構えただけで、世界が変わる
装備の扱い方を確認したあと、教官の指示で、私たちは屋外訓練場へと移動した。
日差しは柔らかく、石畳と芝の混じる広場には、目印となる木製の人形や、赤い線で囲われた円がいくつも設置されている。
空気の澄んだこの場所で、私たちは初めて「動く」ことを教えられるのだ。
「まずは、構え。どの武器でも、基本の姿勢がある」
教官オルドは、細身のロッドを構えながら一つ一つの動きを実演してみせた。
軽やかな動作なのに、一瞬で空気が張りつめるような迫力があった。
「構えに慣れろ。動きの軸はそこから始まる」
私たちは武器を手に、それぞれの立ち位置に広がっていく。
私は弓を握り、教官の言う通り、肩幅に足を開き、上体を少しひねる。
思った以上に不安定で、足元がふらついた。
「……ここに弦がくる。矢は……こう、かな」
試行錯誤しながら構えを真似るが、全然しっくりこない。
それでも何度もやり直して、少しずつ“形”だけは整ってきた気がした。
「んっ……っと、よし、今度こそ!」
その時――
「よっしゃー! 構えた! 俺、これ完璧じゃね!?」
隣でポーズをキメたカイルが、どや顔でこちらを向いてきた。
……が、足はそろいすぎてバランスが悪く、剣の重みで傾き、ぐらりと揺れた。
「わっ、わっ、わっ……あぶなっ!?」
次の瞬間、バランスを崩して盛大に尻もちをつく。
「おい貴様、そんなので前線に出たら即死だぞ」
教官の呆れ声が飛び、エルマーは鼻で笑うような息を漏らした。
「これが完璧ね……」
「うっせぇ、こっちは実戦向きなんだよ……!」
それでも立ち上がるカイルの顔には、悔しさと、それ以上のやる気がにじんでいた。
ふと隣を見れば、ボルドが静かに盾を構え、呼吸を整えている。
大きな体を支えるように重心を低くし、まるで盾に魂を乗せているかのようだった。
「……さすがですね、ボルドさん」
「いやいや、年を取るとこういう地味な姿勢が一番落ち着くんだよ」
そう笑った彼は、ほんの少しだけ誇らしげだった。




