第八章:告発の眼差し
病院の待合室。
冷たい蛍光灯の下、三人は無言で座っていた。
親父は急性心不全を起こし、現在は集中治療室で予断を許さない状況だという。
兄さんは、組んだ両手の親指を激しく動かしていた。
「……知美、パジャマのボタン」
兄が静かに言った。
知美がビクッと肩を揺らす。
「え……?」
「一番上が、空いてるぞ。それに、さっきからずっと……雄一の香水の匂いが、お前からしてるんだ」
血の気が引くのが分かった。
俺は今日、仕事の打ち合わせのために、久々に香水をつけていた。
知美が俺の腕に顔を埋めた時、その匂いが移ってしまったのだ。
「兄さん、それは……」
「黙ってろ」
兄さんが俺を睨みつけた。
その目は、もはや弟を見る目ではなかった。
獲物を屠る猟師の目だ。
「俺は、信じようとした。お前は俺の自慢の弟だったし、知美は俺が一生守ると決めた女だ。二人を疑う自分を殺したかった。だが……親父が倒れたあの瞬間、二人のあの狼狽え方は、ただの家族の心配じゃなかった」
兄が立ち上がる。
「親父は、お前たちの汚らわしい行為を知って、ショックで倒れたんじゃないのか?」
「違う! それは……」
「何が違うんだ!」
兄の怒号が待合室に響いた。
看護師が飛んできて制止するが、兄の怒りは収まらない。
「俺がどんな思いで外で働いてると思ってる! お前たちのために、この家を守るために……!」
「和雄さん、ごめんなさい……ごめんなさい……!」
知美がその場に泣き崩れる。
その時、集中治療室のドアが開いた。
医師が険しい表情でこちらに歩いてくる。
「中川さん、お父様の意識が戻りました。ですが……非常に危険な状態です。最後になるかもしれません。皆さんで入ってください」




