第2話 TSおっさん、現状把握する
「とりあえず外に出てみたわけだが……」
10分後、俺は現状を確認すべくゲームのフィールドに繰り出していた。
未知の事象に遭遇したらまずは情報収集……15年間の異世界生活で学んだ知恵である。
「やっぱり、ゲームなんだよな」
さすがソシャゲ、部屋から出ると服装が自動で変化した。
俺が転生(?)したアイドル・エクスプロ―ジョンの主人公である剣埼龍華はアイドル科のある舞花学園に転入した18歳。
舞花学園の制服はピンクを基調としたセーラー服なので……。
「めっさスース―する」
いやね、ゲームのキャラクターが着ている可愛い制服や衣装を着てみたいと思ったことは、みんな一度くらいあると思う(あるよな?)。
だがそれを実践するのはごく一部の上級求道者なわけで。
龍華は学園の制服を少し着崩しており、胸元のリボンは解いて右手首に結んでいる。
ピンクのラインの入った白スカートはかなりのミニスカ。3Dモデルを利用したソシャゲにありがちなパンチラ対策のスパッツ。
ソックスやタイツの類は履いておらず、素足にローファー履きと中々攻めたデザインだ。
「女性受けを狙って不良要素を入れた……って、アイエクのプロデューサーは頭昭和かよ」
最初はくわえ煙草キャラにしようとしたらしいが、さすがにとある林檎プラットフォーマーさんからクレームが入り、常にチュッパ某を口に入れているキャラになった。
「個人的には好みなんだけどな……」
ベータテスト前にキャラデザが発表されるなり、
「主人公格が純一wwwwww」
「いやマジで、何処目指してんの?」
「可愛い系の制服と合わねえだろ笑」
などなど評判は散々で、超有名声優をCVに起用したプロモーションも不発に終わる。
「性格はクールだが腕っぷしが強くて成績が壊滅的。定期的にライバル学園に殴り込みに行くヤンキーキャラって……夢女子舐めすぎだろ」
スパダリ要素が皆無でギャップ萌えもなし。これで女性人気が出るはずない。
かくして、看板になるはずの龍華がダメイン・オブザイヤーを受賞したアイエク(アイドル・エクスプロ―ジョン)のセルランはリリース直後から低空飛行を続ける。
「しかも、だ」
俺は今、ゲームの舞台となる『舞花町』を学園やアイドルプロダクション、ショップのある町の中心部に向かって歩いているのだが……。
「……遠い」
某商社が大金を投じて開発したアイエクには何故かオープンワールド要素が組み込まれており、
『舞花町』の中を移動するだけで数分かかる。ショートカット機能はない。
プロデューサー曰く、世界の風を感じて欲しい……舐めてんのか。
「周回が前提の育成ゲーには致命的だろ。なんで俺はプレーしてたんだ?」
思わずそう疑問に思ってしまう仕様である。
まあ、休日は10時間近くプレーしていた俺が言う事ではないが。
「それにしても、すげぇリアルだな」
目に映る街の建物の配置、遠くに見える学園の姿はゲーム内と全く同じだ。
だが、全て3Dモデルだったゲームと異なり、頬を撫でる風、口に入れた飴の甘さ、さんさんと降り注ぐ太陽はまさに現実だ。
周囲を行きかうモブキャラにもちゃんと表情がある(動きは単調だけど)
「さて」
5分ほど歩き、舞花町の中心部にやって来た。
噴水のある公園を中心として、左側には舞花学園。
右側には学園に通うアイドル候補生が所属する、エクスプロダクションのビル。
正面にはアイテムショップなどが存在する繁華街が広がる。
だが……。
「やっぱり、ロックされてるよな」
学園の門は固く閉ざされ、灰色の鍵アイコンがデカデカと空中に浮かんでいる。
エクスプロダクションのビルの入り口も同様だ。
「『メンテ中』か」
つい先ほど思い出したのだが、
俺が帰還した日付が女神の言う通り転生の半年前だとしたら、その時期『アイドル・エクスプロ―ジョン』に大事件が起きていた。
「龍華役声優のW不倫……」
しかも、アイエクのチーフプロデューサーと開発スタジオ内で濃厚接触(ちょい古時事ネタ)である。
金曜砲を食らった二人は慌てて釈明するものの、チーフプロデューサーの開発チーム内でのおかわり不倫やライバルゲーに仕掛けたF5アタックなどの悪行が次々出てきて開発チームは大爆発。
再開まで1カ月以上のサービス停止となる。
最終的にそのダメージから回復できず、あえなくサ終してしまうわけだが。
「これってこの後どうなるんだ?」
アイエクが正史の運命をたどった場合、剣埼龍華も電子の海に消えてしまう。
そうなったら、龍華に転生(?)した俺の存在は?
ヴンッ
空中に浮いたボタンをフリックし、ステータスウィンドウを開く。
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氏名:剣埼 龍華
CV:ー
所属:舞花学園3年E組 出席番号18番
身長:165㎝ 体重:54㎏ B:79 W:66 H:83 靴のサイズ:25㎝
衣裳:舞花学園制服 (セーラータイプ)
■アイドルステータス
体力:250/250
ビジュアル:189(B)
センス:123(C)
歌唱力:153(B-)
■バトルステータス
攻撃力:721(SS)
防御力:735(SS)
武器:メリケンサック
防具:スペシャルインナー
スキル:格闘術LV5
(ロックされています)
プロデューサーID:β0000872
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「うーむ」
CVが無い時点で、スキャンダル中なのは間違いない。
それにしても……。
「いつ見ても、ギリギリなプロポーションだよな」
だいたい、ゲームの女性キャラクターは男性や女性の夢が詰まったプロポーション及びシンデレラ体重なのが普通だ。
だが龍華は、カポエイラの達人で東方武術にも精通しているというアイドルゲーにあるまじき設定のせいで、絶妙に生々しい体型にされたのだ。ウエストが太めなのは鍛えていて腹筋が割れてるから。
……俺的にはそれが推しポイントだったのだが!
もう少しだらしない体型でもいいぞ!!
「……ま、まあ。俺の性癖はどうでもいいとして」
気になるのは各ステータスの数値である。
「初期状態ではないけど……俺、どのくらいやりこんでたっけ?」
流石に15年前にプレーしていたゲームの詳細ステータスまでは詳しく覚えていない。
この「龍華」は俺のアカウントのデータなのだろうか。
「それに」
アイドルゲーに不要と思える、バトルステータスという項目。
俺のようなマニアを生んだ、アイエク最大の特徴に絡んでくるステータスなのだが……。
「……強過ぎね?」
ベータテストを含め、1年ほどでサ終したアイエク。
開発された膨大なフィールドと機能は半分もリリースされず、バトルステータスをSランクに上げたランカーもいなかったはず。
「まさか、元の俺のステータスが影響しているとか?」
『……あの~、純さん。 少し説明させて頂けないでしょうか!!』
俺が思考の海に沈みかけた時、元気な女性の声が脳内に響き渡るのだった。




