プロローグ
ライフライフライフ【改訂版】です。
※5話までは旧作と同じ内容ですので、旧作をお読みいただいた方は6話から読んでいただけますと幸いです。
VRなんて奇妙な名前を付けて、ヒトが勝手に『世界』を作っちゃったとき僕は『生意気だな』と思った。
だってそうだろう?
土くれを捏ねて命を創り、それを育む世界を創るのは僕ら『神様』の特権なんだから。
それなのに、創造物であるヒト風情が、事もあろうか自らの手で『世界』を創っちゃったんだからね。
僕らからしてみればこんなに面白くない話はないよ。
"ただのヴァーチャルゲームじゃん"
"これまでのゲームの延長線みたいなもんじゃん"
君たちの感覚からすればそうかもしれないけど
やっぱり分は弁えて欲しいんだよねー。
だって、考えてごらんよ。
ディスプレイに映る世界をコントローラーやマウスやキーボードなんかで『操作』する従来の『ゲーム』と
擬似的とはいえ新世界を創り、そこで『生活』を『体験』できちゃうVRでは、まるで違うと思わない?
まぁ、とにかくだよ。
そんな訳でVRMMORPGってヤツは僕にとって『非常に気に食わない』ものだったんだ。
だから
そう、だからね――
ぶっ壊してやろうかと思ったんだよね。
どうやってやるかって?
そんなの簡単さ。だって僕神様だよ?
『どうやるか』なんて悩む必要すらないよ。
『どうとでも』できちゃうくらいに僕らは万能だからさ。
VRに接続するために頭に取り付ける機械。アレを被ってるヒトを原因不明の突然死させて、ヒトが自粛するように仕向けてもいいし
もっと単純に『VRという技術』に関する記録・データ・記憶を世界から剥ぎ取ることだってできちゃうしね。
という訳で僕は、忌々しいVRMMORPGを眺めながら
どう処分してやろうか割と真剣に考えてたんだよね。
そしたらさ、何か『面白いな』と思えてきちゃったんだよ。
だって可笑しいんだ。
あまりに雑な作りに数千年ぶりに大笑いしちゃったよ。
例えば食事。
美味しそうに焼けた骨付き肉。自然な焦げ目。立ち上がる湯気。滴る肉汁。
グラフィックはさすが大したもんだよ。だけど良いのはそこまで。
一口噛んだ瞬間にパッと光ってなくなっちゃうんだもん。
で、空中に『食事をしました』ってシステムメッセージが浮かぶんだよ?
し・か・も
あんなにアツアツで美味しそうな見た目のくせに、熱さどころか味も香りもないって、何なんだよって感じ。
初めて目撃したときは衝撃的だったねー。イヤー衝撃だった。
リアルに
『じゃあ食事なんてシステム作らなければいいのにwwww』
って腹抱えて笑っちゃったよ。
んで
『こんな欠陥だらけの世界で誰が満足するってんだよwwwwww』
って本気で思ったんだけど、眺めてて気づいちゃったんだ。
君たちが
スゴク楽しそうに『生活』してるってことにさ。
流石に笑いも引っ込んだよ。
こんな幼稚で陳腐で未熟な創りの『世界』だってのに、君たち普通に楽しそうなんだもん。
僕らが一生懸命創った完璧ではないにしろ上等な『世界』ではダルそうに生活してるくせに
ヒトが創った見るかに歪な下等な『世界』では生き生きと嬉しそうに生活してる。
ヒトの心は分からないもんだってつくづく思ったよ。
で、それと同時にスゴク興味が沸いたってわけ。
なかなかない事なんだよ?
僕ら神様の興味を引くものなんて。
だから、興が乗じて僕も作っちゃったんだー。
え?何をって。
決まってるじゃん。新しい『世界』をだよ。
それも頑張って頑張って頑張って僕の持てる力を結集させた『手抜き世界』をさ。
でも残念ながら君たちがVRで創った世界ほど『ヒドイ世界』は創れなかったよ……。
本当、逆に聞きたいくらいだ。どうやったらあんな幼稚でどうしようもないシステムの世界が創れるっていうんだよ……。
まぁ、細かい事は別にどうでもいいんだけどね。
だって、これは実験みたいなもんだからさ。
ん?どんな実験かって?
そんなもの決まってるじゃないか。
――ヒトはVR以外の不自由な世界でも
――生き生きと生活していけるか
僕は知りたいんだ。
この『ヒドイ世界』で君たちがどう生きていくのか。
この『ヒドイ世界』を君たちがどう変えていくのか。
旧作と同じ轍を踏まないよう"ほのぼの"を念頭に置いて頑張ります。