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第七章:嵐の前触れ
しかし、運命は残酷なタイミングで動く。
二人が行為を終え、微睡みの中にいた時だった。
隣の部屋から、「ゴン」という鈍い音が響いた。
続いて、何かが床を叩くような、苦しげな音。
「親父……!」
俺は慌てて服を掴み、廊下へ飛び出した。
親父の部屋の戸を開けると、ベッドから半身を乗り出した親父が、床に倒れ伏して痙攣していた。
「お義父さん!」
後から駆けつけた知美が悲鳴を上げる。
彼女は乱れた髪を直し、必死にボタンを掛け違えたパジャマを整えていた。
俺は親父の体を抱き起こした。
親父の目は、白目を剥き、口からは泡が漏れている。
だが、その一瞬。
意識を失う直前の親父の視線が、俺と、そして後ろに立つ知美を捉えた。
その濁った瞳には、明らかに「怒り」と「悲しみ」が混じっていた。
見ていたのか。
声も出せず、体も動かせない檻の中で、この父親は、自分の息子と嫁が不義を働く気配を、ずっと感じ取っていたのか。
「救急車だ! 知美、早く!」
俺の声に弾かれたように、知美が電話に走る。
その時、玄関が開く音がした。
「ただいま……おい、どうしたんだ、この騒ぎは!」
最悪のタイミングで、兄・和雄が帰宅した。




