第8話 瑠璃と情報交換しよう
「よし、成功だ……!」
もう一つの千里系スキル、【千里碗】を使い、現実世界に干渉することに成功した
俺は、思わずガッツポーズをする。
「すごっ! これって……わたしが斃れた後に取得したスキルだよね?」
「……おう」
フィルルの言葉に、昔の記憶がよみがえる。
魔王に返り討ちにされ、遠く離れた小島に逃れた俺。
フィルルを喪い、高レベルの魔法も使えなかった俺は魔王軍の追跡から逃げる事しかできなかった。
そこで役に立ったのが、千里眼をアレンジして編み出した千里碗スキルである。
千里眼で遠くから追手の動きを把握、千里碗で背後から奇襲する。
少々からめ手でずるいやり方だが、このスキルで何度追手を撃退したか。
おかげで俺は大きくレベルアップし、最終的に魔王を倒すことが出来たのだ。
「さて、これで瑠璃がこの龍華が俺だと気づいてくれれば……」
期待を込めて、瑠璃の様子を観察する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「え、ええええええっ!?」
ホワイトボードに書かれた文字を見て、困惑の声を上げる瑠璃。
「な、なんで?」
ホワイトボードに書かれた内容は、
『常闇のルーリィ、貴女に神託がある』
常闇のルーリィ……少々、いやかなり厨二症候群に陥っていた中学時代の瑠璃が、
禁断のマイノートの中でだけ名乗っていたソウルネーム (笑)である。
「ううっ」
当時の級友には同一症候群の患者がいなかったので、マイノートは純兄さんにしか見せたことがない。
高校生になり、正気に戻った瑠璃はマイノートを常闇の炎で焼いて処分した……のだが。
「本当に、純兄さんなの!?」
慌ててモニターに向き直る。
『…………』
なんかいい笑顔を浮かべ、うんうんと頷く龍華。
「う、うそでしょおおおおおおおおっ!?」
突然倒れ、意識不明状態の兄貴分が自分がチーフプロデューサーとなったソシャゲのヒロインになる。
まるで流行りのラノベのような展開に、誰もいないオフィスの中で絶叫する瑠璃なのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……と、いうワケなんだ」
30分ほどの時間を掛け、ここまでの流れを瑠璃に説明し終えた俺。
瑠璃の声はマイクを通して聞こえるが、俺の声は向こうに届かないようなので、千里腕スキルで動かすマーカーだけが頼りだ。
『異世界から帰還した純兄さんは、転生を司る女神のミスで開発機内の龍華に転生……アイエクのアクティブユーザー数とセルランの条件を満たせば、現実世界に戻れる、かぁ。
にわかには信じられないけど、アタシのソウルネームを知ってるなんて、純兄さんに間違いないし。常闇領域の彼方には、そういう世界線もありうるのか』
あごに手を当て、考え込む瑠璃。
コイツが厨二症候群の患者で助かったぜ。
本人曰く、黒歴史は捨て去ったと言っていたけど、魂に沁みついた刻印は簡単に消えはしないのだ。
「うんうん、分かるよルリちゃん。初めて魔法が使えるようになった術者は、必ず通る道だからね~。そして、ジュンも感染してるね♪」
「……えっ!?」
実際に魔法のある世界と現代日本では厨二病感染へのハードルがダンチな気もするが、
何かシンパシーを感じたらしいフィルルがうんうんと頷いている。
「そして瑠璃、この子が……」
異世界で出会った、俺の最愛のヒト。
俺たちを強力にサポートしてくれる、最高のパートナーだ。
いささかオーバーな表現になったが、俺はそうホワイトボードに書いたのだが……。
『なるほど、その異世界スキルってのをその変なサポカを通じて使えるってわけね』
「んっ?」
ちらりと背後のホワイトボードに視線をやった瑠璃は、そのまま俺たちの方に向き直る。
「ふお?」
「あれ?」
従兄が異世界から嫁を連れ帰って来た。
しかも、その子はサポカとしてアイエクに転生している。
驚きの情報のはずだが、瑠璃の反応は薄い。
『カードステータスを開いてみたけど、化け化けで何のことか分からないわね……おおっ、これはまさか、伝説のルーン文字!?』
「……ねえジュン、どういうこと?」
「うーん、瑠璃のヤツからはフィルルが見えてないのか?」
アイエクに転生した俺たちについて、分からないことはまだたくさんある。
「今度女神様が来たときに聞くしかないよな。それはそれとして……」
神の御業について、あれこれ考えても仕方がない。
瑠璃に対しては、アイエクがあと半年でサ終すること。
サ終までの流れを (俺が覚えている限り)伝えた。
アイエクのチーフプロデューサーとなった瑠璃とどういう作戦を立てるべきか。
『とりあえず、再開後直後の夏イベが爆死する事、龍華の次期担当声優がまたもやスキャンダルを起こすことは分かったから……。夏イベの改修と、龍華の担当声優を新たに探す……こんな所かしら』
「ああ、俺もそれでいいと思うぜ」
当面の方針はそれでよさそうだ。
ちなみに、当初予定されていた代役は別名義でマルチ商法の勧誘をしていたことがバレ、大炎上する。
声優業界、闇が深すぎないか?
『とはいえ、新生アイエク開発チームはアタシも含めて5人しかいないから、大規模な改修は難しいわよ?』
「それは厳しいな……とりあえず、試しに夏イベをプレーしてみるか」
正直、15年前のソシャゲの夏イベの内容なんて全く覚えていない。ゲーム雑誌で酷評され、ただでさえ低いセルランが爆落ちしていたことは微かに記憶している。
ゲーム内からイベントを……龍華の目線で見ることで、何か気付きがあるかもしれない。
「よし、フィルル! 一緒にゲームを遊ぶぞ!」
「!! やった~!!」
こうして、俺たちは実装前のアイエク夏イベントをテストプレーすることになった。




