第9話 夏イベをテストプレーしよう
「【常夏のアイドル感謝祭! レイドドラゴンを倒せ!!】……は?」
いよいよ始まったアイエク夏イベントのテストプレイ。
ワクワクしながらキービジュアルを見た俺は、思わず目が点になった。
ぽろり
大きく空いた龍華の口から、チュッ○チャ○スが零れ落ちる。
「おっとっと~」
ぱくり
それを地面に落ちる前に、器用にキャッチしたのはフィルルだ。
「えへへ~、ジュンとリューカと間接キッス~♡」
「フィ、フィルル!」
うちの嫁が可愛すぎるんですが!
地面に寝ころんだフィルルは、そのまま体をくねくねと小刻みに揺らす。
「……あふぅ、リューカの味がするぅ♡ ねえリューカ、指でいいから」
ぺちん!
「はうっ!?」
目を潤ませ、垢バン必至なセリフを口走りかけたフィルルを慌てて止める。
そういうのは、後でな。
「は~いっ♡」
「それにしても……」
立ち上がったフィルルの頭を撫でながら、校舎の屋上に浮かぶキービジュアルとアレを見上げる。
『まあ、うん。純兄さんの言いたいことは分かる……』
屋上に鎮座しているのは、体長数十メートルはあろうかという巨大なドラゴン。
真っ赤な顎から涎がだらだらとこぼれ、淀んだ相貌から血の涙が流れる。
「うへぇ」
無意味にリアルで、可愛げやカッコよさが一ミリもないガチグロモンスターである。
「魔界の門番と言われた、エビルドラゴンに似てるね~。でも……吟遊詩人さんがテーマの叙述詩にエビルドラゴンなんて、演出おかしくない~?
きょうび駆け出しのGランク吟遊詩人でも、もうちょっとマシなお話書くよ!」
「うん、そうだな」
メジャーなエンタメといえば、吟遊詩人が伝える叙述詩と闘技場くらいしかない世界の子に言われてんぞ、前プロデューサー。
「それに、ドラゴンの翼の面積がちっちゃすぎるね! あれじゃ飛行魔法使っても飛び上がれないし、考証が甘いんじゃないかな~」
フィルルさんのツッコミが冴える。
前プロデューサーが聞いたら爆発四散するだろう。
「それだけじゃなく、龍華の限定衣裳もやべぇよ……」
改めて、龍華が身に着けている衣裳を見る。
尖った三度笠のような帽子に、分厚い作務衣。ヒグマの毛皮を羽織り足元は藁で出来たブーツ。
右手に持っているのは限定アイテムの火縄銃。
皆様ご存じの通り、ソシャゲの大事な (集金)要素と言えば、キャラの魅力を引き出す限定衣裳!なのだが。
夏イベ定番の水着ではなく、なんとガチマタギ衣裳!
露出度はゼロを通り越してマイナス!
「ガチャ回させる気無いだろ……」
『反論の余地がないわ……』
瑠璃の話によると、前プロデューサーがマタギ映画にハマってこうなったのだとか。
「こんなの、修正するより作り直した方がいいんじゃ?」
『そんな人手と予算があると思う?』
「ぐぐぐ……」
最初から前途多難だが、ひとまずプレーしてみよう。
ドラゴンの動きがスゲーとか、良い点もあるかもしれないし(それが売上に繋がるかは別の話)
「よし、とりあえずドラゴンと戦うぞ」
気を取り直した俺は、いまだ俺に抱き付いたままのフィルルに声を掛ける。
「うんっ! でもジュン、もといリューカ。あのエビルドラゴン、考証はともかく能力はガチっぽいよ? わたしたちも本気を出した方がいいと思う」
大きなフィルルの目がすっと細められ、ふわふわの狼耳がきゅっと絞られる。
「!!」
これは……フィルルの本気モード。
敵の能力を正確に把握する、センシングスキルを持つフィルルがここまで言うとは。
俺も本気で戦った方がよさそうだ。
ぽいっ
イベント限定アイテムとして配布された火縄銃を投げ捨てる。
どちらにしろ、鉛玉ごときでエビルドラゴン (仮)を倒すことはできない。俺はとっておきのスキルを使う事にした。
「【マテリアライズ】!」
両手を上げ、胸の前に付き出す。
そしてそのまま目を閉じる。
(相手はエビルドラゴンクラス……リーチを考えて、槍がいいか)
頭の中で、イメージを組み立てていく。
『生成』するのは、聖槍ゲイボルグ。
ブウウウウウウンッ
イメージ通りにスキルが発動し、幾何学模様の構成体が三又の槍に変わっていく。
(よしよし)
スキルのプロセスはすべて起動した。女神様の言葉通り、俺の切り札である物質生成スキルもゲーム内で使えそうだ。
(もちろん、本物に比べて性能は劣るけどな)
太古の勇者や神々が使ったという伝説の武具。
向こうの世界では王家の宝物庫かダンジョンの奥深くにしか存在しないソレを、俺はこのスキルで複製することが出来る。
能力は8~9割程度で耐久力も1回の戦闘が限度。
こちらの世界の3Dプリンターのようなスキルだが、このスキル無しに魔王は倒せなかっただろう。
(そうだ、せっかくだから! リューカのドレスも変えちゃおうよ!)
その時、俺の脳裏に一枚のイメージが投影された。
(フィルル?)
これは、フィルルのユニークスキルの一つである念話だ。
極大魔法の詠唱には時間が掛かるため、その間の意思疎通の手段として習得した。痒い所に手が届く便利スキルである。
(どれどれ……って、おおっ?)
インナーは白のショートパンツスタイル。
大胆に太ももが出るデザインで、サイドにはきわどい切れ目まで入っている。
羽織っていたヒグマの毛皮は、もふもふのクマさんスタイルへ。
ぴこぴこ動く耳フードが超絶チャーミング。
肉球ショートブーツがあざとさを演出する。
(にひひ、元のドレスから発展させました!)
(いやいや、ちょっと可愛すぎないか!?)
幾ら今の俺の外見は龍華とはいえ、彼女のキャラクターにも合わないし……。
(なにいってるのジュン! これが”ぎゃっぷもえ”ってやつでしょ!)
(どーん!?)
異世界生まれの少女に、完膚なきまでに論破された俺。
(フィルルさんのおっしゃる通りです……)
衣裳も効果範囲に入れ、マテリアライズを掛け直す。
しゃららららっ♪
やけにかわいい効果音と共に出現したのは……。
「うっ!?」
超絶ラブリーなくまさん槍使い、剣埼龍華の姿だった。




