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■最終話おまけ:そんなキミと、シェアリングエコノミー!(廻くんサイド)

『リサっちは、調べたい!』は、物語投稿サイト「TALES」にて10,000PVを突破致しました!

そこで10,000PV達成感謝企画として「最終話:そんなキミと、シェアリングエコノミー」を、廻くん側の視点で書いてみました。

リサっち側からの最終話と読み比べてみてくださいね。

感想など聞かせてもらえると嬉しいです!(紘野)





挿絵(By みてみん)



■最終話おまけ:そんなキミと、シェアリングエコノミー!(廻くんサイド)




 ファミレスに入る。早朝6時台はいつもガラガラだ。


 大手機械メーカー・ロックテムズに勤める調所(ずしょ)(めぐる)は、今日もいつものように出社前にやって来た。いつも座る7番席に向かう前に、ドリンクバーの飲料用給水口でグラスに水を注ぐ。


 いつも自由に動かない左足だが、今日はとりわけ重い。ひょこひょこと歩いていき、7番席に座る。何かオーダーしないといけないのだけれど、つい溜め息を吐いて考え込んでしまう。



めぐ『毎月この日になると心が締め付けられて、気が塞ぐ。僕は本当に、二人の分まで幸せな人生を送れているのだろうか。今日は元気に会社に行けるのだろうか』



 昨日、匿名SNSにそんな書き込みをしてしまった。


 今日は姉と妹の月命日だ。毎月この日になると、あの日の忌まわしい記憶が脳裏に甦り、胸に刺さる。




 桜舞う快晴だった、妹の大学の入学式のあの朝。


 高校一年生の時には偏差値三十台でどうしようもなかった妹が、父母が死去してから猛勉強を始め、最難関大学に合格した。


 既に社会人となっていた姉の柚芽乃(ゆめの)と、大学の先輩にもなってしまった兄の自分が、父母がわりに妹の入学式に出席した。


 そして入学式は終わり、妹の晴れ姿に感動してしまった(めぐる)は、ファミレスのパフェがとにかく好きな妹へ、


「がんばって結果を出したから、これからファミレスのパフェを一緒に全制覇していこう! さっそく今日からだ」


と約束してしまった。妹は大いに喜んだ。それを見て姉も微笑む。それが廻の見た、妹の姉の最後の笑顔だった。



 校門を出てファミレスに向かおうとした時。歩道に一台の自動車が猛スピードで突っ込んできた。廻の記憶は、そこで途切れた。


 気がつくと、病院のベッドに横たわっていた。全身は傷だらけで、特に左脚には激痛が走って動かせない。



 後でニュースを知った。高齢者が運転する自動車が猛スピードで歩道に突っ込み、入学式帰りの父兄を次々に跳ねて11人が重傷、6人が死亡する大事故となったと。その中の一人が、自分だ。


 運転者の70代男性は糖尿病だったそうで、運転中に低血糖による意識障害が起きたという。運転手は幸いにも命を取り留めたと盛んに報じられていたが、死者の中には新入生の妹とその姉の名もあった。大学生の廻は一瞬にして、家族全員を失った。廻は一晩で一生分泣いて、涙が枯れた。



 廻は親戚の家に引き取られた。リハビリの甲斐なく、左脚には障害が残った。自由に動かすことができず、引きずって歩くしかない。


 幸い、家庭教師のアルバイト先の家庭はどこも契約を継続してくれた。派遣センターを通さず個人契約だったため、増額をしてくれた家庭も多かった。学費や治療費の足しになってありがたかった。


 その後、廻はロックテムズ社に入社して一人暮らしを始めた。同じ課の夢野(ゆめの)先輩は、姉と同じ名前の苗字を持ち、しかも姉に雰囲気も似ていて、とても癒された。



 仕事を早く覚えたい、そして天国の姉や妹にもその頑張りを伝えたい、そんな気持ちから匿名でSNSを始め、仕事の話を緩やかに書いていった。アカウント名は「めぐ」。姉や妹が廻を呼んでいた呼称だ。


 仕事は夜遅くまで忙しかったが、妹と約束した「ファミレスのパフェメニューの全制覇」は朝にコツコツと挑戦していった。妹とシェアはできないわ、このファミレスは次々に新商品や季節限定商品を出してくるわで、なかなかコンプリートできない。でも、パフェを食べている間は、目の前の空席に妹が座って一緒に食べてくれているようで、楽しかった。


 でも、妹はこの世にはいないんだ。月命日が来るたびにそのことを思い知らされて、気が重くなっていた。




「あ、あの……!」


「……!?」



 突然女性の声で話しかけられて、廻はびっくりして顔を上げた。


 目の前には、リクルートスーツ姿で履歴書を抱えた「妹」が立っていた。恥ずかしげに顔を赤らめている彼女は、どう見ても「妹」だった。いや、顔も声もすごく似ているが、別人のようだ。


 彼女はオロオロしながらも、話を続けてきた。



「あの……、少々よろしいでしょうか」


「あ……、はい」


「私のこと……、分かりますか……?」


「えっと……、ごめんなさい、どこかでお会いしましたでしょうか」



 廻は、思い出せず申し訳なく思い、首をすくめた。


 彼女は一瞬肩を落としかけたが、何かが吹っ切れたようで、思い切って話を続けた。



「あの……、私、いま偶然隣りの席に座ってた大学生なんですが……、現在就職活動中で、この後にも面接があるんですけど、その……、大学の研究が忙しくて合同説明会とか行けてなくて、サークルとか入ってないから話を聞けるOBやOGもいなくて……、もしお時間あったら、お仕事のお話とか、ほんの少しでもいいので、聞かせてもらったりしてもいいでしょうか……」



 彼女の言葉に、廻は驚いてキョトンとしてしまう。つい、目の前の席を手で示し勧めた。



「出社時間まででもよかったら、いいですよ。どうぞ」


「あ……、ありがとうございます。失礼します」



 彼女はパッと笑顔になって、真正面のチェアに座った。ジーンと感動しているような表情だ。どう見ても、妹が生まれ変わってそこにいるように見えてしまう。



「えっと……」


 廻が妹だと錯覚してその名を呼びかけようとした時、彼女は何かを思い出したように言った。



「あ、あの、その前に一つ、いいでしょうか……」


「はい」


「その……、何かデザート、注文していいですか……」



 赤面しながら、呟くように彼女は言った。


 廻は一瞬唖然とするも、何か力が抜けた。妹ならばいちいち聞かず、遠慮せずにとっととQRコードで自分の好きなパフェを注文しているはずだ。見た目は妹そっくりだが、彼女は妹ではない。そう確信して、フッとにこやかな明るい笑顔になった。


 立てかけていたメニューブックを手に取って、嬉々として開いて見せる。



「いいですね、朝のデザート! 何にしますか」


「えっと……、じゃあ……、ミニアイスで……」



 恥ずかしそうに遠慮がちに言って、先ほど座っていたらしい隣りの8番席のQRコードに手を伸ばそうとする彼女を制して、廻は勧めた。



「ここのお店、パフェが美味しいんですよ。ストロベリーフロマージュパフェとか特に。ここは社会人の僕がおごりますから、パフェ食べませんか、パフェ」



 廻は何だか嬉しくなってきた。彼女も何だか嬉しそうだ。



「いいんですか?」


「もちろん。何でもいいですよ」


「じゃ、じゃあ、お勧めのストロベリーフロマージュパフェで……」


「僕は、マスカルポーネクリームのティラミスパフェにしようかな。あの、よかったらストロベリーフロマージュパフェ、妹もすごく大好きだったパフェで、僕もものすごく好きなので、少し分けてもらってもいいですか」


「は、はい、もちろんです! でも、私もマスカルポーネクリームのティラミスパフェ、字数多くてすごく気になってたので、ちょっと食べてみたいかも……」


「ぜひぜひ。美味しいんですよこれ。よかったらシェアしましょう」


「わー。これぞ、シェアリングエコノミーですね」


「はは……。ちょっと違うかも」


「えへへ……。あの、ドリンクバーでコーヒーとかはいかがですか。私も飲むので、何でも取ってきますから。私のほうがドリンクバー近いですし」


「本当ですか。すごく助かります。実は足が悪くて。ホットブレンド、お願いしてもいいですか」


「もちろんです!」



 彼女は立ち上がってドリンクバーへ向かった。その間に、彼女が先ほどまで座っていたらしい8番席に置いたままのドリンクバーの伝票に手を伸ばす。合算して支払おう。


 笑顔の彼女はホットブレンドコーヒーを2人分持ってきてくれた。この辺りの気遣いは、やはり妹と違う気がする。いや、妹が生きていた時は自分の脚は悪くなかった。妹も今生きていれば、こうしてくれるのかな。


 注文した大きなパフェも2つ来た。仕事の話をしながら、大学の話をしながら、会社でよく使うビジネス用語の話をしながら、たくさんたくさんいろんな話をしながら、パフェを楽しむ二人。



 彼女は自己紹介をしていなかったことを思い出して、履歴書を見せてくれた。廻は息を呑む。


 履歴書に書かれた彼女の名前は、白辺(しらべ)凛咲(リサ)。「リサっちって呼ばれてます」と自分を語る。


 これから彼女が受ける企業は、自分が勤務するロックテムズだという。自分は人事部でもなく一平社員に過ぎないから、面接や採用には関わらない。彼女はそれを十分承知で、絶対に実力で面接を突破して見せると意気込んでいる。がんばってと全力で応援した。



 彼女の履歴書は今の能力や将来のキャリアプランが理路整然と書かれているのに、最後の一行だけは具体性を欠く謎の文章だった。



『夢:父と兄と、パフェ食べる』



 聞くと、ロックテムズはお父さんが絶賛しお兄さんが志望していた会社らしい。それを考えるとつい、書いてしまったのだそうだ。



「父も兄も事故で亡くなったので、叶わぬ夢なんですけどねー。だからこうして人とパフェ分け合えるの、嬉しいんです」



 リサっちと名乗った彼女は、にっこりとしてパフェをすくっている。自分よりも年下の彼女は、家族の死を乗り越えて笑顔で前に進んでいる。


 そうだ。まるで妹のような、自分もパフェを分け合える人が、目の前に現れてくれたんだ。こんなに嬉しいことが、あるだろうか。


 廻は感極まる。枯れてた涙が、なぜかまたあふれそうだ。悲しい涙と嬉し涙は、別なのだろうか。



 彼女はよく朝にこのファミレスに来ているという。


「よかったら、これからもパフェ分け合いましょう。次からはちゃんと割り勘でいいですから。あ、でも次も、内定祝いでおごってもらえたりして」


と、彼女は妹のような微笑みを見せた。廻も笑って約束する。




(よかったね、めぐ(にい)ちゃん。パフェのメニューを全制覇するっていう理咲(リサ)っちとの約束、叶えてよね)



 どこからか、理咲(リサ)の声が聞こえてきた。


 廻は妹を想って、フッと笑う。いつの日か、同じ名前を持つ目の前の彼女と、妹との約束を実現できる日も来るのかな。



 日々記憶は薄れるけれど、今も鮮明に思い出せる。妹や姉とパフェを分け合ったあの日々のこと。今、まさにその同じファミレスで、僕はまた人とパフェを分け合えてる。またこの席から、新しい人生が広がるのかもしれない。きっと、そうなんだろう。



 これは僕の、僕たちの、大事な大事なパフェタイムなんだ。



(終)



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この番外編が読めたの嬉しすぎました。 泣いちゃいました。 ありがとうございました。
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