第一章:目覚めの波紋
目が覚めた瞬間、視界に飛び込んできたのは、見慣れたはずの自分の部屋の天井……ではなかった。
いや、場所は確かに実家の俺の部屋だ。だが、鼻腔をくすぐる香りが決定的に違っていた。
男所帯の埃っぽさと加齢臭が混じったような実家の匂いではない。もっと甘く、脳の奥を痺れさせるような、清潔な石鹸と微かな体温が混じった、女の匂い。
「……ん」
隣で、小さな吐息が聞こえた。 心臓が跳ね上がる。
ゆっくりと首を横に向けると、そこには信じられない光景があった。
知美がいた。
兄・和雄の妻であり、俺の高校時代の同級生。半年前に義姉となったはずの彼女が、あろうことか俺の布団の中で、薄い下着一枚の姿で眠っている。
(……なんで、こうなった?)
記憶を手繰り寄せる。 昨夜は、出張続きの兄に代わって、寝たきりの親父の介護を二人でこなした。
深夜、ようやく親父が眠りにつき、リビングで知美と二人、安ワインを空けた記憶はある。
仕事が上手くいかず、フリーランスとしての焦燥感を口にした俺に、彼女は「雄一くんは昔から頑張りすぎなんだよ」と優しく微笑んでくれた。
高校時代、サッカー部の部長だった俺に、マネージャーだった彼女が寄せてくれていた視線。
あの頃の淡い空気感が、酒の力で蘇ってしまったのだろうか。
知美の肩は白く、華奢だった。
兄さんは、この肌を毎晩抱いているのか。
そう思った瞬間、どろりとした暗い感情が胸の底から湧き上がる。
「……雄一くん?」
知美の睫毛が震え、瞳が開いた。
視線が絡み合う。
彼女は驚く風でもなく、ただ潤んだ瞳でじっと俺を見つめた。
「知美……これ、どういうことだよ。なんでここに……」
「覚えてないの?」
彼女の声は、かすかに震えていた。
彼女の手が、シーツの下で俺の腕に触れる。
熱い。火傷しそうなほどの熱量。
「……昨夜、あなたが泣きそうな顔で私の名前を呼んだの。知美、行かないでって」
「俺が……?」
「和雄さんは、もう私を見てくれない。出張ばかりで、帰ってきてもお義父さんの世話か、疲れて寝るだけ。私、この家で透明人間みたいになってた。でも、雄一くんだけは……」
知美が身を起こす。薄いレースの向こう側で、彼女の柔らかな曲線が露わになった。
彼女は俺の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「和雄さんの弟だって、わかってる。でも……今だけは、同級生の私を見て」
禁断の境界線が、足元から崩れていく音が聞こえた。
俺は彼女の細い腰を引き寄せ、その唇を塞いだ。
兄への罪悪感よりも、目の前の飢えた獣のような渇望が勝った瞬間だった。




