手のひらの薬草、胸の奥の記憶
私は、痛む頭を押さえながら、草原の中へと足を踏み出した。
指定された採取ポイントは、ドームを出てすぐの、なだらかな起伏のある草原地帯。遠くに森の影が見えるが、ここはまだ比較的安全なエリアだと、ギルドの人も言っていた。
風は心地よく、草の海がさらさらと揺れている。けれどその穏やかさとは裏腹に、私は足元に気を配りながら、慎重に進んでいく。
クレハ草……細長い葉、ほのかに甘い香り……
薬草については、婆様にたくさん教わった。採り方、見分け方、使い方まで。でも……このクレハ草という名前だけは、記憶にない。
きっと、あの山小屋の周りには自生してなかったんだ……
そんなことを考えながら、しゃがんで草の葉をそっと指先で撫でる。
似たような草はたくさんあるけれど、確かに甘い香りがするものがあった。
「あった。これだ」
少し息を弾ませながら、私は慎重に束ねていく。ようやく三束目を集め終えたとき……
草むらが、かさりと音を立てた。
緊張が背筋を駆け上がる。
次の瞬間、音の方からぴょんと飛び出してきたのは、丸っこい体に灰色の毛、赤い目がぎらりと光るスモッグラットだ。
出た……!
素早く腰の短剣を抜く。弓は得意だけれど、至近距離では扱えない。
(落ち着いて……ギルドでも言ってた。狙うのは……首の後ろ!)
スモッグラットが低く唸るような音を発しながら、ぐんと跳びかかってくる。
私は身を低くしてかわし、横へと転がった。足に少し泥が跳ねる。
追撃してくるスモッグラット。その動きは予想以上に素早い。
「はっ!」
間合いに入った瞬間、私は一気に踏み込んで、短剣を振り抜く。
赤い輝石が埋め込まれた刃が、スモッグラットの首の後ろに届いた瞬間。
キィィィ……という金属が擦れるような音と共に、モンスターの身体が霧のように崩れていった。
残ったのは、小さな赤い輝石の欠片と、毛皮のような素材。
「……ふぅっ」
大きく息を吐く。心臓がまだバクバクしている。
訓練での模擬戦とは全然違う……
でも、倒せた。ちゃんと、できた。
私は戦利品を指輪に回収し、もう一度辺りを見回す。
すると、少し先に、どこか懐かしい匂いが漂った。
これは……
私は思わず歩を進め、しゃがみ込む。そこには、幼い頃に婆様から習った薬草が自生していた。
「……これ、スイセ花……!」
懐かしい匂いと共に、婆様が薬草茶を淹れてくれた日のことが蘇る。
クレハ草と一緒に摘んでおけば、いざというときに役に立つはず。
私はそっとその花も一緒に摘み、指輪にしまい込んだ。
婆様、今でも覚えてるよ。教えてくれたこと、ちゃんと役に立ってる
そう心の中で呟きながら、私は再びクレハ草の採取へと戻っていった。




