ふかふかタオルと、はじめての朝ごはん
「ヘルプさん、何度もすみません。タオルってありますか?」
何度も呼び出してしまって申し訳ないと思いつつ、私は正直に質問した。
すぐに、落ち着いた声が返ってくる。
「これが私の仕事です。無料と有料のものがありますが、どちらにしますか?」
その言葉に、私はふと自分の残金を思い出す。
(……残金、たしか20ミリム)
いくらかわからない有料には怖くて手が出せない。
それに、無料で提供してくれるなら、それで十分だ。
「じゃあ、無料でお願いできますか?」
「かしこまりました」
次の瞬間――
目の前の空間に、淡い赤い光がふわりと舞い始め、その中から一枚の白い布がゆっくりと現れた。
私はそっと手を伸ばしてそれを受け取る。
光がすっと消えると、手の中にふわふわと柔らかい白地のバスタオルが残されていた。
(……これ、無料?)
思わず手のひらでタオルを撫でる。
柔らかくて、まるで上等な毛布みたいだった。
すると、再び指輪から音声が響く。
「無料タオルの配布を完了しました。
無料タオル配布回数残り6回。
有料タオルはEランクの場合、1回ごとに1ミリムとなります。
決済方法は、指輪による自動引き落としです。
ヘルプ機能を終了します」
(……あと6回も、こんなタオルが使えるの?)
私は内心で軽く感動しながら、指輪に向かってそっとお辞儀をした。
「ありがとうございます」
もったいないなと思いつつも、顔をそっと拭く。
ふかふかの感触に、つい目を細めてしまう。
顔を拭き終えると、私はふうっと息をついてタオルを見つめた。
キラキラと現れたその布は、まるで夢の中から出てきたようで、顔を拭くだけでなく、包まれたくなるくらいのやさしさがあった。
(でも……使ったあと、どうするんだろう?)
洗濯の仕方もわからない。
再び「ヘルプさん……」と口を開きかけて、さすがに三度目は気が引けて、私は小さく首を振った。
部屋の隅に置かれていた小さなカゴを見つけて、そっとタオルを畳んでそこに入れる。
たぶん、あれは洗濯用のカゴ……だよね?
「うん、きっとそう……たぶん」
まだまだ分からないことだらけの新生活。
だけど、少しずつ慣れていくしかないのだと、自分に言い聞かせた。
時計はないけれど、たぶんもう朝食の時間だろう。
ぐうぅ……。
(……お腹すいた)
思わず鳴った音に、私は小さく笑った。
「……食堂、行ってみようかな」
明日からはいよいよ訓練が始まる。
今日くらいは、しっかり身体を休めて、食べられるときにちゃんと食べておこう。
私はマニュアルで見た地図を思い出しながら、部屋の扉に手をかける。
一人きりの静かな部屋から、冒険者養成所の朝へと踏み出す。
そんな、小さな一歩を私は踏み出したのだった。




