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第10話 異世界スキルでうっかり魔改造してしまう

「え、ええええええええええええええっ!?」


 目の前で起きたありえない現象に、思わずモニターを掴んで絶叫する瑠璃。

 いやまあ、異世界から戻って来た純兄さんがゲーム内のキャラクターに転生した、という事実だけでも充分にありえないのだけど。

 その辺は女神の奇跡という常闇領域の彼方であると納得(?)した瑠璃なのだが……。


「う、うそでしょぉ!」


 ある意味、ゲームクリエイターだからこそ。たった今起きた現象の方が信じられなかった。


「龍華の武器と衣裳が変わった、勝手に!?」


 純兄さんが操る龍華が火縄銃を投げ捨て、目を閉じて手を組んだ瞬間、

 龍華の野暮ったいマタギ衣装は、ケモ耳フードをベースにした超かわいい衣裳に変化した。

 右手に持った槍は聖槍ゲイボルグだろうか。心の奥の『ルーリィ』が疼く。


「って、3Dモデルまで出来てるじゃない!?」


 開発機内の素材ライブラリを開いたところ

 ・聖槍ゲイボルグ

 ・限定衣裳もこもこマタギ

 という3Dモデルが、いつの間にか増えていた。


「めっちゃ綺麗なモデルなんだけど……!」


 開発チームが導入している高価な3Dエンジンとエディター。

 ソイツの規格に準じて作成された3Dモデルは、このままゲーム内に実装可能な精度を持っていた。

 むしろ、既存のモデルを上回っている。


「それどころか、この龍華の限定衣裳……」


 デザインが可愛いのはもちろんだが、各種調整ボーンが組み込まれており他のキャラクターに着せることが可能。


「さらに!」


 インナーのショートパンツにはスク水素材が採用されており、テカリの物理計算も完ぺき。

 ドラゴンを撃退した後、学園のプールでごほうびイベント、などの応用すら考えられた職人技である。


「す、すごいっ!」


 トップクラスのモデラ―に依頼しても、完成まで数週間はかかるだろう。


「ごくり」


 これを純兄さんの異世界スキル(?)とオタクセンスが生成したというの……。

 瑠璃は固唾をのんで夏イベントの行方を見つめるのだった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「えへへ~、リューカ、最高に可愛いよぉ♡」


「ううっ、そんなに見ないでくれぇ」


『SSRラブリー♡Bear 剣埼龍華』

 となってしまった俺。


 頬が赤くなっているのが自分でも分かる。

 むき出しになった太ももがスース―して落ち着かない。

 全身をもじもじさせるたび、フードのクマ耳がぴこぴこと動く。


「じゅるるっ、リューカの太もも、すべすべでいい匂いしそぅ♡」


「ひええっ!?」


 ねっとりとしたフィルルの視線が、全身に絡みつく。

 ふわふわ狼美少女に視姦されるおっさん(TS)って、どういうシチュエーションなんだ!?


「あーもう、さっさとドラゴン倒すぞ!」


「はーいっ♪」


 誤魔化すように叫んだ俺は、校舎の屋上にいるドラゴンに向けて走り出す。


「龍華の姐キ、あぶねーですよ!」

「龍華さん、先生が来るまで動いちゃダメです!」


 龍華の取り巻きに委員長……モブキャラたちが声を掛けてくるが無視する。

 いやキミたち、ドラゴンが出現したんだから逃げるか自衛隊を呼んだ方がよくない?

 こういうズレたモブキャラの反応もアイエクの (マニアックな)楽しみポイントである。


「見えたっ!」


 部活棟の脇を通り、中央グラウンドへ。

 ココからならドラゴンの全身を観察できる。

 どうやらヤツは大学棟の屋上にいるみたいだ。


「フィルル!」


 もちろん、俺の最愛最強のパートナーは、ぴったりと俺の後ろをついてきている。


「おっけ~、リューカ! 【ハイ・スキャン】!!」


 ブンッ


 フィルルが両手を広げると同時に、3つの魔方陣がドラゴンを取り囲む。


「エビルドラゴン(仮)、HP:3765 効果属性:火 クリティカルポイントは、ここっ!」


 ぱああっ


 ドラゴンの首の付け根が、淡く輝く。


「よし、フィルル! タイミング合わせるぞ!」


 さすがはフィルルのスーパー解析魔法。

 ドラゴンのHP、属性、弱点まで丸裸である。


「いっけええええええええっ!」


 俺は聖槍ゲイボルグにありったけの闘気を込めると、ドラゴンの首めがけてぶん投げる。


「荒れ狂う炎の聖霊よ、我の言の葉に従い邪なる竜を打ち砕け……グランバーストSRE!!」


 絶妙のタイミングで放たれたフィルルの爆炎魔法が槍に纏わりつき、炎の槍と化す。


 ズッドオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 巨大な爆炎はドラゴンを呑み込み、綺麗さっぱり焼き尽くしたのだった。


「俺と、フィルルの勝利だぜ!!」


「ぶいっ☆」


 久々の、愛するパートナーとのコンビネーション攻撃。

 テンションの上がった俺は、思わずキメポーズを取るのだった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「………………はっ?」


 モニターの中で展開される『アイエク』のゲーム画面を見ながら、思わずアホ面を晒す瑠璃。


「いやいやいやいや!」


 聖槍ゲイボルグを片手に、巨大なドラゴンへ戦いを挑んだ龍華もとい純兄さん。


「な、なんなのこのエフェクト!」


 アイエクのアイドル育成ゲームらしくない『バトルパート』だが、ゲーム内のバトルシーンは地味である。スマホでの操作を考慮してというのもあるが、基本的にパンチとキック、サポカに付属したカットインスキル(プロレス技)位だ。


(アイドル育成ゲームにバトルが必要なのかは置いとくとして)


 近所のヤンキー学園である「蛇悪学園」の討ち入りを撃退したり、街を歩いていたら声を掛けてくる悪徳違法スカウトを撃退したり……ソシャゲにありがちな「デバフ」イベントなのだが、テンポの悪さと癖のある操作性でユーザーには不評である。


(純兄さんは好きって言ってたけどね)


 本物の格闘家やプロレスラーが担当したモーションは滑らかで、美少女が繰り出すマニアックな格闘モーションに熱心なファンがいるのも確かだが……。


 ドッカアアアアアアアアンンッ!


 アクション映画顔負けの派手な爆発エフェクト。

 異世界スキル(?)とおぼしき魔法の炎もまるで花火のように美しい。

 もちろんアイエクには実装されていないものだ。


 龍華の投槍モーションも完ぺきで、世界選手権でメダルを取れるだろう。


「こ、これが……!」


 純兄さんが15年間の異世界生活で身に着けた超絶スキル。

 それは他のゲームでは絶対に真似できない現実感と美しさ、そして説得力を併せ持っていた。


(これは、使えるのでは?)


 キャラクター設定のせいで人気は無かったが、龍華の3Dモデルの出来は良く、グラフィック方面でのアイエクの評判は悪くない。


(純兄さんの”スキル”があれば)


 先ほどのエフェクトもモーションも、いつの間にかライブラリに保存されている。


「圧倒的に開発期間を短縮できるじゃない!」


 自分たち開発チームは、UIの修正やゲームテンポの改善、シナリオの修正などに注力すればよい。

 幸い、明日から週末。

 アイエク再生プランを考える時間は十分とれるだろう。


「よおおおっし! 燃えて来たわ!!」


 テンションの上がった瑠璃は、純兄さんに声を掛けるべくマイクのスイッチを入れるのだった。


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