表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/22

やさしさは、甘くて温かい

 座学二日目。


 午前の講義も折り返し地点に差しかかり、教官の「10分休憩」との声に、教室内がわずかにざわめいた。


 私はノートに書き留めた内容を見返しながら、机に突っ伏すようにして小さく息をついた。


(……頭使いすぎて、甘いものが食べたいなあ)


 そんなことを思っていた、ちょうどそのとき。


「レイナちゃん、ちょっといいかい?」


 声をかけてきたのは、昨日自己紹介で家族のためにもうひと頑張りと言っていた、癒し系の中年男性、ボルドさんだった。


「はい?」


 顔を上げると、ボルドさんが、やや恥ずかしそうに微笑んでいる。


「よかったら、これ。昨日の夜、余った材料で作ってみたんだ」


 そう言って彼が差し出したのは、小さな紙包み。そっと開いてみると、中にはほんのり甘い香りのする、二口サイズの焼き菓子が三つ並んでいた。


「え……手作り、ですか?」


「うん、まあ、家族に作ってたのと同じやつだけど。冷えてても、まだ柔らかいと思うよ」


 ボルドさんの手元には、他にもいくつか小さな包みがある。


 どうやら、私だけに持ってきたわけではなく、他の訓練生の分も用意してきたようだった。


「いいんですか……?」


「もちろん。訓練の前にちょっとでも元気が出たらって思ってね」


 私は思わず、胸がほんのり温かくなるのを感じた。


「ありがとうございます。いただきます」


 一口かじると、素朴だけど優しい味が、口いっぱいに広がった。


 ほろっと崩れる生地に、ほんのりとした蜂蜜の甘さが残る。


「……すごく、美味しいです」


 私が素直にそう言うと、ボルドさんは目を細めて嬉しそうに笑った。


「そりゃよかった。……君、痩せてるから、ちゃんと食べなきゃね」


「……そ、そうですか?」


 思わず照れくさくなって目をそらす。けれど、どこか心が軽くなっていた。


 カイルは前の席でぐうぐう眠っているし、エルマーはノートに何かを書き込むのに夢中だ。


 そんな中、ボルドさんのさりげない気遣いは、思っていた以上に、私の心にしみた。


 休憩時間が終わる頃、私は小さくつぶやいた。


「……こういうのって、すごく、嬉しいんですね」


 まだ始まったばかりの養成所で、はじめて感じた仲間のあたたかさ。


 それは、甘いお菓子とともに、そっと胸の奥に残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ