表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

第10話:先輩美人と寄り添い、リードナーチャリング?

挿絵(By みてみん)



(あああっ! 私のフェイバリットな7番席に、今朝もこの人座ってるよ……っ! むっきー)



 リサは昨日より数分早く来てみたけれど、やっぱり今朝も例のネイビースーツの若い爽やかビジネスマンが、リサの大好きな7番テーブルで、資料なんか広げて出勤前のお仕事の準備をしてる。


 早朝6時台のファミレスはガッラガラ。空席ばかりだからおひとり様でも広い席も使いたい放題。広い窓に面して明るい席ばかりの中、7番席は二方を壁に囲まれた角席なんだだけど、ノーパソ作業をするには集中できる推し席なのだ。しかもドリンクバーに激近い。


 いつも早起きして来て通学時間までノーパソに集中するリサの超ラブ席だったのに、最近はこの若い会社員のほうが先に来て座ってる。今日はマスカルポーネクリームのティラミスパフェを食べてる。そしていつものように、お冷だけ。



(ドリンクバーだけなら、別に他の席でもいいでしょっ。しかもそれ、私もメニュー見て気になってた字数多すぎパフェ。ってか、ここ何種類パフェあるんだよっ。天国か。そして、どうしてお冷だよ。マスカルポーネもクリームもティラミスもパフェもどれもお冷に合わない単語だろっ)



 リサは心の中で文句をつぶやきながら、あてつけで左隣りの8番席にドサリと座る。7番席は4人掛けテーブルだけど、隣の8番席は小さな2人掛けテーブル。それでもここに座るのは、無言の抗議。でも彼はお仕事に集中してて、こちらに全く気付いてない。モブキャラなのね私。


 でもまあ、7番席を使ってること以外は別にいい。一人でおとなしいしパフェの食べ方もちょい上品だし。スーツもネクタイも決まってる。男のスーツは良い。いつも作業着姿だったガサツなお父さんも、いつもパーカー姿だったオタクなお兄ちゃんも、二人とも大学の入学式のスーツ姿は決まってたな。お兄ちゃんはお父さんの一張羅のネイビーのツーピーススーツとカブるのはイヤだって言って、選んだのがネイビーのスリーピーススーツ。いや、色カブりはいいのかよ。


 私もお兄ちゃんの入学式行きたかったけど、高校の授業で行けなくて。お父さんは初めて大学というものに行くからと髪もセットしてて。お兄ちゃん、私のプレゼントしたネクタイつけてくれてて。二人ともキマってた。まあ、あれが二人の最後のスーツ姿だったけどさ。



 モーニングの玉子雑炊セットをQRコードで注文して、ドリンクバーに行って、今朝はアイスピーチティー。自分で冷凍庫から氷をプラスコップですくって入れるんだけど、たまに冷凍庫の蓋を開けっぱなしにするオッサンオバサンがいるのは気になる。なぜ閉めるという1秒の動作ができないんだ。グラスで直接氷をすくってる阿呆もいるがやめてほしい。


 アイスピーチティーを入れてテーブル席に戻り、飲んでみて予想以上に甘いなコレと思いながらも、リサは隣の7番席の彼をチラリと見る。



(ふっふっふ。キミはその7番席を天上の秘密基地と思っているようだけど、キミの秘密はすでに「リサーチリサっち」の私には余裕で暴かれているのだよ。キミの名前がカイくんってことも、「めぐ」というネカマネームでSNSをやってるってこともね)



 リサは心の中で優越感満載の一人語りをしながら、ノーパソの画面に目を移す。2人席で玉子雑炊セットのトレイも来たらテーブルは狭いが、トラックボールを使っているのでマウスほどはスペースを使わない。


 リサは気になったら何でも調べちゃう性格。特定班級のリサーチ力で、有名なインフルエンサーの自撮りの撮影場所も、希少な文献の蔵書場所も突き止めちゃう。だからと言って晒したり拡散したりするわけでもなく、ただ情報に行き着いて新しいことを知ることが愉悦なだけ。


 7番席の彼の本名が「調所 廻」だということも判明済み。リサの苗字は「白辺」と書いて「しらべ」。リサという下の名前は、リサを産んですぐに亡くなったらしいお母さんがノートに残してくれていた財産だ。凛と咲く花のように育ってほしいって願って「凛咲」。最近は漢字が面倒でカタカナで「リサ」って書いちゃうからお母さんにはちょっと申し訳ないけど、凛と咲けてる人生なのかな。どうだろ。


 リサという名前だから、幼い頃からのあだ名は「リサーチリサっち」。そんな最強リサーチャーの名を持つリサは、「シラベドコロ カイ」の名がどうも気になる。苗字は本当は「ずしょ」と読むらしいが、ハスムさんという苗字の女性と結婚して「ハスム カイ」という名前にでもなるといい。「お隣りに住んでるのにハスムカイさんですね」「ハスムカイさんなのに真正面に座るのね」とか位置関係にいちいちツッコまれることだろう。



 本名はカイくんなのに、SNSのハンドルネームは「めぐ」。ネカマをかましてる彼のSNSには「Yノ先輩」がよく登場するが、ずっと夢野先輩だと思っていたのに、実は違っていたことが先ほど判明した。「リサーチリサっち」ともあろう者がニセ情報に惑わされていた、リサは肩を落とす。


 ネカマめぐっぺの投稿にアップされた、パンツスーツ姿のYノ先輩の写真。顔は写ってないが、スタイル抜群。よく見ると、首から掛けた胸元のIDカードホルダー、苗字が夢野じゃない。下の名前が「柚芽乃」だった。ユメノは下の名前だったのかっ。元夢野先輩、なんつーかわいい名前だよ。それよりめぐっぺよ。キミは人の個人情報を平気で晒すような写真をアップするなよ。ストーカー生まれたらどうすんだよ、キミ以外の。


 7番席のカイくんが、手元のPCに何か入力を始めた。またこのSNSに何か投稿してるんだな。チェックしてみる。どれどれ。



めぐ『Yノ先輩と一緒に、リードナーチャリングを強化中。繰り返し繰り返しリードをナーチャリングすることで、より寄り添うことができ、より良い関係を築くことができる』



 キタ━━(゚∀゚)━━!!。今日もキモキモネカマのめぐっぺが、フォロワー数たった27人のSNSに投稿したものを、リサーチリサっちが真っ先に読んでいる。なになに。



(先輩とリードナーチャリングを強化中? リードナーチャリングって何だろ? より良い関係、ってまたよからぬエロい話題じゃないでしょうね。

 思考とは分解だ。まずリード・ナーチャ・リングと分解して考えよう。

 リードって言ったら、犬を首輪を引く綱? サックスとかの口のところにあるやつ? 新聞の要約の部分? いろいろ意味がありすぎる。

 運動会とかでも「白組が10点リードしてる」とか言ってたな。それを言い出すとスポーツにはいろいろあるぞ。リレーでバトン受け取る時に走るのもリードだし、野球で「リーリー」とか言ってベースから離れるのもリードだし、カーリングの1投目の人もリードだし、クレー射撃でも移動先に撃つことをリードって言ってたような。スポーツ用語なのかな。

 でも単純に、デートとか社交ダンスとかでも「男性が女性をリードする」とか言うよね。おいおい、やっぱりそっち? それを考えると、首輪つけて綱を引くとか、何ならサックスも怪しく感じてきちゃうな……。

 リングはまあ単純に「輪っか」だとして、問題はナーチャっぽい。ナーチャ……、確かファミレスのメニューの中にあったような。幸いここはファミレス。メニューを見てみよう。えーと、えーと、違った、チーズクルチャだった。チャしか合ってない。

 そうだ、受験英語でやった強引な語呂合わせ術だ。ナーチャーは「不倫の子でもなぁ、ちゃんと養育して」だから、養育だったよね。ナーチャーは養育で、その現在進行形なんだ。ということはリングの「輪っか」関係ないじゃん。

 いや、首にリングをつけて、そこからリードを引っ張って、ナーチャーする。ぅおおおおい! どんなプレイだよ。首輪を装着してリードで引っ張って養育するって、どんな四つん這いプレイだよ。養育ってか調教でしょうよ。「繰り返し繰り返し」ってどんだけ続けてんだよっ。ついにそんな世界にまで……。

 夢野先輩もとい柚芽乃先輩にお姉様プレイやらせすぎでしょ。どこの女王様だよ。「より寄り添うことができ、より良い関係を築くことができる」ってM側のキミが思ってるだけで、お姉様側は引いてるわ。そんなキモめぐっぺは、大きなティラミスパフェ頼んでも小さいティースプーンしかもらえなくて全然パフェグラスの下まで届かないの刑に処されるがよいよ)



 リサの妄想洞察が止まらない。


 リサの長所は、気になったことは何でもすぐさま調べる行動力。でも、情報に辿り着いた時点でなぜか妄想が暴走して、そこから調べ損ねちゃうのがリサの残念なところ。いつも妄想ばかりで時間が来ちゃう、


 今朝もやっぱり、妄想オンリーで通学時間がやってきた。冷めちゃった温い玉子雑炊セットを白い蓮華でお口に流し込んで、お会計に立つ。飲み放題のドリンクバーなのに、アイスピーチティー1杯しか飲めてない。もっと鳳凰水仙烏龍茶とか飲みたかった。



 彼女は帰宅後に調べ直すまで、結局辿り着いていなかった。リードナーチャリングとは見込み客にアプローチして購買客へと育成していくことを表すビジネス用語だと言うことに。調教用語じゃないのだ。


 そして彼女はいまだに分かっていなかった。「めぐ」というハンドルネームを名乗っている「シラベドコロ カイ」くんの本名が「調所 廻」、「ずしょ めぐる」であるということを……。




■リサが帰宅後に学んだビジネス用語


「リードナーチャリング」


 見込み顧客リードに対して適切なアプローチをしていき、購買や受注に繋げていけるように育成していくこと。




<第11話へ続く>



※リサっちを気に入ってくださったら、高評価をよろしくお願いします! (きっとリサが喜びます)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ