第18話 TSおっさんとケモ耳少女、陰キャJKを説得する
「あっ、はい。初めまして。
リューことリューカと……」
「フィルルだよ! 初めまして!」
『……………………』
「あ~、えっと」
『……………………』
七色のゴッドヴォイスを持ち、龍華のCV候補として絶対ゲットしたい相手。
謎に包まれたシズのアカウントと、ようやくコンタクトをとることに成功した。
しかも、彼女は異世界生まれのフィルルの存在を認識できているようだ。
ドキドキしながら開始したシズとのボイチャは、のっけから暗礁に乗り上げていた。
(ねえねえジュン! 何も話してくれないよ! もしかして、まったく違う言語体系の世界から来たとか?)
ボイチャを開始してから一言も発しないシズ。
微かに聞こえる吐息は、確かにあのデモテープの声と同じなのだが。
(いやいや、”帰還者”なら日本語話せるハズだろ? 事実、チャットはすべて日本語だったし!)
(むむぅ)
ちなみに可愛くて天才なフィルルは、俺と過ごした日々の中で完璧に日本語をマスターしている。
日本語での会話は、魔法で傍受されても絶対に内容がバレることのない俺たちの心強い武器の一つだった。
「あっ、そうだよね。アイコンだけだとちょっと怖いか。カメラをオンにします」
今の俺の見た目は龍華なので、男口調で話すわけにはいかない。
JKっぽい喋り方(?)に苦戦しながら、俺はWebカメラのスイッチを入れる。
……それにしてもアイエクの仮想PCって、あらゆる機能がついてるよな。
*** ***
(あ、ああああああっ、どうしましょう!?)
ボイチャを繋いだはいいものの、シズはひたすら混乱していた。
対人コミュ能力マイナス、まともに話せるのはぬいぐるみ相手だけのクソ雑魚ナメクジの自分が
一対一のボイスチャットなんて出来るわけがないじゃないか。
シズは自身の短絡思考ぶりに嫌気がさしていた。
(あうえおいおあお、こほんっ! このまま黙っているわけにはいきません……流石に失礼すぎます)
自分から繋いでおいて無言なんて、ヤバいやつである。
なんとか会話をしなければ。
なんだ、何を話せばいい?
鉄板のお天気ネタだろうか?
それとも、オルタナティブ・ラップの歴史とかどうだろうか?
いやいや、マニアックすぎるだろシズ。
ゲーム好きっぽいし、数年前から業績を伸ばしているソシャゲプラットフォーマー、ダークロード社についての話題はどうだろう?
先日上場を果たし、巨額の資金を市場から調達して大規模な買収を計画しているとか……。
(どわあああああっ!? 無し無し無しですっ!)
どう見てもJK同士の会話で出す話題ではない。もっとフランクな、当たり障りのない話題……。
混乱し切ったシズが「ウンコ味のカレーとカレー味のウンコ、どっちがましだと思います?」という小学生男子のような話題を口にしようとした瞬間。
ヴンッ
Webカメラがオンになった。
「えっ」
思わず声が漏れる。
ボイチャ画面に映し出されたのは……。
どこか恥ずかしそうな表情を浮かべた金髪女子高校生と……ピンクを基調とした愛くるしいセーラー服を身に着けたふわふわ狼耳女子高生。
CGなどではない、アイコンそのままの女の子二人組だった。
*** ***
「あ、こちらの顔、みえてます?」
『は、はい……大丈夫です』
デモテープで聞いた通りの、透き通るような声。
ようやく、彼女の声を聴くことが出来た。
「オ……あたしの名前は剣埼龍華。知ってるかもしれないけど、アイドル育成ソーシャルゲームの主人公なの」
『あ、はい、存じてます。たしかあのセルランブービー常連の、爆死の申し子という二つ名しか存在感の無いゲームですよね』
「アッハイ」
落ち着いた声色で、やけにズバズバ事実を言う子である。
しかも俺が、いきなりソシャゲの主人公と名乗ったのに驚いた様子もない。
反応する余裕がないだけかもしれないが。
「そしてわたしは~! フィルル・フェンリル!! 異世界……レグナム出身の獣人族だよ~!」
続いてフィルルが自己紹介。ふわりとモフモフの尻尾がカメラの画角にフレームインする。
「そして俺は……レグナムから帰還し、ゲーム内のキャラクター剣埼龍華に宿った異世界転生者……愛菜純」
『!!』
シズが息を呑んだのが分かる。
俺とフィルルは、初手で自分たちの素性を明かすことに決めていた。
「ごくり」
どうだろう?
もしシズが俺と同じ帰還者なら、劇的な反応を示すはずだ。
ドキドキしながら、彼女の返事を待つ。
『…………シ、シズっ』
彼女の声が、僅かに上ずる。
『シズっ…………感動しました!! 異世界転生者って本当にいたんですね!! ラノベやアニメの中だけじゃなくてっ!!』
「お、おう?」
なんか想定外の反応である。
やっぱり貴方も!とか、実は私も!などの声が返ってくると予想していた。
『すみません、こちらもカメラをONにしますね』
ヴンッ
映し出されたのは、初夏だというのにブレザータイプの制服をぴっちりと着こんだ少女。
ぼさぼさと広がる黒髪に、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡がインパクト抜群だ。
眼鏡はともかく、風貌は普通の女子高生で帰還者感はない。
まあそれを言ったら俺の実体はムキムキおっさんなんだが……。
『シズの本名は隠乃静といいます。声優になりたいと思いつつ勇気が出せないクソ雑魚陰キャナメクジ……帰還者の龍華さん、異世界出身者のフィルルさん。
シズと……シズと……お友達になってくだしゃ!?』
頬を紅潮させながら一気にしゃべったシズは……思いっきり舌をかんで悶絶するのだった。
*** ***
『な、なるほど。それで』
悶絶状態から立ち直ったシズに対し、俺たちは改めて自分たちの境遇を説明していた。
異世界レグナムからフィルルと共にとあるソーシャルゲーム、アイエクの中に帰還したこと。
実体化を果たすため、アイエクのアクティブ数とセルランを上げる必要がある事。
フィルルの姿がこちら側の世界の人間から認識されないことなどなど。
「それにしても、シズちゃんは何で私のことが分かるのかな?」
ピコピコと耳を動かしながら問い掛けるフィルル。
『か、かわいい……!』
「でしょ~♪」
『あ、えっと、小さいときから沢山異世界転生系の小説を読んでいましたし、闇の妄想、こほん。引っ込み思案な自分を変えるため、異世界に飛び出してみたいなぁ……と夢の中で何度も夢想していましたので』
「うーん、なるほど?」
ある意味、変身願望アリな夢女子系の子なのだろうか?
つまり、瑠璃に比べてハイレベル厨二(?)な彼女は、フィルルまでも認識出来るのか。
シズと比べてオトナになった瑠璃は、俺しか認識できない……という可能性も考えられる。
「ま、それはともかく」
詳しくは後日女神様に聞いてみるとして、ある程度打ち解けられたと判断した俺は本題に入ることにした。
「知ってると思うけど、担当声優のスキャンダルで龍華のCVは不在になっているんだ。ぜひ素晴らしい声を持つ君を、新たな龍華役としてスカウトしたい!!」
「そうそう! ホントにシズちゃんの声は最高!! わたしの世界にいるセイレーンと比べても圧倒的だよ! シズちゃんが声を担当してくれれば、大ヒット間違いなし!!」
「おう、俺たちはあのデモテープを聞いて惚れ込んだんだ!!」
フィルルと俺はWebカメラに顔を寄せ、全力でアピールする。
セルランブービーとはいえ、ソシャゲの主役である。
声優志望の子なら、二つ返事で承諾してくれると思っていたのだが……。
『そそそそ、そんなの無理ですううううううっ!!』
返ってきたのは、全力の拒否だった。




