一日500リルの部屋と230リルの報酬
冒険者ギルドの前に転移した私は、ひとつ深呼吸をしてから、木製の重たい扉に手をかけた。
中は思っていたよりも広く、壁際には依頼票がずらりと並び、奥にはいくつものカウンターが設けられている。カウンターの前には冒険者らしき人々が立ち、報告をしたり、依頼の相談をしたりしていた。
緊張するけど、やるしかない
私はそっと列に並び、順番が来たところでカウンターの女性職員に声をかけた。
「換金をお願いしたいんですけど……」
「はーい、お預かりしますね」
やわらかな笑みを浮かべた女性は、私が指輪から取り出した素材をひとつひとつ丁寧に確認していく。
途中で、彼女の手がふと止まった。
「……あら、これはラッキーですね」
「え?」
思わず聞き返すと、彼女は赤ゼリーの中でも緑の核を持つ素材を手に取り、軽く頷いた。
「これ、今朝出たばかりの依頼にぴったりなんです。まだ誰も受けていないので、もしよければこの場で依頼を受注・達成というかたちにできますよ。報酬も依頼金額でお渡しできます」
「そんなこと、できるんですか……?」
「ええ、依頼票の条件を満たしていれば問題ありません。署名だけお願いできますか?」
私は差し出された書類に署名を済ませる。
すると、彼女は笑って小さな袋を差し出してきた。
「では、こちらが報酬です。230リルになります。おめでとうございます」
「……ありがとうございます!」
「運がいいですね。最初の一歩としては、上々ですよ」
その言葉に、私は思わず笑みを返した。
換金を終えて、報酬袋をそっと握りしめて指輪に収納する。
《現在の所持金:20リル → 20+230=250リル》
……230リル
手の中の重みは、思っていたよりも頼りない。
今日から発生する部屋の家賃は、一日500リル。
全然、足りない……!
目の前が少しぐらりとした気がした。
訓練生の間は無料だった養成所の部屋も、今日からは正式な冒険者として扱われる。
つまり、自立して稼がなければ、住む場所すら失うということ。
このままじゃ、今日の分すら……
焦りが胸の奥からじわじわと広がる。
深呼吸でどうにか落ち着こうとして、私は一歩、カウンターから離れた。
────
ふと、視線が掲示板へ向く。
そこには、ぎっしりと依頼票が貼り出されていた。
討伐、採取、護衛……その内容も、難易度も、報酬も様々だ。
……見るだけ、見ておこう
そう思って歩み寄った足取りには、少しだけ決意が混じっていた。
家賃すら払えない今、後戻りはできない。
初心者でも受けられる、簡単で、報酬のいい依頼……
私は掲示板の前で、必死に目を走らせはじめた。
……その中に、一枚だけ目を奪われる依頼票があった。
文字の読みやすさも、内容の明快さも、報酬の額も、私のような初心者を想定したものに見える。
これなら……私にもできる!
胸の奥に小さな光が灯るのを感じながら、私はそっとその依頼票に手を伸ばした。




