死ぬ覚悟、できてますか?
「私の名前は、レイナって言います。マリアさん、お世話になります」
そう名乗ると、マリアさんはふんわりした笑顔のまま、やさしくうなずいた。
「そう、レイナちゃんって言うのね~。はい、これが用紙よ~」
そう言って、カウンター越しに一枚の紙を手渡してくれる。
「では、今から入所の手続きと、この養成所についての説明をしましょうね~」
「……はい。お願いします」
私は、マリアさんの目をまっすぐに見つめて返事をした。
マリアさんの口もとが、ゆっくりと動こうとした、そのとき。
私はその言葉を、息をつめるような気持ちで待っていた。
――時間にすれば、きっとほんの数秒。
けれど私には、それが永遠のように長く感じられた。
「レイナちゃん。あなたは死ぬ覚悟、できてますか?」
笑顔のまま、マリアさんはそう言った。
「えっ……!? あっ、はい。覚悟は、できてます」
思わず声がうわずりそうになったけれど、マリアさんの言葉の意味をすぐに理解して、私は落ちついた声でそう答えた。
「そう……」
そのひとことのあと、マリアさんの表情がほんの一瞬、微かにかげった様に見えた。
でもすぐに、いつものふんわりとした笑顔が戻っていた。
だから私は、その理由を聞けなかった。
「では、入所の手続きを始めましょうね~」
「まず、1番目に書く“名前”のところには、これから名のる予定の名前を書いてね。本名でもいいし、好きな名前でもかまわないわ~」
「それと、2番目は――」
マリアさんの声を聞きながら、私は手渡された用紙に、順番に記入を始めていった。