実技訓練、はじまる
訓練四日目。
この日から、いよいよ実技が始まる。
私は早めに教室へ着き、装備が積まれた棚の前で足を止めた。
そこには大小さまざまな武器、防具、そして補助道具らしきものが整然と並んでいる。
どれが自分に合うのか、まるで見当がつかない。
「おはよう、レイナさん」
柔らかい声が背後から聞こえ、振り返るとボルドがにこやかに立っていた。
「おはようございます。なんだか……緊張しますね」
「はは、私はね、動けるかどうかの方が心配だよ。筋肉痛にならなきゃいいが」
そんな他愛もない会話をしていると、教官が現れた。オルド教官は相変わらず無駄のない動きで教室前に立ち、静かに告げた。
「今日から実技だ。まずは装備の着脱を覚え、そのあと基礎動作の確認に入る」
言葉の合間に、周囲の空気がピリリと引き締まっていく。
「装備は好きなものを選べ。すべて訓練用だから、万が一の事故は起きん。
……まあ、何かやらかしても軽傷で済む程度だな」
誰かが苦笑いし、教室にわずかな緊張が和らいだ。
「では、選べ」
合図とともに、皆が棚へと向かっていく。
私は短弓と小さなナイフを手に取った。重すぎず、扱いやすそうで、何より距離を取れるのがいい。使えるかはともかく、気持ちの面で安心できた。
「お、レイナさん、それ弓? 俺はやっぱコレかな!」
大声とともに現れたのは、言わずと知れたカイル・ブランド。彼は誇らしげに長剣を抜こうとして……
「ふんっ!」
勢いよく腰をひねり、鞘ごとぶん投げた。
「……って、うおわっ!? え、何で!?」
剣も鞘も空中を舞い、危うく教官の足元へ着地しそうになる。
「貴様……鞘ごと投げるバカがあるか。落ち着け」
教官の冷ややかな声に、カイルは慌てて謝った。
「す、すみません!クセで! クセっていうか、や、力が入りすぎて……!」
私は思わず笑いをこらえきれず、そっと口元を押さえた。
エルマーもふいっと視線をそらしながら、かすかに肩を揺らしている。
「……フフ、カイルさんらしいですね」
「う、うう……初っ端からこれかよ……」
そんなこんなで始まった実技初日。
ぎこちないながらも、皆がそれぞれの武器に慣れようと悪戦苦闘していた。
私もまた、弓を握りしめながら、矢をつがえる手の震えを隠そうとしていた。
でも、不思議と怖くはなかった。
この場所でなら、失敗してもいい。
そう思えるほどに、私はもう、少しだけ前に進んでいた。




