第11話 夏イベのクリア報酬をゲットする
「ふ~、終わった終わった」
俺とフィルルのコンビネーション攻撃により、舞花学園に巣食う邪悪なドラゴンは打ち倒された。
……アイドル育成ゲームとは思えない展開だが、ともかくこれで夏イベントはクリアのはずだ。
キラキラキラ
ドラゴンの全身が光に包まれ、小さなアイテムに変わっていく。
「お、限定アイテムかな?」
ソシャゲのイベントをクリアすると、何かしらのゲーム内報酬が貰えるのが普通だ。
例えば称号とか、キャラクターを彩るアタッチアイテムとか。
限定サポートカードが貰える場合もあるが、性能はガチャで引けるものに比べると控えめなのが普通である。
「いったい何だろう……って、アレ?」
「ふお?」
空から降りて来た”ドロップアイテム”を手にした俺とフィルルは、思わず首をかしげる。
そのアイテムが、非常に見慣れたものだったからだ。
「これは……魔石、だな」
「ふむふむ。能力強化系魔石が3個に、エリートスキルの触媒となるレア魔石が5個! エビルドラゴンクラスにしては、なかなかのしゅーかくだね!」
「いやいや、ここは俺の世界のゲームの中だぞ?」
魔法や錬金術の研究が趣味だったフィルルは目を輝かせているが、困惑する俺。
『魔石』とは、異世界ではごくありふれたアイテムで、モンスターのコアである。
高ランクのモンスターを狩るほど希少な魔石が手に入るので、魔王が現れる前の冒険者時代、フィルルとこぞって集めたものだ。
「アイエクにこーいうアイテムあったっけ?」
もしかしたら、夏イベで実装予定の新要素なのかも。ソシャゲはガチャを回す度に消費するゲーム内ポイントのことを宝石 (ジュエル)になぞらえて呼んだするし。
「とりあえず瑠璃に聞いてみるか。おーい、瑠璃?」
俺はアイエクのチーフプロデューサーである瑠璃に尋ねようと、千里腕スキルで呼びかけようとしたのだが……。
『純兄さんの異世界スキルって、むっちゃスゴイじゃん!!!!』
「うおっ!?」
クソデカい瑠璃の声が響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『いやもうほんと、マジで凄いわ! よっ、異世界帰り!!』
「お、おう」
興奮した瑠璃の声が、キンキンと舞花町フィールド全体に響き渡る。
……なんで俺の周りには、声のデカい女性しかいないんだ?
女神様もデカいし……フィルの声は心地よいから、どれだけデカくてもいいけど!
「えへへ♡」
天使の笑みを浮かべるフィルルの頭を優しく撫でる。
そんな現実逃避気味の俺に構うことなく、瑠璃の言葉は続く。
『正直、アイエクのバトル要素って地味だしゲーム的にはタダのデバフ要素よね?
ウチにはファンタジーゲームの製作経験者がほとんどいなくて、せっかくのオープンワールド要素を生かせなかったと思うのよ! アイドル育成パートの改善は必須だけれど、純兄さんの異世界スキルを生かせば、バトル要素をゲームのウリにすることも出来るっ!!』
「あ、ああ」
瑠璃はこう言っているが、大丈夫だろうか?
ほら、ゲームのメイン部分よりオマケの方が人気になる本末転倒現象ってあるよな。
某究極ファンタジーの麻雀とか。
『龍華のCV探しと並行して、ゲーム部分の改造もガンガン進めるわよ!
とりあえず、アタシがこの土日で計画立てるから、純兄さんは適当に新モデルを作っておいて!!』
「お、おう……あまり無理すんなよ?」
昔からやりこみ始めると止まらない瑠璃である。兄貴分として心配になる。
『ふん、アタシを誰だと思ってるの! 二徹くらい余裕よ!』
「あ~、それはな……」
無理が利くのは20代前半までなんだ。お前ももうすぐ25だろ。
体を冷やさないようにして、ノコギリアルラウネの根を煎じて……。
『アタシはもう落ちるけど、今日中に夏イベのごほうびシーンの撮影よろしく!!』
俺のおっさんアドバイスを無視し、いい笑顔を浮かべる瑠璃。
「……え?」
ぱあああっ
次の瞬間、龍華の衣装が水着に変わる。
ピンク色がベースの、リボンのついた可愛いビキニタイプ。
ああなんだ、まともな夏衣裳もあるんじゃないか……じゃなくてだな!
「うええええっ!?」
な、なんだこの布面積は!?
世の中の女子はこんなものを着て恥ずかしくないのか!
思わず内股になる俺 (龍華)に……。
「うっほおおおおおっ、きゃわいいいいいいっ♡」
大興奮した娘さんが一人。
がばっ!
「ちょっ、フィルル!? えっ、力つよっ!?」
「狼パワーは無敵なんだよ!!
さあ、ルリちゃんの言う通り、撮りまくるよ!!」
「えっ、フィルルさん? いつの間にカメラの使い方を!?」
「それはね、愛だよ!!!!」
どかーん!!
そのままフィルルに担ぎ上げられ、学園のプールに連れていかれる俺なのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あはは……ゴメン、ジュン」
「まったく……」
30分後、俺とフィルルは『自室』に戻って一息ついていた。
「久々のジュンのお肌♡に思わず興奮しちゃって~♪」
「あのな……」
アイエク夏イベントをクリア後、瑠璃から無理やり水着を着させられた俺。大興奮して文字通り送りオオカミと化したフィルルに襲い掛かられ、散々恥ずかしいポーズで写真を撮られた後、学園のプールに放り込まれた。
「あの水着、サイズが合ってなさそうだったからポロリを期待したのに~」
とんでもないセリフを口走るフィルル。
野獣と化したお嫁さんの前に、TSおっさんの貞操は風前の灯火だったのだが……。
「あんな”制約”があったなんて~」
アイエクは小学生でもプレー可能な健全 (たぶん)ゲーム。
林檎プラットフォーマー様の鉄壁ガードのお陰で、大事なところを晒さずに済んだ。
「ま、そういう事は現実世界に戻ってからな?」
ちゅっ
いくら林檎様でも、頬へのキスは許してくれるみたいだ。
「えへへ、ありがとうジュン♡」
ちゅっ
フィルルもキスを返してくれた。
ああ、何て愛しいんだろう。
クールなJKとふわふわ狼娘の微笑ましいいちゃつき。
絵面的にとてもエモいに違いない。
まあ、中身はおっさんだけどな、がはは!
寝る前にドラゴンジャーキーを肴に一杯といきたいが、未成年が主人公のゲーム世界にお酒はない。
「ふぅ」
仕方ないので、冷蔵庫からジンジャエールを取り出し俺とフィルルの前に置く。
「それにしても、分からないことだらけだな」
「そうだね……」
瑠璃と意思疎通を図ることに成功し、俺のユニークスキルである【マテリアライズ】はゲームの改造に有効。俺たちの目的を達成する為に、良いことも沢山あったのだが。
「なんでルリちゃんはわたしを認識できないのかなぁ」
「むむぅ」
なぜか瑠璃から”視えない”フィルル。
龍華のステータスにはしっかりサポートカード・フィルルとして表示されているはずなのに。
「それと」
テーブルの上に置かれた、色とりどりの魔石を見やる。
俺が転生した異世界にしかないはずのアイテムが、ゲーム内に現れた。
コイツが異世界のそれと同じように、『使える』のかどうか、どこかで試してみたいが……。
「あのネコちゃん神様、いつ来てくれるの?」
「それが分かれば苦労はしない……」
気まぐれな女神様は、半年単位で現れないこともしょっちゅうだ。
「ま、でも」
ぎゅっ
俺はフィルルを優しく抱きしめる。
「えへへ」
愛するパートナーが、俺の腕の中にいる。
今はそれだけで十分だった。
「ふああぁぁっ」
急に眠気が襲ってきた。俺はお姫様だっこでフィルルをベッドに運ぶ。
「おやすみ、フィルル」
「おやすみぃ、ジュンと……リューカ♪」
こうして、俺の長い長い帰還一日目は終わりを告げたのだった。
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正史のサ終まで:184日




