第十一章:審判の夜
葬儀が終わり、親戚たちも帰り、家には再び三人だけが残された。
親父の遺影が置かれた祭壇の前で、兄さんがポツリと口を開いた。
「雄一、酒を飲もう。兄弟水入らずでな」
兄さんは一升瓶と二つのグラスを置いた。
知美は部屋に閉じこもったまま出てこない。
俺は促されるまま、兄の向かいに座った。
「お前が生まれた時、親父は本当に喜んでたんだ。俺にお前を抱かせて、『和雄、こいつは一生お前が守ってやるんだぞ』って言った。……俺は、その約束を守ってきたつもりだった」
兄が酒を煽る。
その目は、すでに焦点が合っていないようでいて、獲物を逃さない鋭さを秘めていた。
「知美を好きになった時も、お前に悪いと思った。お前があいつを気にかけていたのは知ってたからな。だから、あいつが俺を選んでくれた時、俺は世界で一番幸せな男にならなきゃいけないと思ったんだ」
「兄さん……」
「なのに、お前は……! お前だけは、手を出してはいけない領域があったはずだ!」
兄がグラスを床に叩きつけた。
粉々に砕け散ったガラスの破片が、俺の頬をかすめる。
「経済的に苦しいお前を家に呼んだ。仕事が見つかるまで支えようと思った。それが間違いだったのか? 家族を信じた俺が、馬鹿だったのか!」
兄さんの拳が俺の顔面に飛んできた。
避けることはできた。
でも、俺は動かなかった。
衝撃と共に、視界が歪む。口の中に鉄の味が広がる。
「打てよ……。好きなだけ、打てばいい」
俺は床に倒れ込みながら言った。
「俺は最低だ。兄さんの優しさを踏みにじって、知美を……知美を汚した。殺してくれよ、いっそ」
兄さんは俺の胸ぐらを掴み、引きずり起こした。
その目には、怒りよりも深い悲しみの涙が溜まっていた。
「殺して済むなら、そうしてる……。だがな、雄一。お前以上に許せないのは、自分自身だ。知美の孤独に気づけなかった、俺の無能さだ」
兄さんは俺を突き放すと、崩れるように座り込んだ。
その時、二階から鈍い衝撃音が響いた。




