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お嬢様、こちらのホットケーキは毒入りです

作者: 夢宮まな
掲載日:2025/12/31



「お嬢様、こちらのホットケーキは毒入りです」



 私がそう告げると、主はぱちりと金色の瞳を瞬かせたあと、楽しそうに口元を緩めた。



「あら、メイド。知らないの?これはパンケーキと言うのよ」



 皿の上には、ふっくらと焼き上がったものが三段重なっている。生クリームやら季節のフルーツやらで飾り立てた渾身の一品だ。

 艶やかなバターが溶け、甘い香りが部屋に満ちている。



「豪華ではありますが、こちらは立派なホットケーキです。土台は、幼い頃に母が作ってくれたものと同じなので」



 そう告げると、お嬢様は目を細めた。



「メイドのお母様はお料理も上手だったのねぇ」



 お嬢様はためらいなくナイフを入れ、一口頬張った。



 呑気に、実に呑気に、毒入りのそれを味わっている。人間であれば即死級の代物だが、お嬢様──魔族である彼女にとって毒は魅力的な調味料だ。



「どうですか?お味は」



「とってもとってもヤミーだわ!」



 うまうまと頬張り、満足げに尻尾を揺らす姿に、私は小さく息を吐いた。



 人魔大戦で両親を失い、瓦礫の街で倒れていた私を拾ったのが、この魔族だった。その日はたまたま機嫌が良かったらしい。「痩せっぽちで不味そうだけど、暇つぶしにはなるわね」と言われたのを覚えている。



 あの頃は、私の方がガリガリに痩せこけ、ずっとずっと小さかった。今では背丈も追い抜いたが、お嬢様はそれが少し不満らしい。



「ねえメイド、最近あなたの見下ろす角度が気に入らないのだけれど」



「成長期ですので」



「魔族にも成長期はあるのよ?」



 不満そうに言いながら、最後の一切れを口に運ぶ。



「今日の毒、いいわね。ピリッとして」



「ありがとうございます。隠し味程度に抑えておりますので」

 


「ええ、とても上品」



 にこりと微笑むお嬢様を前に、私は静かに頭を下げた。毒入りだなんて物騒な言葉も、この方にとっては日常の一部だ。



 拾われ、仕え、こうして食事を作る。それだけで十分だと、私は今日も胸の奥で思っている。



 もちろん、それを口に出すつもりはないけれど。




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