冒険者の証と、消えた受付嬢
ピーッ、ピーッ、ピーー……カチャン。
機械の小さな音とともに、長方形の箱から赤い指輪がすっと出てきた。
「やっとできたわ~! これが“冒険者の証”よ」
マリアさんがにこにこと笑いながら、私にそれを見せる。
「この指輪はね、赤い輝石でできていて、大きさが自由に変えられるの。
だから、どの指にもちゃんと合うのよ~。レイナちゃんも、試してみて」
「はい」
私は迷わず、その赤い指輪を左手の親指にすっとはめてみた。
冷たくて、でもどこかあたたかい――そんな不思議な感触。
「とっても似合ってるわ~
この指輪にはね、研究者さまたちが開発した最新技術がたっぷり入ってるのよ~」
そう言いながら、マリアさんは楽しそうに話していたけれど、ふっと表情を変える。
「……って、口で説明すると長くなっちゃうから、マニュアルを渡すわね~」
そう言ってカウンター横の引き出しを開けた、そのとき――
マリアさんの茶色い目がぱちくりと見開かれた。
動きがぴたりと止まる。
まるで、予想していなかったものを見たように。
「あれっ?……ないわ~。昨日整理したときは、たしかにここに入ってたのに~」
目線を右上に向けて、ぶつぶつと記憶を辿る様につぶやきながら、マリアさんは勢いよく他の引き出しも次々に開けていく。
ガラガラ、バサッ、ガタン――
その動きは、どこか慌ただしくて、ちょっと焦っているようにも見えた。
……でも、どれだけ探しても、マニュアルは見つからないらしい。
「やっぱり、どこにもないわ~。
ごめんね、レイナちゃん。ちょっと研究者さまたちのところに行って聞いてくるから」
「……分かりました。ここで待ってますね」
そう答えると、マリアさんは優しく頷いた。
「すぐに戻ってくるから~」
そう言ったそのとき、彼女の体がふわっと淡い赤い光に包まれた。
そして――次の瞬間、マリアさんの姿はふいに、空気の中へと溶けるように消えていった。
まるで、そこに最初から居なかったかのように。