第13話 天使の歌声
『おはよう純兄さん……って、なんか朝からテンション高くない?』
月曜日の朝6時過ぎ。
誰もいないオフィスに出勤している瑠璃。
『純兄さんの存在は、ひとまず開発メンバーには伏せておこうと思うから、”スキル”でのやり取りは早朝と夜にしてね』
とは瑠璃の提案だが、確かに俺の千里腕スキルでマーカーが宙に浮き、ホワイトボードに勝手に文字を書き出したら事情を知らない人間が見たら大騒ぎだろう。出来ればテキストメッセージなどで瑠璃に直接メッセージを届けられたらいいんだけど。
『自室』内の仮想PCでは、インターネットの閲覧は出来ても書き込みが出来ないのでWebメールなども使えない。
(瑠璃なら直せるかもしれないな……それより!)
アイエクのプロデューサーである瑠璃に、『自室』内の仮想PCから書き込みできるよう改修を依頼する……それは後で相談するとして、まずはコレである。
「とりあえず、このURLを開いてくれ!」
千里碗スキルを使い、一昨日見つけたオンラインストレージのURLを瑠璃に教える。
シズと名乗るラブスタアカウントに載っていたもので、クソデカ音声ファイルへのリンクだ。
『なにこれ……全くオーディションに送る自信のないデモテープ.mp3……って、何このサイズ!』
「龍華のCV候補を見つけたんだ! とりあえず聞いてみてくれ!!」
「うんうん! ルリちゃんも絶対気に入ると思うよ!!」
俺の隣で、フィルルも激しく頷いている。
mp3ファイルには、シズと名乗る女性が録ったとおぼしきあらゆる音声が収録されている。
「本当に凄かったよね! 正にフェアリーボイスだよ!」
「ああ!」
俺もフィルルに1000%同意である。
有名アニメのアテレコに、絵本の朗読。オペラ調の戯曲に流行りのアイドルソング、果ては演歌まで。
その全てが素人の俺が聞いても超一流。しかも朗読の途中で別人かと錯覚するほど声色を変える。
正に七色の声色を持つ天使、神の所業としか思えなかった。
『いやいや、さすがに大げさすぎない? それよりアタシは純兄さんが作った新モデルの方が気になるんだけど……』
千里眼スキルで見える瑠璃の表情は疑わしげだ。
確かに日曜日、テンションの上がった俺とフィルルはマテリアライズスキルを駆使してたくさんのアイテム、モデルを構築していた。
可愛い可愛いフィルルの新衣裳とか、盆踊りステージとか。
だが重要なのはそこではない。
「なんでもいいから、一度聞いてみろよ! なっなっ!」
『え、ええ……純兄さんがそこまで言うなら。う~ん、事務所に所属していないアマチュア声優でしょ? そんなの……』
しぶしぶといった様子で、イヤホンを装着しプレーヤーの再生ボタンを押す瑠璃。
次の瞬間。
『……………はっ?』
瑠璃は朝食代わりにパクついていたあんパンを、ポロリと落としてしまった。
『ど、どういうこと? これが、声優志望の素人さん?
いやいや、声の雰囲気変わり過ぎでしょ! ボイスロイドじゃないの?』
目を白黒させたり、頭を抱えたり。
土曜日の俺たちと全く同じリアクションである。
『いやでも、抑揚の取り方が自然よね……しかも、セクション間のノイズが無い? ま、まさか一発撮り!?!?』
流石はゲームデザイナー。専門的な分析である。と同時に、額の汗の量がとんでもないことになって来た。
『……ふぅ、純兄さんのテンションの理由が分かったわ』
ある程度デモテープを聞くと、イヤホンを外し、大きく息を吐く瑠璃。
「な、凄いだろ! 龍華のCVを担当してもらえれば、大人気間違いなしだぜ!」
「うんうん! クールなリューカちゃんイメージの声だけでなく、可愛い系や元気系の声でぎゃっぷもえを狙うことも出来るし!」
いつの間にか現代日本のオタクカルチャーを理解し始めているフィルルと一緒に、シズの声の凄さを熱弁……もとい熱書する。あっという間にホワイトボードが文字で埋まってしまった。
『確かに凄い才能を感じるし、現行の龍華にない魅力も引き出せる。これだけ多彩な声色を使えるなら、複数キャラを担当してもらって経費削減も可能かも』
「だろだろ、今すぐ……」
テンション上がりまくっている俺だが、次の瑠璃の言葉が俺たちを現実に引き戻す。
『で、このシズって子にどうやって連絡するの?』
「……うっ!?」
そう。
シズのラヴスタアカウントは鍵垢であり、こちらからメッセージを送る事は出来ない。
mp3ファイルが置かれていたオンラインストレージのアカウント情報も同様で、シズに連絡が取れそうな情報は何も載っていなかった。
『写真とか何も載せてないし、ポイッターとかにもそれらしいアカウントもなさそうだし……ラヴスタアカウントにDMを送っても、絶対返してくれないわよ』
カタカタとキーボードをたたく音が聞こえる。
色々なSNSを調べてくれているのだろう。
「なら、裏垢を探すとか……」
『若いサブカル女子が、そんな簡単に裏垢見つかるようにしてるわけないでしょ。常闇の深淵のそのまた奥よ』
「うぐっ」
同じサブカル女子から言われてしまった。
瑠璃に相談すれば、もしかしてと考えていたが……。
「ねぇねぇジュン」
その時、フィルルが俺の脇腹をツンツンしてくる。
「ジュンが言ってた、いんたーねっとの制限 (?)、それを解除してくれたら、わたしがなんとかできるかも……」
「フィルル?」
彼女の言う通り、自室内のPCではインターネットの閲覧は出来ても書き込みはできない。
つまり、ラヴスタアカウントを作ることも出来ないわけで。
「ほら、わたしのスキルを使えば”封印”を突破できるし、シズちゃんに直接アプローチできないかな?」
「!! なるほど!!」
スーパーハカーフィルルさんなら、ロックを突破してメッセージを送ることが出来るかもしれない。
ただ、いきなりDMは警戒されるだろうから、まずはラヴスタアカウントを作ってフレンド申請という方法も考えられる。
「なあ瑠璃。俺の方でシズにアプローチしてみようと思う。
んで、一つお願いがあるんだが……」
瑠璃にPCの機能制限解除をお願いする。
『そ、それくらいならすぐしてあげるけど……ていうか、マイルームのPC、ネット閲覧が出来たのね』
開発用の端末を操作し、ちゃちゃっと設定してくれる瑠璃。
「しかもこいつを使えば、ホワイトボードを使わなくても瑠璃に直接メッセージを送ることが出来るだろ?」
『あ、なるほどね! それじゃアタシのLANEアカウントと携帯メールアドレス送っとくわ』
「おう、サンキュー!」
こうして俺たちは、シズにコンタクトを取るべく動き始めるのだった。
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正史のサ終まで:182日




