表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

ここが、私の部屋

 マリアさんに一通り、扉の説明を受けたあと、私は床の中央に刻まれた円形の模様の中へ入るように促された。


「もう遅い時間だし、疲れているでしょう?

 この円の中に入るとね、指輪に反応して、あなたに割り当てられた部屋に転移するようになっているの」


「訓練は明後日からだから、今日はたっぷり寝て、明日はゆっくり休んでちょうだいね~」


 そう言って微笑むマリアさんの顔が、やけに眩しく見えた。


 ――たしかに、疲れていた。


 天候は悪く、ぬかるんだ地面に足を取られながら、私はひたすら歩き続けた。


 保存用にと持ち歩いていた干し果実も、もう残りわずか。


 ここはドーム内とはいえ、脅威がないわけじゃない。


 野生の動物だっているし、私は警戒しながら、半刻ほど木の上で仮眠を取ったりしていた。


 あれから、一日半。


 水も食料も尽きかけた頃――


 偶然、近くの集落へと行商に向かう馬車に出会った。


 でも、そこでのやり取りは決して優しいものじゃなかった。


「別にあっしはここで売らなくても困りやしませんし。値下げはしません。さあ行った行った」


 そう言われ、本来80ミリムで売られているはずのものを300ミリムで買う羽目に。


 渇きには勝てなかった。


 ……残金は、わずか20ミリム。


「そうですね……。マリアさん、いろいろと説明してくださってありがとうございました」


 私は深々と頭を下げる。


「いいのよ~。それじゃあ、おやすみなさい、レイナちゃん」


 マリアさんの姿が、再び薄赤い光に包まれ――そして、消えた。


 私は、そっと円形の中心に足を踏み入れる。


 すると、その瞬間――

 身体全体が薄赤い光に包まれた。


 光に目が眩んで、思わず一瞬だけ目を閉じる。


 そして――開けた先にあったのは、目の前にあるたった一つの扉と、

 その背後や左右を囲む堅牢な壁だった。


 私はそっと手を伸ばして、壁に触れてみる。


 ひんやりとしていて、動かない。

 押しても、叩いても、びくともしない。


 足元には、小さな円形の模様が刻まれているだけ。


「……これが、転移」


 私は左手の親指に装着された指輪を見つめながら、静かにそう呟いた。


 このままずっと扉の前に立っているわけにもいかない。


 私は意を決して、扉に手をかけた。


 カチャッ。


 扉を開けた先には、またしても一つの扉と、大人が二人並べる程度の空間が広がっていた。


 そしてその足元には……やはり、円形の模様が描かれている。


 けれど、その模様はさっき見たものとは微妙に形状が異なるように見えた。


 私は部屋の中に足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉めた。


 その瞬間――


 足元から、ふわりと身体全体を撫でるような風が吹き抜けた。


「……?」


 思わず足元を見下ろす。


 先ほどまでぬかるんだ土にまみれていたブーツが、まるで新品のように綺麗な状態に戻っていたのだ。


「あんなに……汚れてたのに」


 間抜けな声が漏れたが、答える者はいない。


 ここに来てから、不思議なことばかりが起こっている。


 マリアさんは、薄赤い光に包まれて消えたり現れたりしたし、あの模様の中に入ったら、瞬時に別の場所へと転移した。


 汚れていた装備品も、今のように自動で元の姿に戻る。


(……一体どうなってるの?)


 昔、婆様がこんなことを言っていた。


「冒険者養成所と、ドーム内最大の町リンデベルグには、赤い輝石を用いた最新技術が施されているんだよ」


 ……まさか、ここまでとは思ってもみなかった。


 私は再び、奥の扉へと手を伸ばす。


 ギィ……と音を立てて開いた先の部屋は、整然とした空間だった。


 右手には、見たことのない形の流し台と調理台。


 その隣には、大きな縦長の箱。


 正面には机と椅子がセットされており、

 その奥には、中身の入っていない本棚らしき棚が立っている。


 左手側にある二つの扉を開けてみると、

 片方はトイレ、もう一方は寝室だった。


 ……ここが、私の部屋。


 私の――新しい生活が始まる場所だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ