便利すぎて、ついていけない朝
指先で「ヘルプ」に触れると、目の前の薄赤色の板にびっしりと文字が表示された。
「……はあ」
思わずため息が出る。
文字自体は、婆様に教わって読めるようになっている。
でも、内容が難しすぎた。
意味のわからない単語や専門用語の嵐。
目で追っているはずなのに、内容が頭に入ってこない。
表示ページ数も多くて、これを全部読むなんて考えただけで頭がくらくらした。
「顔を洗いたいだけなんだけどなあ……」
状況としては、ヘルプにヘルプが必要なレベル。
苦笑いしながら、何かヒントになるものがないかと画面の隅々まで目を走らせていくと……
切替
○くわしく ☓かんたん
(……これだ!)
私は迷わず「かんたん」に指を伸ばした。
すると、すべての文字が消えた直後……
「音声ヘルプへと変更されました。」
「っ!?」
突然、指輪から聞こえた女性の声に驚いて、思わず体が跳ねる。
「だ、だれ!?」
咄嗟に口から飛び出した声に、平坦な音声が返ってくる。
「私は音声ヘルプAIです。音声でお答えしますので、質問をしてください」
あまりの未来感に、思考が止まった。
「ご質問はありませんか。レイナさん」
!
名前を呼ばれた瞬間、止まっていた思考が一気に戻る。
「あ、えっと……顔を洗いたいのですが、水の出し方がわからなくて困ってます」
どこか挙動不審な自分を意識しつつも、相手は淡々とした声で返してくる。
「蛇口の前へと移動してください」
「蛇口の水の出る部分の下に手を出してください。自動的に水が出ます」
(自動で……?)
確かに、何もついてない流し台だった。
でも、まさか本当に手を出すだけなんて。
私は言われたとおりに、蛇口の下へとそっと両手を差し出す。
「ひゃっ……!」
勢いよく冷たい水が手のひらを打った。
「水が出たようですね。ヘルプ機能を終了します。」
「……ありがとうございます。ヘルプさん!」
思わず、ぺこりと頭を下げてお礼を言う。
(あっ……タオル……)
手を濡らしたまま、思い出した。
タオルってどこにあるんだろう?
備え付けられてるのかすらわからない。
(うーん……また、ヘルプさんに頼るか)
私は再び、左手の指輪にそっと触れた。




