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第4話 TSおっさん、最愛のパートナーと再会する

「ジュンだ~! 会いたかったぁ! 会いたかったよぉ!」


 涙で潤んだ紫色の大きな瞳が、こちらを見降ろしている。


 ぽろぽろと大粒の涙が俺の頬に零れ落ちた。


「………………」


 目に映る光景が信じられなくて、何度も目をこする。

 ふわりと広がったふわふわの銀髪。

 豊かな頭髪からぴょこんと突き出た狼耳の先端は、初雪のように白い。

 ふっくらとした桜色の頬に、犬歯が可愛いちっちゃな口。


 身長はさほど高くないが、抜群のスタイルを誇るトランジスタグラマー。


「この匂い、ほんとうにジュンだぁ~」


 どこか舌ったらずな甘い声に脳が蕩けそうになる。


「ほ、本当に、フィルルなの、か?」


 自分の身体が龍華であることも忘れ、彼女に手を伸ばす。


「うんっ! アナタのお嫁さん、フィルル・愛菜フェンリルだよぉ!」


「あ、ああああああああああああっ!!」


 あの時俺の腕の中で息絶え、埋葬したはずのフィルルがなぜここにいるのか。

 理由はどうでもいい。

 愛する女性が、今目の前にいる。


 その事実だけで十分だ。

 俺は彼女の身体を、ぎゅっと抱きしめるのだった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



『と、いうことで! ウチめっちゃ頑張ってみました!!!』


 数分後、舞い戻ってきた女神様と俺たちは部屋の中にあるテーブルを挟んで向かい合っていた。


「へへ~、ジュンの匂いだぁ~♡」


 先ほどからフィルルは俺に抱き付いたままだ。


「今の俺の外見は女の子なのに……よく分かったな?」


「その優しいまなざし、魂から感じる波動……間違えるはずないよ!

 それにしても、ジュンはずいぶん可愛くなっちゃったね?」


「いや、まあ……可愛いと言われると恥ずかしいんだが。フィルルは俺がこんな見た目でいいのか?」


「ジュンがモンスターに転生していたとしても、愛するつもりだったからね! 女の子になったくらい、ぜんぜんオッケーだよ!!」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたフィルルに、頬が熱くなる。

 ……冷静に考えたらクールなヤンキーJKとふわふわ狼娘が抱き合っている状態なわけでエモい光景かもしれない。


『今はたよーせいの時代らしいですから、アリですね!! そんなことより早く説明させてください!!!』


 両手をワキワキと動かし、やけに現代っぽいことを言う女神様。

 こうなるとこの猫耳女神様は止まらないので、喋らせるしかない。


「そういえばネコちゃん神様、なんでわたしは復活できたの~?」


 どうやらこの部屋では、フィルルも女神の存在を認識できるようだ。

 先ほど彼女に、フィルルを復活させたのは異世界転生を司る女神だと説明したら、あっさりと信じてくれた。


『ふふふ……あの世界でのフィルルさんは命を落としたことで輪廻の円環に還元されたのですが!』


「マナ組成変換的なヤツ?」


『!! フィルルさんよく勉強していますね!! それよりもっと根源的な仕組みです!!!』


 専門的な説明を理解するフィルルがいて嬉しいのだろう。女神様の尻尾がぴこぴこと動く。

 魔法がそこまで得意じゃなかった俺にはちんぷんかんぷんだが。


『ふつーは輪廻の円環に戻ったニンゲンを復活させるのは無理なのですが……純さんの世界に存在するでじたる空間ならフィルルさんの魂を再現できる事に気付いたのです!! 女神データベースにも載ってない超裏技!!!! やっべ、ウチ天才すぎますね!!!!!』


「お、おう」


 ドヤ顔の女神様にちょっと引く。そんなことをして大丈夫なのだろうか。

 それに、フィルルがデジタル空間の中だけに存在できるのなら、アイエクがサ終してしまえば……。


『ふっふっふ、そこも抜かりはないです!』


 俺とフィルルの肩に両手を回してくる女神様。

 女神お得意のダル絡みである。


『ウチがさっき説明した目標を達成頂きますと、純さんとフィルルさんが揃って実体化できるとしたら……いかがです?』


「!!!!」


 俺の背筋に電撃が走る。

 元の世界に、戻れる!? しかもフィルルと一緒に!?


「ま、マジか!? そ、そんなの……そんなの!」


 全力で頑張るしかないじゃないか!!


『ちなみに、フィルルさんはこちらの世界のニンゲンではないですから、さぽか?ってタイプに転生させました♪ ついでに純さんとフィルルさんの”スキル”も解放しましたので、色々試してみるのがよろしいかと!!!』


「!!」


 アイエクはソシャゲの定石として、アイドルのトレーニングを補助してくれるサポートカードが存在する。ソシャゲ集金の常とう手段であり、SSRをそろえることがランカーへの第一歩。


 もちろん俺の可愛いフィルルはSSRを超えた超スーパーウルトアレアであること間違いない。

 しかも、俺と彼女が異世界で習得した()()()を使えるとしたら……。


『ということで、ウチの失点挽回の為にあくてぃぶ300万とせるらん1位目指して頑張って下さいませ!!!』


 ぱしゅん


 最後に本音っぽいセリフを残して、女神様は消えてしまった。


「ほえ? 結局何をすればいいの? せるらんってなに~?」


 何のことか分からなかったのだろう。

 不思議そうな表情を浮かべるフィルル。


「そうだな……とりあえず俺たちが転生したこの『ゲーム』を沢山の人に遊んでもらえばいいんだ」


「げーむ? すごろくとか?」


 まだピンと来ていないフィルル。

 異世界にはソシャゲなんて無かったからな。


「あ~、何て言ったらいいか……幻影魔法を使って、モンスターと模擬戦するだろ?」


「ふむふむ」


「俺の元居た世界では、その幻影魔法に数百万人が同時に繋ぐことが出来るんだ。たとえばすごろくを世界中の人たちと同時に遊ぶことも出来るぞ?」


「え、えええええええっ!? すっごい!

 つ、つまり今いるこのお部屋は幻影魔法で作った領域エリアの中にあって……ジュン以外にもたくさんの人が参加できる場所って事?」


 さすが俺のフィルル、理解が早い。


「おう! 俺の世界では、ソシャゲって呼ばれる幻影魔法使いのランキングがあって、俺たちのソシャゲがランキング1位になれば……」


「わたしとジュンが、完全復活できるって事だねっ!」


「正解!!」


 天才で可愛すぎるフィルルと抱き合う。


「今はランキング最底辺だけど、俺と君の力を合わせれば……このソシャゲを、変えられる!!」


 ぶちあがったテンションのまま叫ぶ。


 こうして俺は、愛するパートナーと

 サービス停止中の爆死アイドル育成ゲームの立て直しを目指すことになった。


 どうやって立て直すって?

 それは今から考える!!


「あはは、そういう所が最高にジュンだね♡」


 フィルルの笑顔があれば、何だってできる。

 俺はそう確信していた。


 ==========


 アクティブ数:0人(サービス停止中)

 セルラン:573位 (ブービー)

 正史のサ終まで:185日


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