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第12話 TSおっさんの休日

「うわぁ♪ これが”いんたーねっと”って魔法?」


「魔法……そうだな、ある意味魔法みたいなもんか」


 フィルルと抱き合い、ぐっすりと眠った翌朝。

 ゲーム内のカレンダーを確認すると、今日は土曜日。

 瑠璃は週末を使ってアイエクの改造計画を立てると言っていたので

 今日はオフィスにいない。


 つまり、特に朝からやることもないわけで、フィルルにこちらの世界を見せてやることにした。

 龍華の『自室』にはPCが置いてあり、なんとネットにつなぐことが出来る。


「それにしても、こっちの世界の朝ごはん凄く美味しいね! ギュドーンさいこー♪」


 人間と同じ感覚はあっても、ゲームのキャラクターたる俺たちは特に食事をする必要はない (たぶん)。精神体のような存在らしく、睡眠は取りたくなるけど。


「アイエクが無駄に凝ってて助かったな」


 膨大な開発費を投じたアイエクのオープンワールド内には、アイドル育成に関係のない要素がふんだんに実装されていた。


「久々に腕を振るったぜ」


「えへへ~、ジュンのお料理大好き!」


 舞花学園にはあらゆる調理器具を揃えた家庭科室があり、サンドウィッチから豚骨ラーメンまで、何でも作ることが出来る。

 ちなみに、特にアイドルステータスは変化しない (いつもの)。

 それどころか、料理に失敗すると女子力×のバッドステータスがつく罠。


「……いよいよなんで俺はこのゲームをプレーしてたんだろう?」


 行動するたび、思い出されるクソ仕様に当時の俺は変態だったのかと心配になる。


「ふひひ~、ジュンはねぇ手じゃなくて足の方がぁ……♡」


「と、とうっ!」


 ぺちん!


「ふぎゃっ!?」


 いつものごとく危険なセリフを口走ろうとしたフィルルをチョップで止める。


「ゲーム内でえっちなのは駄目だと言ってるだろ?」

「う~、ジュンは王立倫理騎士団なのぉ」


「ほらほら、ネットサーフィンしようぜ?」


 PCの起動が終わり、最初に開いたのはGo○gl○ E○rth。

 ゲーム内の仮想ブラウザなので、外部SNSへの書き込みや商品の購入は制限されているようだ。


「わっ! 凄い! これってジュンの世界のワールドマップ!?」


「おう、そうだな」


「”チャート”の魔法に似てるけど、精度がダンチだねっ」


 嬉しそうにぴこぴこ尻尾を動かすフィルル。

 異世界にも地図魔法があり、古の賢者が遺したワールドマップを見ることが可能だった。

 だが、地図を拡大する事は出来ず、所々欠損があり……なにより町の配置などは数百年前の状態。

 無いより断然あった方が良いものの、地図が江戸時代のカーナビで旅をしろ、と言われればその難易度が分かって貰えると思う。


「ここが俺が生まれた”日本”って国だ」


「あははっ、何かドラゴンみたいな形してるね♪」


 ドラゴン……確かに日本列島はタツノオトシゴのような形をしている。

 異世界生まれならではの感想に感心しながら、地図をズームしていく。


「日本の中の、この辺りに俺の家がある」


「ふむふむ」


 関東地方を選択し、神奈川県をズーム。

 何しろ15年ぶりなので、一瞬どの辺りか分からなくなるぜ。


「……ん?」


 ぐりぐりと地図を動かしていた俺は、僅かな違和感を覚える。


「ぷっ、”魔王島”に似た形の島があるね、面白~い!」


 フィルルの言う通り、場所的には藤沢と茅ケ崎の間位だろうか。

 観光地としても有名な江の島の南西、太平洋の沖合にぽっかりとドーナツ状の島が浮かんでいる。


「……こんなところに、島なんてあったっけ?」


 ただでさえ地理は苦手で、授業を受けたのは数十年前である。

 とっさに思い出せない。


「ねぇねぇジュン! 地図以外に何か無いの?」

「あ~、そうだな……他には」


 ネットで調べてみようと思ったのだが、ワクワクモードなフィルルのおねだりが始まり、変な島のことなどすぐに忘れてしまうのだった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ココがラヴスタグラム……通称ラヴスタ。

 契約者は自分の領域が貰えて、好きな物の写真をアップしたり、スペースって機能で世界中に”配信”することも出来るぞ」


「わああっ!!」


 グルメサイトや観光案内サイト。

 色々な場所を巡り、最後にやってきたのは巨大なSNS。

 俺はアカウントだけ作ってあまり使っていなかったけど、フィルルも女の子だからな。こういうのも好きに違いない。

 ちなみに、我らがアイエク公式アカウントのフォロワー数は……785人。


「キラキラだねっ☆」


 相変わらずのアイエクの不人気っぷりに頭痛がしてくるが、

 フィルルは綺羅星のごとく流れる写真や動画に夢中だ。


「あっ、可愛いメイク! この子のワンピース、ちょっとせくしー♪」

「そ、そうだな!」


 ゲームオタクで日課は自分の筋肉との会話。

 職業トラックドライバーで異世界帰りアラフォー (見た目JK)の俺には眩しすぎる世界だぜ。


「あ、そういえば~、リューカのぼいすあくたー (?)さんを探すんだよね? ここで探してみるのはどうかな」


「!! 確かに!」


 ラヴスタの会員数は1500万人。

 特に若者に人気のSNSで、ソシャゲの最重要マーケティング対象だ。

 例えば、将来有望な声優志望の子を龍華のCVに起用すれば……スキャンダルの心配は少ないし、ラヴスタ内で話題になるかもしれない。


「早速探してみるか。えーと」


 俺はラヴスタアプリのやけにファンシーな検索窓にキーワードを打ち込む。


「声優 なりたい kwskっと」


 ……何? 検索ワードが古い? 仕方ないだろおっさんなんだから!

 とはいえ、検索技術の進歩はすごい。

 おっさんの適当ワードでも、たくさんのアカウントが表示された。


「うっ、声優志望の子ってこんなにいるのか……」


 ぱっと見だけで数百アカウント以上。

 アイコン写真も皆メイクばっちりで、プロフィールの文言もどこどこの養成所に通ってます、こんなキャラを演じたい、などなど。

 情報の洪水がPCの画面に流れた。


「目移りするな……」


 もしかしたら、俺の感性がおじさんなのかもしれないが、みんな同じに見えてしまう。

 でも、承認欲求が強い子だとまたスキャンダルを起こしてしまうかもしれないし……アイドルゲーなので男性声優の数は少ないとはいえ、先生役やサポートキャラには有名男性声優(既婚)が起用されていたはずだ。


「そんな危険があるなんて……ジュンの世界はけっこういんもらるだね♡」


「こら、何だよその♡は」


「むふふ、それも愛の形なのかも。わたしはジュン一筋だけど!!」


「フィ、フィルル!」


 あまりにいじらしいフィルルの言葉に、思わず彼女を抱きしめてしまう俺であった。


 ***  ***


「って……このアカウント?」


 もうそろそろお昼だし、昼飯の後ゆっくり見るか……そう考えていた俺の目に、一つのアカウントが留まる。

 サムネは顔写真ではなく、汎用の♡アイコン。

 プロフィールには「声優になりたいけどオーディション受ける勇気が出ないクソ地味根暗ゴミ陰キャです……マイブームはラップバトル」と書かれていた。


「……んん?」


 超ネガティブな前半部分と釣り合わない後半部分。


「ラップバトルって……サ○ンラップで戦うとか?」


「え? ジュンなんか言った笑?」


「……ごめんなさい」


 フィルルはオヤジギャグには厳しいのである (泣)。


「そ、それはともかく」


 妙にこのアカウントが気になってしまう。


「あ~、鍵垢か」


 詳細プロフィールを見てみたかったが、ロックが掛かっている。

 声優志望なのに鍵垢なんて……最近は同人ゲーも盛り上がっているので、SNS経由でのスカウトも多いと聞く。


「ねえジュン、この子が気になる?」


「ああ、でも見れないんだ。パスワードっていう封印がかかっていて……」


「なるほど。えいっ♪」


 かちゃん


「え?」


 フィルルが右手を振ると、あっさりとアカウントのロックが解除された。


「ハイ・スキャンで封印を解除してみました♪ もちろん、足跡なんて残してないよ?」


「えぇ……」


 まさかのスーパーハカー、フィルルさん。

 彼女のスキャンスキルは電脳世界のパスワードなど、問題にしないようだ。


「えーと」


 開いてしまったものは仕方がない。詳細プロフィールを確認しよう。


「名前はシズ、性別は女性……ってこれだけ?」


 プロフィールに書かれていたのは、ハンドルネームと何かのURLのみ。

 URLの下には、『自信が無いので、パリウッドからのスカウトは受けられません』の一文。


「おぅ?」


 パリウッドとは、世界最大の映画製作会社である。

 自信が無いのかあるのか分からない子だな。


「このURLは……オンラインストレージへのリンクか?」


 試しにクリックしてみる。


「おっ」


 リンク先にパスワードは掛かっていない。

 ストレージに置かれていたのは……。


「音声ファイル?」


 ファイル名は、『全くオーディションに送る自信のないデモテープ.mp3』長さは……350分!?


「気になる……」


 ファイル名とは裏腹な、自信満々なボリュームにどんどん興味がわいてくる。

 ブラウザに内蔵されたプレーヤーで音声ファイルを再生してみる。


『~~~♪』


 最初に流れ出したのは、どこかで聞いた事のあるイントロ。


「「!!!!」」


 シズのものとおぼしき歌声を聞いた瞬間、俺とフィルルの全身に、衝撃が走った。


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