ダンジョン最深部で目覚めた俺、最強ドラゴンなのに新人冒険者を育てることになりました
目を覚ましたとき、最初に感じたのは静けさだった。
いや、静けさというより――
空間が広すぎる。
俺はゆっすらと目を開けた。
暗い。
洞窟だ。
天井は高く、壁は黒い岩。
空気はひんやりしていて、どこか湿っている。
「……ここどこだ?」
体を起こそうとした瞬間だった。
ゴゴゴッ――。
地面が揺れた。
「え?」
俺は自分の腕を見た。
黒い鱗。
巨大な爪。
太い腕。
一瞬、思考が止まる。
「……は?」
慌てて立ち上がった。
ドォン!!
洞窟が揺れる。
「ちょっと待て」
俺は近くの水たまりを見つけ、そこを覗き込んだ。
水面に映ったのは――
巨大な黒いドラゴン。
沈黙。
三秒。
「……ドラゴンじゃねえか!!」
俺は思わず叫んだ。
するとその声が洞窟に反響して、ゴゴゴゴと地面が震えた。
「声もデカいのかよ!」
落ち着け。
とりあえず落ち着こう。
状況整理だ。
俺は人間だった。
少なくとも記憶では。
それなのに今はドラゴン。
しかもサイズが明らかにおかしい。
たぶん十メートル以上ある。
周囲を見回す。
巨大な洞窟。
奥には宝石の山。
そして石の壁には古い文字が刻まれていた。
最深部
「……最深部?」
つまりここはダンジョンか。
ということは――
「俺、ラスボス?」
意味が分からない。
とりあえず歩いてみる。
ドシン。
ドシン。
足音だけで洞窟が揺れる。
「デカすぎるだろ……」
そのときだった。
遠くから声が聞こえた。
「こっちだ!」
「最深部だぞ!」
人間の声。
やがて三人の冒険者が現れた。
若い。
どう見ても初心者。
剣士の少年、ローブ姿の魔法使い、弓を持った少女。
そして。
俺と目が合った。
沈黙。
三秒。
「……ドラゴン」
剣士が震えた声で言う。
魔法使いが後ずさる。
弓使いは青ざめていた。
「終わった……」
剣士がつぶやいた。
いや、確かに普通は終わりだ。
でも――
(このレベルで最深部まで来たの?)
無理だろ。
普通途中で死ぬ。
「戦うぞ!」
剣士が叫んだ。
え、マジで?
少年は剣を握りしめ、突撃してきた。
カン!
剣が俺の鱗に当たる。
……痛くない。
というか。
全然効かない。
俺はため息をついた。
「お前」
少年が固まる。
「弱すぎる」
沈黙。
三人が凍りつく。
「え?」
「え?」
「え?」
俺は続けた。
「その剣の振り方、腰が入ってない」
剣士がポカンとする。
「魔法使い」
「は、はい!」
「詠唱遅すぎ」
「え」
「弓使い」
「な、なんですか」
「狙い甘い」
沈黙。
三人は顔を見合わせた。
「……殺さないんですか?」
魔法使いが恐る恐る聞いた。
俺は少し考えた。
そして答えた。
「特訓だ」
「……え?」
それから数時間後。
「もう一回!」
俺は叫んだ。
「はい!!」
剣士が剣を振る。
さっきより速い。
「腰!」
「はい!」
「魔法!」
「ファイア!」
火球が飛ぶ。
今度はまともな威力だ。
「弓!」
矢が飛び、壁の中心に刺さる。
俺は頷いた。
「よし」
三人は地面に倒れ込んだ。
「はぁ……」
「ドラゴンに修行される冒険者って」
「前代未聞だよな」
俺も思った。
確かにそうだ。
数日後。
また冒険者が来た。
「ここに修行ダンジョンがあるって聞いたんだけど」
俺は首を傾げた。
修行ダンジョン?
剣士が笑った。
「ドラゴン先生が鍛えてくれるらしい」
俺を見る。
俺は言った。
「誰だそれ」
三人が答えた。
「あなたです」
……俺か。
それからというもの、冒険者はどんどん増えていった。
最初は三人。
次は十人。
その次は二十人。
やがてダンジョンはこう呼ばれるようになった。
伝説の修行場。
最強のドラゴンが鍛える場所。
そして今日も俺は叫ぶ。
「腰が甘い!」
「はい!」
「魔法遅い!」
「はい!」
「弓もっと集中!」
「はい!」
……ドラゴンってこんな仕事だったっけ。
まあいい。
俺は空を見上げた。
どうやら俺はラスボスらしい。
でも。
悪くない。




