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2 ハウルレンのコマ使い

夜明けから走り続けて昼前くらいに強盗団の住まいの山の中腹に着いた。

後から盗賊団も帰ってきた。

「もう、お頭はえーよ」

「疲れた〜早く休みてー」

言いながらも、僕の支度品を手に入れて上機嫌だった。


お腹は減るし、馬に酔って気分は最悪だったが、ご飯を二人分持って来いと食堂に行かされる。枷はやっと外された。

会った人に場所を聞きつつ、ようやくたどり着いた食堂の中では、一味がその妻、もしくは攫われて来た女達が作ったご飯を食べていた。

お互い蟠りはなさそうに見える。どちらかと言うと、女性陣の方が強そうだ。

「そんなにがっつくな、溢してる!」

「野菜残すんじゃ無い!大人が好き嫌いすんな!」

「おかわりあるから!」

矢継ぎ早に男共に言いまくっている。

「へえへえ」

「もっと肉寄越せ、できれば」

「食べりゃ良いんだろ、食べりゃ!」

言われた方も慣れたものだ。


ジョゼルカが、そばに来た女の一人に頼むと、快くトレーに乗せて持って来てくれた。

「ハウルレンは身内に暴力は滅多に振るわないし、気まぐれだけど優しいから、頑張って気に入られな!」

と励まされたので曖昧に微笑んだ。


ハウルレンの部屋に行くと「遅いぞ」と文句を言われたが、二人で小さなテーブルを囲んでご飯を食べた。食堂で嗅いだ通り、美味しかったし、お腹が減っていたので夢中で食べた。

故郷の味とは違っていたが、小さめのりんご半分で、その前もご飯前だったので、お腹がとても空いていた。案外抵抗なく食べれた。


落ち着いたら早速尋ねなければいけない。

「僕はここで何をするの?」

できれば王子の立場からは、殺人や盗みはしたくなかった。

「ここは盗賊の集まりだぞ。やる事決まってんだろ」

ジョゼルカがあからさまに困った顔をすると、ハウルレンは笑い出した。


「お前はほとんど役に立たねーよ。俺のお使いでもしたらいい。ここに居ろ。その方が安全だ」

意地悪く言い、ジョゼルカは従うしかなかったが、まだそれならできそうだと思った。

「王子様をこき使えるなんて、最高だ!」

「もう王子様じゃないよ」

そう返すのが精一杯だった。


言われた通り、ジョゼルカは朝から晩まで、身支度からご飯の上げ下げ、仲間を呼んだり、何か届けたりと使われた。

空いた時間は、厨房の手伝いや各部屋の掃除をさせられ、王子であった自分には慣れないことばかりだ。

いつも疲れ切って、夕飯もそこそこに眠ってしまう。


来る前からハウルレンは寝る時にジョゼルカを抱きしめて寝ていたが、それは続いていた。

寝ぼけて蹴り落とされたことがあったので、腹が立って床で寝てたら、いつの間にかベッドに上げられて抱きしめられていた。


最初は何をされるかとビクビクしていたが、疲れているので自然と寝てしまう毎日だし、触り方も全く色気が無いので、慣れて気にしなくなった。

たまに機嫌が良い時、頬や額に軽くキスしてくるが、深い意味は無さそうだ。


外への出入り口に見張りは居るし、周りは自分をよく見ているので、逃亡は諦めている。ひたすらシグネチャルかタマラン王国が、見つけてくれるのを待つだけだ。

じっとしているだけではつまらないので、料理を覚えたり、要領良くやる掃除の仕方を習ったりと、限られた生活の中で身につけられる事は率先してやった。


最初はちょっかいをかけられて不愉快な思いをした。ハウルレンは愛想は無いが、計画的に襲撃して成功させ、気前よく稼ぎを分配するので、人気はある。


ジョゼルカを離さないのを見て、ジョゼルカの容姿が良いのも有り、妬みからちょっかいをかける者も現れた。

すかさずハウルレンが喝を入れ、問答無用で叩きのめしたので、収まった。


外出できない不自由はあるし、これまでの王宮生活とは比べられないが、ある程度順応し、それなりに快適に暮らしていた。




気付けば2年余りの月日が過ぎていた。

「見つからないもんだなあ」

相変わらず囚われているジョゼルカは沈む夕日を眺めつつため息をついた。


聞いた話では、色々な街で自分の人相書きが出回っているらしい。なのにここには一向に辿り着かない。盗賊団といえども結束は固くて秘密は漏れないようだ。


ハウルレンは相変わらずジョゼルカを離さず、かと言って盗賊仕事には連れて行かないし、させない。身体を求められることもない。

それだけが救いだ。


17歳になると身長も10センチくらい伸び、細いが筋肉も付いてきた。髪はあまり切らず、背中の中ほどまであるのを無造作に括っているが、金髪なので多少目立つ。

もし、ハウルレンがジョゼルカに飽きて、男娼として売られても、おかしくない年になってきた。


今の生活から良くなる事は無い。悪くしかならないだろう、とは思っているが、まだ覚悟は無かった。




最近、ハウルレンは、仲間と話し合う機会が多い。

話し合いと言っても、最後は喧嘩か、飲み合いになるのだが、内容については僕も思う所はある。

タマラン王国が中心となって、国内外の盗賊団の一斉討伐を行うようになったのだ。

中心人物は勿論ヤヘルファンだ。


聞いた時、まだ僕を探していたのか、と驚いた。

ヤヘルファンは僕を探す為、私兵を動かして国内の有名な盗賊団を壊滅させ、行方が掴めないと次は周辺国を動かしたのだ。


ハウルレン達はタマラン王国の隣国との国境近くにあった今の根城を移すかどうかで決めかねている。

2年で人数も増え、今でも手狭になってきたが、次に適当な所がなかなか無いからだ。


タマラン王国の街中に数箇所あった拠点が突き止められて危うい所を撤退できたが、次の拠点も確保できていない。

治外法権だった貧民街も壊されたり、整備されたりで、王国側に掌握されてしまった。



追い詰められている、と僕は自分がハウルレン側で考えていたのに気付いて苦笑した。2年もいたらハウルレンに多少なりとも情も湧く。

口は悪いが僕には優しいのだ。盗品を身につけたくはないと言えば、街中で買ってきたと宝飾品や服を渡された。おやつだと高級な菓子を与えられる。

窃盗だけではなく、表向き仕事の仲介や斡旋もしているので、紹介料として真っ当な金だと念を押される。


中で暮らす人達とも良好な関係を築いている。

ここで育つ子ども達に勉強を教えたりもして仲良くなっている。

全員が捕まって縛首にされるのを見たくはない。





いつも通り、1日の疲れであっという間に寝てしまい、抱き抱えられたのも知らずにいた。


夜半過ぎ、ハウルレンに起こされた。

「ここから出る。すぐに用意しろ!」

僕は部屋から出るのだと思って、寝ぼけ半分で着替えた。


そんな僕に、ハウルレンは細かい文様の入った短剣を、僕の腰のベルトに刺した。

「え?何で?」

どこからか、ネックレスを持って来て首にかけられる。


見ると、それは僕が父から貰ったネックレスと短剣だった。王家の紋章が付いてある。とっくに処分していると思っていた。

「お前の身分証明はこれしかないだろ?取って置いて良かった」


部屋から出ると、まだ静かだった。朝食の仕込みもまだの時間だ。みんな寝ているだろう。

ハウルレンは駆け出して僕は後を追いかけた。

普段行かない通路を通り、あるドアの前に出ると、鍵穴に鍵を刺す。


「ここは?」

「秘密の出口の一つ」

ドアが開くと、まだ暗い外だった。

「外だよ?」

「当たり前だ」

「僕も一緒に出ていいの?」

「だから連れて来た」

「他の仲間は?」


ハウルレンは僕の手を引いて外に出ると鍵を閉め、鍵穴を潰した。

「俺はお前だけいればいい。お前だけなら何とかなる」

「僕は売れるから?」

「馬鹿!そんなことしねえ!養うっつってるだろ!」

「ええ⁈」

呆然としている僕を引き寄せると口にキスしてきた。

口は初めてだ。


むしゃぶりつくような激しいキスをどうにか離して僕は首を振った。

「あなたは頭領でしょう?仲間を見捨てるの?」

「仲間じゃねえ。単なる寄せ集めだ。でもお前は好きだ、だから連れてく」

「ダメだよ、僕は王子だ。あちこちで探されてるし、ここを出たらすぐに見つかってしまうよ」

「そんなヘマするかよ。お前は一生俺のモンだ。行くぞ!」

「行きたくない!みんなを置いて行けない!」

ごねる僕を無理やり引っ張って行く。


しばらく行くと、荷物を下げた馬が木に繋いであり、突発的ではないことが窺える。


一緒に馬に乗せられて駆け出したが、すぐ歩みを止めた。

「ちいっ遅かったか!選りに選って今日かよ」

「え、まさか?」


山裾には多くの灯りが灯り、一斉に中腹のこちらへ目掛けて登ってくるのが見えた。

「皆に知らせないと!」

「もう遅い。あいつらもタダではやられない」

一部はこちらにもやって来た。

「馬は捨てる。行くぞ!」


馬から降ろされ、持てる荷物だけにして、静かに離れて行く。

僕の立場なら見つかった方が良いのだが、ハウルレンに捕まって欲しく無かった。


いざとなったら囮になろうかとも考えていた。

「お前だけ逃げんじゃねえぞ」

当たり前だが読まれていた。

「ハウルレンに捕まって欲しくない。別々に逃げよう。どっちにしても、僕は足手纏いだ」


「置いて行くくらいなら最初からそうしてる!」

ハウルレンは僕の手を取った。

「俺にはお前が必要なんだ、分かれよ!」

そのことを嬉しく思ってしまったが、連れられて行く先に、ついに追っ手が現れた。


「盗賊団の一味だな!抵抗するなら容赦しないぞ!」

僕は叫んだ。

「違います!僕は囚われていたシグネチャル王国の王子、ジョゼルカ・ミエル・シグネです!この人は僕を連れて逃げてくれたんです。お願いします!二人とも保護して下さい!」

「ジョゼルカ、てめえ」

ハウルレンの口を手で塞いだ。


「ジョゼルカ王子?まさか⁈」

「本当です、信じて下さい」

「金髪に青い目、そうなのか?」

「いや、もう一人は黒髪に赤い目、ヤヘルファン王太子の弟を名乗る不届者、頭領ハウルレンでは?」


「弟なんかじゃねえ!」ハウルレンは激昂して切り掛かり、一人を倒してしまった。4、5人が周りを取り囲む。

「無理だよ、投降しよう!」

「嫌だ!」


ハウルレンは瞬く間に兵士を切り伏せて行く。

僕は初めて見るハウルレンの闘いに圧倒された。

やはり盗賊団の頭領は伊達ではなく、ずば抜けた剣技と身のこなしだった。

「こっちだ!」ハウルレンは腕を掴んで走り出す。


ジョゼルカは必死で足を動かしたが、普段から走っているわけではないので何度も足がもつれ、ハウルレンに舌打ちされる。

「こっちが近道だが急だから…!」

ジョゼルカは転けそうになって、タタラを踏んだが、そこに地面は無かった。

「ジョゼルカ!!」


ゴロゴロとほぼ垂直の壁のような坂を転がりながら落ちて行く。

途中出ていた岩で頭を打ち、強烈な痛みを感じた後に、意識を失った。

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