やさしさは、甘くて温かい
座学二日目。
午前の講義も折り返し地点に差しかかり、教官の「10分休憩」との声に、教室内がわずかにざわめいた。
私はノートに書き留めた内容を見返しながら、机に突っ伏すようにして小さく息をついた。
(……頭使いすぎて、甘いものが食べたいなあ)
そんなことを思っていた、ちょうどそのとき。
「レイナちゃん、ちょっといいかい?」
声をかけてきたのは、昨日自己紹介で家族のためにもうひと頑張りと言っていた、癒し系の中年男性、ボルドさんだった。
「はい?」
顔を上げると、ボルドさんが、やや恥ずかしそうに微笑んでいる。
「よかったら、これ。昨日の夜、余った材料で作ってみたんだ」
そう言って彼が差し出したのは、小さな紙包み。そっと開いてみると、中にはほんのり甘い香りのする、二口サイズの焼き菓子が三つ並んでいた。
「え……手作り、ですか?」
「うん、まあ、家族に作ってたのと同じやつだけど。冷えてても、まだ柔らかいと思うよ」
ボルドさんの手元には、他にもいくつか小さな包みがある。
どうやら、私だけに持ってきたわけではなく、他の訓練生の分も用意してきたようだった。
「いいんですか……?」
「もちろん。訓練の前にちょっとでも元気が出たらって思ってね」
私は思わず、胸がほんのり温かくなるのを感じた。
「ありがとうございます。いただきます」
一口かじると、素朴だけど優しい味が、口いっぱいに広がった。
ほろっと崩れる生地に、ほんのりとした蜂蜜の甘さが残る。
「……すごく、美味しいです」
私が素直にそう言うと、ボルドさんは目を細めて嬉しそうに笑った。
「そりゃよかった。……君、痩せてるから、ちゃんと食べなきゃね」
「……そ、そうですか?」
思わず照れくさくなって目をそらす。けれど、どこか心が軽くなっていた。
カイルは前の席でぐうぐう眠っているし、エルマーはノートに何かを書き込むのに夢中だ。
そんな中、ボルドさんのさりげない気遣いは、思っていた以上に、私の心にしみた。
休憩時間が終わる頃、私は小さくつぶやいた。
「……こういうのって、すごく、嬉しいんですね」
まだ始まったばかりの養成所で、はじめて感じた仲間のあたたかさ。
それは、甘いお菓子とともに、そっと胸の奥に残った。




