたように自己暗示――じゃなくて自らを鼓舞する僕を見て、二人がそんな会話をしてたんだけど、残念ながらそれどころじゃない僕の耳にはサッパリ入っては来なかった。
「今回もって……あの"ふぉぉぉぉ"っていうの定期的に行われてるんスか?」
「あぁ。アレは涼太がツンからデレに変わるサインだからな!」
「ツン……?デレ……?」
もしこの会話を聞き咎めてたら、泣きながら抗議する事もできたんだろうけど、残念ながらそれどころじゃない僕の耳にはサッパリ入って来なかったんだよ。
「どう見てもデレてるようには見えないんスが……。ってか今にも必殺技放って来そうって言うか……」
「他人には分かんねぇだろうな!」
「えー……そんなレベルの話じゃないと思うんスけど……」
よっぽど納得いかないのか俊平くんはガリガリと頭をかきむしる。
そんな俊平君に向かって従兄弟はこの上ないドヤ顔で言った。
「いいか、これまで涼太は『嫌だ!』とか『戦いたくない!』とか心にも思ってない事言ってただろ?」
「は、初耳ッス」
「言ってたんだよ。つまりツンだったんだよ」
そういうのはツンとは言わない。
僕もツンデレにそれほど造詣が深い訳じゃないんだけど、それくらいは分かるぞ。
「でもなアレが始まったって事は、今後は『楽しみだ!』とか『頑張るぞ!』とか素直に言ってくるようになるぞ!」
「それがデレって事ッスか……?」
俊平君はイマイチ納得がいかないのか怪訝な表情だったんだけど
「楽しみだな!」
従兄弟のチョーご機嫌な様子を見て『そういうものか』と納得することに決めたらしい。
「言われてみればそうッスね」
アッサリと頷いて、僕の方へ視線を向けるとどこか呆けたような声音で呟いた。
「……見た目は大人しそうな人なのに、アヘ顔でトリップしたり、壮絶なツンデレだったり……。人って見かけで判断しちゃダメなんスねぇ……」
僕の預かり知らぬところで
悲しい。あまりにも悲しすぎる誤解が生まれた瞬間だった。
「私もよく"残念すぎる美少女"とか"清純派強欲系女子"とか、見た目と中身のギャップを指摘されることが多いんですよ。そういった意味でも私と涼太さんは似た者同士、つまりお似合いって事ですよね」
「うるさいッ!お前は話に入ってくんな!」
「ってか、そういうのはお似合いって言わない気がするッス……」
「ふぅ……」
三者三様の有様で見守られながら、僕はゆっくりと両目を見開いた。
エキセントリック少女が何か得意気な顔してて、従兄弟がしかめっ面で、俊平君は――あ、目を逸らされた。
なんぞその反応?……まぁいいか。どうせ下らない事でも話してたんでしょ。
若干俊平君の反応が気になるっちゃ気になるんだけど、問いただしてまで知りたいとは思わない。
「あ、デレる為の儀式は終わりましたか?終わったんだったら早速【料理】ギフトをお披露目していただきたいんですが」
デレる為の儀式?何のことだろ?
エキセントリック少女の言うことがよく分からず疑問が沸いた。
――けど、沸いた次の瞬間には霧散していた。
そうだった。エキセントリックな事を言うからこそ、エキセントリック少女だったんだ。
どうせ僕に理解できるような内容じゃないんだろうから気にするだけ損だよね。うん。
ただノーリアクションというのもマズかろうと思って曖昧な笑顔を浮かべたら
それを了承のサインと取ったのかエキセントリック少女と従兄弟のテンションが更にヒートアップ!したようだった。アホす。
「買ってきてもらった食材はテーブルの上に広げてありますので、思う存分腕を奮ってくださいね!」
「一番に食うのは俺と涼太だからな!涼太がOKだすまでお前たちは手出すなよッ!」
「…………」
やっぱり俊平君の様子が若干おかしくない?
彼のキャラから言ってこういう時は一緒にはしゃくかと思ったのに無言って。
再び軽い違和感を感じたけど
「さぁ!張り切ってどうぞ!」
「肉からだぞ涼太。肉から料理するんだぞ!」
「ちょ!押さないでよ!危ないよ!」
さらにヒートアッーープ!!した二人の強制エスコートによって、それどころじゃなくなった。
さぁ。これから楽しいクッキングのお時間だ。……ハァ。
やっと初ギフトお披露目です。
長かった……。ようやく書きたかった展開に入れます。ホント長かった……。




